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衆人環視のメリットとデメリット

今日で477本目の投稿。古い記事から昨日の記事まで、ありがたいことにたくさんのコメントをいただけるようになりました。読んでいただけているという実感は、心地いいプレッシャーになってサボれません。「衆人環視」という言葉がありますが、何かを続けるために「人の目を借りる」ことほど便利なツールはありません。名前も顔も出して、素性を明らかにするとなおさら緊張感が高まります。

「パノプティコン」は全展望監視システムのこと。イギリスの哲学者ジェレミ・ベンサムが設計した刑務所の構想です。円周上に配置された独房。「監視されているという心理的圧力」を利用した設計で、限られた監視者で多くの囚人を監視できる画期的なシステムでした。私は今まさにこの、「囚人監視」もとい「衆人環視」に身を置いてサボれない環境下で毎日のアウトプットを可能にしています。

現代では独房ではなく、広く社会一般にも広がりつつある衆人環視システム。私の場合は自ら進んでつくり、しかもポジティブに作用しているからいいのですが、例えば有名人がSNSを通じて一般社会の監視下に置かれている現状は少し窮屈です。オリンピックでもメダリストへの中傷が問題視されています。自らを殺める芸能人も目立ちます。心理的圧力が、人間の個性、自由な思想や行動を抑圧していて、この圧力に屈しない「強い個人」を集団から狂人として排除する動きもなくはありません。

組織における監視もあるでしょう。会社の文化や慣習、社内政治のもとでは、「そういうものだから、それでずっとやってきたから」という「正義」によってイノベーションが妨げられることもあります。日本でも結構な割合で起きる前例主義。前例があれば承認されやすく、前例がない企画はなかなか通りません。役職を持つ多くの監視人によって身動きが取れない新進気鋭の企画者。その様子はまさにパノプティコンに閉じ込められた囚人のようです。

米国・コーネル大学やフランスのビジネススクール・インシアード、世界知的所有権機関が共同で発行するグローバル・イノベーション・インデックスによると、「上司に反論しやすい文化圏ではイノベーションが起きやすい」と報告しています。年長者が大きな意思決定権を持つシステム構造がいったいどんな合理性があるのか?巨大な富につながるアイデアを生み出す若者や新参者。彼らに発言権や資源動員の権力を渡せばイノベーションが起きる確度は高まるはずですが、組織が大きくなればなるほど、極めてイノベーションが起きにくい特徴を帯びていきます。

スタンフォード大学のジェフリーフェファー氏は、「権力を得た人は、優秀だから出世したのではなく、野心的かつ政治的に動いたから出世したのだ」と説きました。大胆な直観、緻密な分析、論理でぶつかっていく人よりも、権力志向が強く、プライドを捨てて上司におべっかを使う人の方が出世する世界。監視された社会で、出る杭はどうしても叩かれてしまうのでしょうか。

いうまでもなく、すべての組織や社会がこのような窮屈さに縛られているわけではありません。ですが少なくない人がパノプティコンで苦しめられていることも事実。「noteを毎日書く」効用は間違いなくありますが、イノベーションが阻害されるという矛盾をはらむ衆人環視に注目してみました。

久保大輔




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