AI時代の今こそ、クリニックを開業したい理由
皆さん、初めてまして。脳神経外科医の林祥史と申します。このたび2024年10月に、東京都目黒区、東急目黒線「不動前駅」の近くに「けやき脳神経リハビリクリニック」を開院することに致しました。
今回Note1つ目の記事として、私がどういうクリニックにしたくて開院するかを書きとめておきたいと思います。
その話をする上で、忘れられない1人の患者さんとのエピソードがあります。
それは研修医1年目の2ヶ月目、神経内科のローテート中に出会った患者さんでした。私が神経内科にてはじめて受け持たせていただいたのは、ALSを患っていた患者さんでした。
ALSという病気は運動神経のみが侵される病気で、頭ではきちんと考えられる、触った感覚もわかるのに、徐々に体が動かなくなり、そのうち食べ物が飲み込めなくなり、そして呼吸やまばたきも自力ではできなくなってしまうという病気です。その患者さんは診断を受けてから外来に通院されていましたが、だんだん全身の筋力が落ちていき、歩行が困難になっていました。進行が比較的早く、前の日にできていたことが次の日にはできなくなる、その現実をなかなか受け入れられず、苦しんでいました。
そしてとうとう食事を飲み込むことができなくなってきたとき、主治医から入院して胃ろうを作り、そこから栄養をとることを勧められました。家族からの勧めもあり、ひとまず入院はしたものの決心がつかず、私が受け持った際は胃ろう造設術には承諾できないと強く拒否をしていました。そんな中、軽い肺炎もあったので抗生剤治療が開始になり、治ったら胃ろう造設についてまた話し合いましょう、という状況で入院していました。
「先生が言うように栄養を取るためには胃ろうを作らないといけないのは分かる。でも徐々に何もできなくなるぐらいならこのまま亡くなってしまったほうがよいのでは。」ご本人は駆け出しの研修医だからこそ、私に心を開き、涙ながらにその葛藤を教えてくれました。
これは、これまで医学部で学んできたことにはない、私にとって初めて現実の世界を目の当たりにした瞬間で、衝撃的でした。医療の現場では、ガイドラインにこう書いてあるからこうすべきだ、それが守れたら健康になり幸せになれる、という世界では決してなく、その患者さんの価値観や考え方で異なる選択枝であふれていることを思い知りました。
胃ろうを受け入れるかどうか、人生の大きな決断に悩んでいる患者さんに対して、当時の私はただ話を聞く事しかできませんでしたが、教科書をいくら読んでもわからない答えを探しに、なるべく病棟に行って患者さんに会うようにしようと思うようになりました。そして、そんな中で正しい医学的知識を背景に、本当にその人に取って適切な選択肢を示し、一緒に考えてあげられる存在が、医師の役割なのだと考えました。
病気の人もそうでない人も、100人いれば100人だけ、それぞれの価値観があります。医療という側面からその人に寄り添い、どうしたらその人らしく幸せに暮らせるかを一緒に考え、提供したい。またそれは患者さんにとってだけではなく、病気の人を抱える家族や介護者にとっても同じなので、家族みんながどうしたら幸せに過ごせるか、一緒に考え、お手伝いをしたい。これが、これまで19年間、医療の現場で多くの患者さんに接してきた中で熟成した、私のモチベーションです。
私の専門分野である脳疾患は、先天的な障がいを抱えている方もさることながら、これまで健康だった人が突然、脳卒中や頭の事故で障がいを抱えることになった患者さんが多くいます。そのような方たちが、どのように生きがいを(再)構築し、前を向いて生きていけるか。そのために必要な機能を体と心がどう獲得していくか。それは総じて作業療法であったり、理学療法であったりといった、「リハビリテーション」が取り扱う分野です。私がこれまで得意としてきた脳の病気や予防において、検査や投薬、栄養指導に加えてリハビリテーションを含めたアプローチを、ひとりひとりの患者さんに向き合って届けていきたい。それが、私がクリニック名に「脳神経」と「リハビリ」をつけた理由です。
令和6年の現在、ChatGPTを始めとする生成AIは急速に進化し続けています。医学的に正しい選択肢はいくらでもスマホが教えてくれるようになるでしょう。そんな中、時にはその選択肢を選ばない事の方が、その患者さんに取って幸せに繋がるのかもしれません。正しい医学的知識に基づきながらも、一人ひとりに寄り添った選択肢を一緒に考えてあげることが、地域医療を担うかかりつけ医としての本当の価値なのではないかと考えています。
もちろん、医師としての役割は限られておりますので、プロのチームで取り組む必要があります。クリニックの顔となる受付係や看護師、リハビリテーションスタッフ、また必要な検査を適切に行う検査技師や放射線技師が、みな同じ方向を目指して、それぞれの持ち場でプロフェッショナルとして働いてこそ、理想の医療が提供できると思います。
そんなクリニックで一緒に働きたい方がいらっしゃいましたら、ただいまオープニングスタッフを大募集中ですので、奮ってご応募ください!
https://toranet.jp/t/sp/T903040s.jsp?rqmtId=Y00LVV47&jbTypeCd=2008&srchLAreaCd=12&ecd=01&__u=17199298998772864745910240222146&vst=1
以上、私がクリニックを開院する理由でした。最後までお付き合いいただきありがとうございました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?