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「医師の働き方改革」は医者を「ワガママ」にするのか

けやき脳神経リハビリクリニック院長の林です。目黒不動前に今年の10月より開院予定です。

今回は少し「病院経営」の話をしたいと思います。私はこれまで2つの病院に院長として関与して参りましたが、経営会議などで何度か話題になったのは、「職能分業を進めるべきか、雑用まで含めて協働すべきか」問題です。ここでいう「職能分業」とは、医師は医師、看護師は看護師のできることにフォーカスし、その他の周辺業務は他のスタッフでカバーすることを指します。

世間では「医師の働き方改革」が注目を浴びており、いよいよ2024年4月から労働時間の管理・規制が義務化されました。また看護師についても、どの医療機関も人手不足が慢性化しています。医師、看護師が少しでも効率よく働ける環境づくりが病院経営では求められています。

その意味では、膨大な書類作成業務や「雑用」と呼ばれるような物の運搬や清掃作業などを医師以外が行う体制にし、医師はなるべく医師だけがやる仕事に特化して、他の仕事は分業した方が効率よくなるはずです。看護師についても、検査室までの患者さんの搬送や物品管理などの業務は看護助手に任せるという方法をとられている病院も多くあります。

効率的な経営という観点からみると、「分業」は正解だと皆感じると思います。これまで多くの病院で、医師は「医師以外でもできる」業務を背負いすぎていたと思います。実際これまで医師の過重労働に支えられて来た日本の医療制度なのですが、とうとう厚生労働省主導で医師の残業規制が行われることになりました。

       医師の働き方改革の利点
【医師】・必要な休息がとれる
    ・医師でなければできない仕事に集中できる
【患者】・より丁寧な診察
    ・疲労によるミスの防止
       他の職種に任せられる業務の例
【研修を受けた看護師】  ・人工呼吸器の設定の変更
             ・抗生物質の臨時の投与
【臨床検査技師】     ・病棟や外来での採血
【薬剤師】        ・薬の投与量の変更
             ・薬物療法の説明
【医療事務作業補助者など】・診断書の下書き
             ・患者の搬送

2024年4月から医師の残業時間に上限…診療はどう変わる?
2023年9月16日教えて!ヨミドックより抜粋
https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20230904-OYTET50018/

では、効率的な経営方針で分業を進めたらうまくいくのでしょうか?これまでやらなければいけなかった書類作成業務の負担が減ったり、様々な雑用が減った医師は、確かにゆとりがでて笑顔が増えるでしょう。ところが、時間に余裕ができた医師の中には、結局空いた時間にスマホを見ていたり、昼寝をしたりして楽に過ごす、という現象も見られます。

「なんで自分たちの雑用がふえて医師が楽をしているのか」こういう非難の声が、業務を振り分けられた事務の方などからあがってきて、冒頭のように「分業すべきか、みんなで分担すべきか」問題の議論が生じます。

この問題は結局、「理念の浸透」の問題だと私は思います。「ビジョナリーカンパニー」「パーパス経営」などとも言われますが、組織がなんのために活動をしているか、その理念をスタッフみんなが良く理解して、理念に基づいて行動をするという原則をいかに浸透させるかが非常に大事です。一般企業ではよく聞く話ですが、病院、クリニックではまだまだその考え方は浸透しておらず、職種、個々人の裁量や価値観で動いている部分が多い印象です。

(1)医師や看護師の過重労働が問題だから減らせるようにしよう
(2)労働時間を減らし、他のスタッフに分業 
という話で進めるのではなく、

(1)(例えば患者満足度をあげるというような)理念をより達成したい
(2)医師や看護師の過重労働が、接遇水準の低下につながる
(3)医師や看護師は接遇などより専門領域に力をいれ、他のスタッフはその分ほかをカバーする

という話をスタッフ全員に行い、主旨を理解した上でタスクシフトしていくと、「ワガママな医者」の誕生は少しは防げるかなと思っています。

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