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BRICSとの協力を深める中東諸国

6月1-2日に南アフリカで開催されたBRICS外相会合は、サウジアラビア、UAE、イランの外相もそれぞれ参加し、加盟国の拡大や脱ドル化(dedollarization)についても議論されたことで、中東地域においても注目を集めている。

BRICSは2010年に南アフリカが参加して以来、現在のブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの5カ国体制で続けられてきたが、2022年以降、加盟国の拡大について積極的に論じられるようになってきた。南アフリカのBRICS大使によると、これまで13カ国が正式に加盟について打診してきており、6カ国が非公式に照会してきている。中東諸国ではトルコ、エジプト、サウジアラビア、イラン、アルジェリア、UAE、バーレーンが加盟意思があることを表明しており、高い関心が寄せられている。

もっとも、加盟国の頭文字が枠組みの名称になっていることにも示されているように、BRICSは加盟国を拡大させていくことを想定していた枠組みではない。加盟手続きの制度は存在せず、加盟の条件をめぐっては加盟国間でも意見の相違があり、どのように調整が行われるかも不明である。BRICSは8月に首脳会合が予定されているが、その場で加盟国の拡大について正式に決定されるかは疑問とする声も多い。

一方、BRICS銀行と呼ばれる新開発銀行(NDB: New Development Bank)についてもサウジアラビアの参画が協議されているが、こちらは実現可能性が高いものと思われる。上海に本部を置くNDBは設立当初から他国の新規加入を想定しており、原加盟国5カ国の出資比率が55%を下回らないこと、新規参加国1カ国の出資比率が7%を超えないこと等を条件に、加盟を認めている。2021年にはバングラデシュ、UAE、ウルグアイの加盟が認められ、2022年にはエジプトも加盟が認められた。

ロシアも主要株主であるNDBだが、NDBのプロジェクトの68%は米ドル決済であり、BRICSといえど米ドルに強く依存している状況にある。NDBは米ドルへのアクセスを確保するため欧米主導の対ロシア制裁を遵守しており、総資産の6.7%に相当する17億ドルのロシア向けエクスポージャーを保留し、資金調達にも苦労している。豊富な資金力を持つサウジアラビアの加盟はBRICS側からも歓迎されており、特にロシアは脱ドル化についての議論も加速させたい意向を示している。

NDBによるプロジェクトの決済通貨比率


投資先の多角化を進めるサウジアラビアにとって、NDBへの加盟はBRICSとの経済関係を深める上で意義のある一手であろう。将来のBRICS加盟交渉においてもNDBへの貢献が肯定的に評価されることは想像に難くない。一方、通貨制度や原油取引決済において米ドルに依存しているサウジアラビアにとって、ロシアが主張するような急速な脱ドル化の推進は望むところではない。欧米諸国の制裁下にあって米ドルから完全に離脱した経済圏の実現を望むロシアが主張する脱ドル化と、あくまで過度な米国への依存状態を解消してバランスを調整したいサウジアラビアが目指す脱ドル化には、大きな差がある。今年の初めにはサウジのジャドアーン財相が米ドル以外での債券発行を検討していると述べ大きな注目を集めたが、サウジは今年1月の100億ドルに続き、5月に60億ドルの米ドル建てスクーク債を発行しており、ドル離れに向けた舵は切られていない。

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