見出し画像

クウェート議会の解散、憲法の一部条項の凍結

5月10日夜、クウェートのミシュアル首長は、議会の解散と4年を超えない期間において憲法の一部条項を凍結させる首長令を発布した。議会の権限は首長と政府が引き継ぎ、この期間において憲法の改正について進めることになる。1962年に成立したクウェートの憲法が停止されるのは、1976-81年の5年間、1986-92年の6年間に続き3度目となる。

首長令の発布にあわせてミシュアル首長は国民向けの演説を実施し、国家が大きな困難に直面しているために今回の厳しい決断をせざるを得なかったと説明した。

国民向けに演説するミシュアル首長
出所: クウェート国営放送

約20分間の演説においてミシュアル首長は、一部の議員が首相や閣僚の任命を妨害する等、憲法の価値や民主主義の原則を毀損する行動を継続しており、首長の権限である皇太子の指名についても干渉しようとしていると糾弾した他、汚職の蔓延について批判している。

過去2回の議会解散・憲法の一部凍結と同様、政府と議会の対立の激化が今回の内政の混乱の主な原因である。現在の議会は4月4日の選挙で発足したばかりの議会であるが、政府に批判的な野党勢力が過半数を維持し、改選前と同じく政府と対立する姿勢を継続していた。政府と議会が対立していることはクウェート政治の見慣れた光景であるが、ミシュアル首長の演説でも触れられていた通り、昨年12月に首長が交代した後、皇太子の指名がクウェート政治における大きな焦点になっていた。安定的な王位継承に向けて議会の干渉を排除することを優先したことが今回の憲法一部凍結の背景にあるのかもしれない。

政府は憲法の改正に向けて検討を進めていくことになったが、過去の憲法一部凍結期間においても改正案が検討されたものの、結果として改正は実現してこなかった。クウェートは中東域内においても民主化が進んでおり、憲法において議会の権限が広く認められている。議会の権限を縮小する改正が国民の大多数から支持される可能性は小さく、議会が解散されたとしても政府への批判は水面下で燻り続けることになるだろう。

もっとも、今回の措置が体制の不安定化に繋がるような大規模な大衆運動に発展する可能性はほぼない。クウェート国内においても議会が政府の決定を妨害していることを批判する人は少なくなく、今回の措置への評価も分かれている模様だ。首長令による議会解散・憲法一部凍結は法的な根拠のない超法規的な措置であり、民主化を後退させるものであるが、体制vs国民という対立構図には発展していない。

※首長令によって凍結された条項は以下の通り

  • 第51条(立法権は首長・議会に付与される)

  • 第56条第2項(閣僚は議会議員およびそれ以外から選出される)

  • 第56条第3項(閣僚の数は議会議員の3分の1の数を超えてはならない)

  • 第71条第2項(首長令は15日以内に議会に提出しなければならない。解散・閉会中は次の会期の初回会合に提出されなければならず、提出されなければ過去に遡及して効力を失う。また議会が承認しなければ、過去に遡及して効力を失う)

  • 第79条(議会での採択および首長の承認なしに法律が発効することはない)

  • 第107条(首長は議会を解散できる。議会解散から2カ月後以内に選挙を行わなくてはならない。選挙が行われなかった場合、解散された議会は憲法上の権限を回復させる)

  • 第174条(首長および議員の3分の1は憲法改正を提案できる。首長および議員の過半数が承認すれば議会は改正案を審議する。採択には議員の3分の2の賛成を必要とする。首長の承認により改正案は発効する)

  • 第181条(戒厳令下を除き、憲法の条項が停止されることはない。いかなる状況であれ議会は停止されることはなく、議員の免責特権が剥奪されることはない)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?