「使うイメージ」ができなければ私たちは買わない
新しい市場は、人々の好みや技術の発達によって生み出されるだけではなく、売り手が人々の好みを積極的に変化させ、彼らの新しい可能性を教えることによって現れる。
これは、今読み進めている「エフェクチュエーション」に書かれていた一節。米国が世界の株式を飲み込むのでは?という見出しで米国企業の一人勝ちがここ最近の新聞で報道されていましたが、そのトップに君臨するApple社。同社は「顧客調査」をしないことで有名です。人々の好みを知ろうとせず、人々の好みを積極的に変化させて商品を売っています。
「満足いく石鹸を作るだけでは十分ではなかった。人々の、洗濯をするよう説得することが必要だった」という言葉にも惹かれました。スターバックス社の「Third place(第三の場所」というコンセプトは、「Third placeがほしい」という顧客の声を参考にしたかというとそうではありません。
イタリアのバールを模倣して、質の高いコーヒーを用意するだけなく(それは当然のこととして)、「家でもない、会社でもない、第三の場所でほっと一息つきませんか?」と説得し続けたからこそ、世界的な企業に成長できたんだと思います。
エジソンが電球を作ったとき、人々が「電球を求めていた」からではなく、発明された電球を列を成して待ち、買い求めたわけでもありませんでした。銀行、政治家を説得し、教育して丸め込み、ときにちょっと踏み込んだことをしてでも「電球を使う利点」を世に浸透させていったはずです。
ソニーがかつて開発し、世界的な大ヒット商品となった「ウォークマン」 今では「外で音楽を聴く」ことに何の違和感も抱かなくなりましたが、当時は誰も想像しえなかった光景です。大きなスピーカーとプレーヤーは部屋に設置するものであり、音楽を聴く場所は屋内と相場は決まっていました。屋外の選択肢はほとんどの人がもちえなかったのではないでしょうか。
「説得」に成功したソニー。「音楽って外で聴きたくないですか?」と人々に提案し、その情景を人々の脳裏に焼きつけるためにCMを量産したはずです。一人、また一人と購入者が現れ、あとは「口コミ」によってウォークマンは全世界に波及していったという成り行き。私たちは、誰の説得も受けずに「見たことがないもの」を評価することはできないのです。
皆さんが仮にいま、何か新しいことに取り組んでいるとしましょう。その商品やサービスの質を高めることはもちろんのこと、その「見たことがないもの」を使って人々がどんな楽しみを享受できるかについて言語化し、そのイメージを人々に植え付ける努力が必要不可欠です。何かの参考になれば。
久保大輔
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