つらいとき、苦しいときに何を思うか?
こんな経験ありませんか?
買ったばかりの服を着て、美容院で髪を整えてきて、今日は待ち焦がれたデートの日です。いよいよ家を出ようとしたとき、鏡にうつるあなたの顔にフキデモノが。思いを寄せる異性との時間はフキデモノのことで頭がいっぱい。楽しい時間が歪められて残ったのは失望感。服も髪も気分も、ポジティブな要素は何一つ意識されませんでした。
「ネガティビティバイアス」
私たちの脳は、ポジティブな情報よりもネガティブな情報に対して敏感になるという現象です。悪い部分に気が向くと、気になって気になって仕方がない。なかなか切り替えができず、ずっと引っ張り続けて理想の自画像が歪んでしまう。脳はなぜこんな役に立たない機能を備えてしまったのか?
実はこのネガティビティバイアスは、「脅威のシグナル」とされ、人類の生存戦略として貢献してきました。脳の偏桃体は、ネガティブな情報に対して敏感になるよう進化することで、生存の確率を最大化しようと努めてきたとされています。目の前にライオンがいて何も感じなければ一巻の終わりですが、私たちは必死に逃走本能をかき立てます。これがネガティビティバイアスの本質。
ですが過去の出来事に対するネガティブな反すうは鬱(うつ)を助長します。未来に対するネガティブな反すうは不安へとつながります。ちなみに男性よりも女性のほうが反すう頻度が高い。それは生理学的な要因と、文化的な要因があるとされています。社会的地位が低かった女性は、人の意志で状況をコントロールできなかったので、危険に対して緊張感を持つ必要がありました。
ここで重要なのは「自分を批判しない」こと。ネガティブな状況に直面したとき、「大丈夫。失敗したかもしれないけど、致命的なことではない」と。
誰でも過剰反応することがあります。人はみなネガティビティバイアスがあることを踏まえたうえで、自分自身にやさしさと思いやりを向けることが大切です。
苦痛を抱えることは共通の人間の経験。日記には自分が悪いと思ったこと、痛みを感じたこと、困難な経験を明確に書きだしておいたらあとは「今、ここ」に目を向ける。慌ただしい人生のなかで、たとえそれがわずかな時間であっても、今なにが起こっているのかを、速度を落として気づく必要があります。
和らげ、なだめ、許す。
ありのままの感情を受け入れて、不快感に対して積極的に自分をなだめる行為を「セルフ・コンパッション」といいます。ネガティブな感情を嫌悪して避けてしまうわけではありません。辛い感情を経験することに対してむしろ意欲的に、同時にネガティブな感情の持続時間を短くすること。ネガティブな感情を受け入れることで新しいポジティブな感情を生み出します。
セルフ・コンパッションの度合いが高い人は低い人に比べて、好ましくない思考や感情を抑制しないことが研究で実証されています。今は苦しみのとき。苦しみは人生の一部。いま、自分にやさしくしてもいいのか。必要とされるやさしさを、自分に向けていいのか?自分をだます必要はありません。苦しみを否定するのではなく、苦しみを感じることが自然ということに気づくことです。
私の身近な人が今日、ひどい経験をしました。希望に満ちた日々を送っていたはず。ですが一瞬にして目の前が真っ暗になるような出来事に見舞われました。何を思うか?その人の心境を察するに余りあるネガティブな状況であり、私も沈痛な心を必死に抑えながら仕事をしていました。こういうときこそセルフ・コンパッション。自分を認める努力をするときだと思います。
久保大輔
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