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花について #03 花屋と芍薬

これまでにいろんな所で花を買ってきた。大きいチェーン店、小さいチェーン店、駅構内の花の売店、都心も都心にあるおしゃれなものしかない個人店、商店街の花屋、農協の園芸コーナー、ホームセンター、バラしか売っていない妙に安い店、スーパーの花コーナー、種苗店、あれやこれや。そんな風にして買い続けていると、だんだん自分にとって買いやすい店がわかるようになる。「玉子がおいしいのはいい寿司屋」みたいに、ここを見ればいいという基準ができるから。

わたしの基準は「芍薬を買った時に丁寧に説明をしてくれるか否か」。芍薬は5月頃になると店先に出てくる。「立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花」という諺があるように、華やかさと上品な鮮やかさが人の目を惹きつける。だから何の気なしに店先で見て手に取る人も多い。でも、その一方で開くまでの個体差が大きい花でもある。少しでも咲いた状態で買うならそれほど気にしなくていいが、つぼみの状態で買う場合は、その後の扱いに多少注意していなくてはならない。つぼみは丸い球のかたちをしているが、蜜が濃いので時に花びらをくっつけてしまい、自力で剥がせずにそのまま枯れてしまうこともあるからだ。花屋では基本的に、こうしたことが起こらないようつぼみの蜜を拭いたり、あまりに堅い時はつぼみを水につけて蜜を緩ませたりした上で販売してくれている。とはいえ、花は生きているから拭いた後も当然蜜を出し続けているし、それでまた貼りつくこともある。そんなことを知らなければ、せっかく買った美しく咲くはずの花もただ枯らすだけになってしまう。

だからこそ買う時に、つぼみが開かない場合があることや、開かなければ蜜を拭くか、最悪は水につけて緩ませた方がいいと教えてくれるか否かが気になってしまう。これまでの経験だと、小さい町の花屋さんは教えてくれることが多くて、チェーン店は大きな所でも教えてくれないことが多い気がする。あまり決めつけたくはないけど。

以前、有名チェーン店で自分の誕生日にと買ったかなり高価な芍薬が2本とも開かなかった。つぼみのことを知らなかったから、どっちも開かないことなんてあるのかと尋ねに行ったら、バイトっぽい兄ちゃんに「そういうこともあります」の一言で済まされてずいぶんガッカリした。買う時点でその「そういうこともあります」を教えてほしかったし、誕生日祝いにケチがついたようで今もそのチェーン店にはいい印象がない。で、その翌年に別の場所で買ったら「大丈夫だとは思うけれど、つぼみの蜜には気をつけてくださいね」と渡されたので、なるほど店によってこれだけ対応の違いがあるのかと思った。
それ以降は、その花屋が自分に合うかどうかを知りたいと思うと、芍薬を買ってみるようになった。花が店先に並ぶ5〜6月にしかできないので汎用性のある方法ではないけど、今年はちょうどこれからという季節なので書いた。

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