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イラン核交渉再開に向けた様々な取り組み

昨年9月に頓挫して以来、イラン核交渉は長らく停止している。一方、関係当局や周辺諸国は、交渉再開に向けた細い光を途絶えさせないよう、様々な試みに取り組んでいる。

一つは、米・イラン間での囚人交換である。イランはオマーンの仲介により5月末にベルギー、6月頭にデンマーク、オーストリアと囚人交換をしているが、こうした動きは核交渉再開に向けた前向きな雰囲気を醸成するものとして評価されている。オマーンのバドル外相は米国とイランとの間においても囚人交換の動きがあることを6月14日付のインタビューで明かしており、「(囚人交換の実現に向けた)合意は近い」と述べている。2015年に核合意が成立した際にも、その交渉に至る前にオマーンの仲介により米・イラン間で囚人交換が実現したことが、両国間での信頼関係の構築に至った。当時イランとの秘密交渉に従事した米国側の担当者はいずれもバイデン政権の高官であり、これが核交渉再開に向けた状況への打開につながることを期待していよう。

同じくイランとの交渉再開に向けた環境を整えるための試みとして、米国はイラク国内のイランの凍結資産の一部である27億ドルの解除に踏み切った。これはイラクがイランから天然ガスと電気を輸入しているものの、米国の制裁により代金の決済が出来ておらず、イラク国内で凍結されているおよそ110億ドルのイラン資産の一部を解除することになる。凍結解除されたイラン資産は、イラン人の巡礼費用や基礎的な生活必需品の輸入に充てられる予定である。こちらの交渉についてもオマーンが仲介にあったようで、5月28-29日にハイサム国王がイランを訪問した際に、イラクと韓国におけるイランの凍結資産の解除について議題に上げられた模様だ。

こうした環境改善に向けた努力もあってか、6月13日にはイランの核交渉責任者であるバーゲリーキャニー副外相(政治担当)はUAEでE3(英仏独)のカウンターパートと会談したことが本人から明らかにされた。これに続き、6月21日にはバーゲリーキャニーと、E3の交渉責任者であるエンリケ・モラ欧州対外活動庁事務次長がカタールで会談している。昨年9月に交渉が頓挫して以降、イランとE3の間で協議が行われるのは3月以来のことであり、交渉再開に向けた機運が久しぶりに高まっていると見て良いだろう。

6月21日のカタールでの会談の様子
出所:エンリケ・モラ事務次長のTwitterより

6月8日にはカタール資本の在英メディアMiddle East Eyeが暫定的な核合意が近いと報じ、にわかに合意実現への期待が高まったが、米・イラン双方ともそうした観測は事実でないと否定している。一方で、上記のような関係改善の試み、そして交渉再開に向けた政府高官同士の接触が増加していることは事実であり、核合意を復活させようとする関係者たちの思いは変わらない。6月11日にハーメネイー最高指導者が「(西側との)合意に何も問題はない」と改めて言及したことで、機を捉えようとする動きは加速していくかもしれない。

もっとも、こうした環境整備や交渉再開への前向きな姿勢は、仮に交渉が再開されたとしても、合意の実現に至るハードルを下げるものではない。昨年9月に交渉が頓挫したのは、イランが過去の核開発問題に対するIAEAの追求を停止することや、米国が核合意から再度離脱した際の補償を求める等、現行の核合意において規定されていないことを追加の条件として要求したことが主な原因である。米国、そしてE3の立場は、あくまで核合意を復活させることであり、イラン側の要請に応じて新たな合意を結ぶことは想定していない。いずれかが従来の主張を曲げて妥協しない限り、合意が妥結する可能性はないため、交渉は難航することが予想される。特に米国側は、昨年9月に起きたイラン国内でのデモを当局が弾圧したこと、イランがロシアにドローン等の軍事支援を行っていることを問題視しており、政府や議会内においてイランとの核合意に強く反対する勢力がいることが、交渉のボトルネックになり得る。

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