見出し画像

反対意見が持つ力

集団が持つ力、圧力。同調圧力という言葉で表現されることもあります。社会的証明の原理は「影響力の武器」でも紹介される人間の心理現象です。通りを歩いていると上を向いている人がひとり。その人を見て自分も上を向く人はほとんどいませんが、上をむいている人が4人以上になるとほとんどの通行人も上を向いてしまいます。多くの人々が同じことをしていると、私たちはおとなしく、そして機械的に従います。「確信」が持てないときは、群衆の集合的知識を過度に信用してしまうようです。

これは見方を変えると、部外者になることを恐れる心理でもあります。結束の固い特殊部隊はPTSDになる確率が低いことが研究でも示されています。固い絆で結ばれた仲間。そこから脱退することは心に傷を残すことを意味しています。人は必ず多数派に流れる。集団思考と呼ばれる心理は、争いごとを最小にしたいという願望から、提示されたアイデアを批判的に評価できなくなったときに発生します。

ところが、聡明な学者や経験豊富なビジネスパーソンを集めて下した意思決定が致命的な結果を招いた例は数多く、ベトナム戦争はその事例のひとつとしてよく取り上げられます。最適な意思決定とはほど遠く、破滅的な影響を及ぼすことは、集団思考のネガティブな側面としてしばしば指摘されています。8人のサクラがいる中にひとり被験者を放つと、その被験者はたとえ自分が正しくて、8人全員が間違っているとわかっているときでも76%の割合で、8人の間違いを指摘できませんでした。

ところが、8人のうちひとりでも異議を唱えると集団の強制力がなくなり、被験者はその後の実験で毎回「正しい」選択をするようになりました。嫌われる能力、自分を危険にさらす能力、顔色ひとつ変えずに異論を唱えることができる人。かつて私たちは、地域社会で下されるすべての決定が生死に絶大な影響力を持っていると信じていました。右に進むべきだと思っても、集団が左に行けば左に行く。その方が「安心」そこに「正しさ」が入り込む余地はありませんでした。ですが集団思考に依存したおかげで家族や集団、地域社会全体が消滅してしまう可能性はゼロではありません。つまり、「集団思考を破壊する何か」は命を救うことになるわけです。

ケネディ大統領は、耳障りがいいと思われる前提で議論を組み立ててしまう慣習に疑問を唱え、キューバ危機を乗り越えました。「悪魔の代弁者」、あえて難癖をつける人の重要性を唱えたのはイギリスの政治哲学者・スチュアート・ミル氏。私たちも日ごろ、仕事や部活などの集団行動において、どれだけ「ひとりの反対意見」に耳を傾けることができるかは、歴史的に見ても価値ある思考と行動だと感じずにはいられません。

最近の仕事でも、そのような体験に幾度となく遭遇しています。意見をうっとうしいと思うか、改善のチャンスと思うか。その判断でせいしを分ける(あくまでたとえですが)となれば熟考の余地はあると思っています。

久保大輔




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?