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イギリス ー Relationships and Sex Education(省略してRSEと呼ばれます/人間関係と性教育)は、子供たちを守るために必須

The UK(イギリス、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの4か国の連合国)では、突然、現在のイギリス首相であるスナック首相が、2024年7月にGeneral Election(ジェネラル・エレクション/総選挙)を行うことを宣言しました。
それに伴い、法律化するよう提案されていたことのうち、宙に浮いた状態になったものもあります。

そのうちの一つは、Relationships and Sex Education(省略してRSEと呼ばれます/人間関係と性教育)の改案です。
近年、このRSEについては、政治的な目的から、この授業内容を批判する動きも広がっています。
エヴァンジェリカンとよばれる、アメリカでは3分の1程度が信心しているとされているキリスト教から派生した宗教の信者の声が大きいものの、保守的な考えをもっている人々や、ほかの宗教からの場合もあります。ただ、全体的にみれば、The UKでは、圧倒的に多数の人々がRSEを支持しているとの調査を、元先生でRSE専門家のJo Morgan(ジョー・モーガン)さんが挙げていました。
イギリスの独立系新聞ガーディアン紙のポッドキャストで、ジョーさんが、「What should kids be taught about sex and relationships? (性と人間関係について、子供たちは何を教えられるべきか?)」を語っていました。

私にとっては意外だったのは、このRSEがイギリスで学校の必修科目となったのは、2020年だそうです。それまでは、学校によって、きちんと時間を取って教えているところもあれば、あまり時間を取っていないところ等、さまざまだったそうです。
しかも、1988年から2003年までは、Section 28とよばれる、LGBTQに関することを学校で教えることを違法とする法律まで存在していたそうです。

ジョーさん自身は、カソリック系の学校に行ったし、その当時はRSEは必修ではなかったので、修道女の先生が、「セックスは男女の結婚のなかで子供を産むために行うこと」というカソリックの宗教のフレームの中で行われたため、LGBTQの子たちは自分たちが除外されたように感じただろうし、教える修道女も、この話題を語ることを居心地悪く感じていることが明らかで、この授業では何も学ばなかったとしていました。

ジョーさんは、長年の教師として子供たちと関わってきた経験、RSEの専門家としてリサーチ等も行っている経験から、子供たちに対してのRSEは必須だとしています。

反対を行う人々の議論は、世界中のどこでも似ているのですが、いくつかのよくある議論について、ジョーさんは以下のように答えていました。

RSEは、性行為をグラフィカルに描写し、教えるだけのもの

違います。
子供たちへのRSEは、局部の名前や身体のパーツの名前を正確にいうことができ、自分の身体と、プライヴァシーについてのバウンダリーをきちんと知ることです。
性被害があったときに、この知識は、子供たちが助けを求める力を与えます。

性被害を認識できることは、とても重要です。
RSEの知識がなければ、被害者となった子供たちは、被害にあってから長い間をおいて、自分にされたことが性加害だったのだと気づきます。
性被害にあったとき、RSEを受けている子供たちは、被害について声をあげ、助けを求めることができます。
これは、既に証明されています。
RSEは、子供たちを保護するのに役立ちます。

RSEを行う瞬間まで、子供たちは完全にイノセントで、性については何も知らない

それは、真実ではありません。
学校や地域、子供たちによっても異なりますが、13歳ぐらいでポルノグラフィーを目にする子供は多く、10歳以下でも1割ぐらいはすでに目にしているとされています。
これは、学校で、専門家である先生が、安全な場所で適切で正しい知識をもとに教わっているのではなく、オンライン上の不適切である可能性が高い情報から学ぶのは安全ではありません。
RSE授業では、子供たちとの対話が重要なので、よく聞く質問の一つは、「どういうのがポジティヴな人間関係で、どういうのがネガティヴな人間関係だと思う?」だそうです。
この質問に対しての答えから、子供たちが子供たちの間でどのようなことを話しているのかをある程度知ることができ、この中に、セクシャライズ(ひとをセックスの対象としてのみ捉え、非人間化したりすること)するような発言がある場合は、対話をどのように導くかを、注意深く観察・行う必要があるとしていました。

RSEは、子供たちをセクシャライズしている

それは事実ではありません。
RSEは、子供たちにとって重要であり、RSEを受けた子供たちは、最初にセックスをする時期を送らせていることが分かっています。
彼ら/彼女らが、最初にセックスをするときは、RSEを受けているので、安全(身体的に安全、心理的に安全ー健康な人間関係)なセックスを行うことが分かっています。
これは、若年で望まない妊娠を防ぐことにもつながっています。
もし私たちが、「セックス」と「身体」をタブーにし、秘密にして話し合いをすることをしなければ、性被害・性加害が起こることを可能にします。
RSEは、子供たちが安全でない情報(オンラインの不適切で事実でない情報等)からセクシャライズされることを防ぎます。

ジョーさんが言っていた、「セックス」「セックスのよろこび」をどう捉えるかというのも、興味深かったです。
多くは、男性側の欲求を満たすことに注目されがちですが、ジョーさんはこれは変わらないといけないとしています。
ここにはGender Equality(ジェンダー・イクォリティー/男女平等)の視点が入ることはとても大切です。

また、個人的に思うのは、日本でいう「セックス」ということばは、人間としての健康な関係(お互いを尊重し、イコールな力関係で、楽しい時間を共有する関係)を完全に欠いているようなものに感じるのですが、最初に健康な人間関係が築かれているところにセックスがあるというのは、ヨーロッパではごく普通の感覚ではないかと思います。
だからこそ、授業は「Relationships and Sex Education(省略してRSEと呼ばれます/人間関係と性教育」なのかな、と思います。

また、ジョーさんの、「子供たちとともに学ぶことの大切さ」という姿勢にも共感しました。
ジョーさんは、授業では、子供たちにどんな質問があるのかを聞くそうですが、子供たちが使う用語や現象を、ジョーさんも初めて知ることが多いそうです。
ジョーさんは正直に、知らなかったと言い、子供たちにどう意味かを聞くそうです。
その後、ジョーさん自身もしっかりとリサーチし、子供たちと一緒に、どうミスインフォメーションに立ち向かい、クリティカル・シンキングを行うかを共に学んでいるそうです。

また、ジョーさんは、楽しく、笑いの多い授業(=子供たちが自由に発言することが安全と思える環境で、積極的に議題に関わりたいと自然に思える)にすることも大切だとしています。
タブーを打ち破り、かつ誰もが安心して話せる場所(LGBTQの子やマジョリティーとは違う子たちも含めて)とし、子供たち全員が「これ(セックスや人間関係)は、自分にとってどういう意味を持つのだろう」と自分のこととして考えられることは大切、としていました。

ジョーさんは、今回政府が提案した案(ざっくり言うと、RSEの開始の年齢を送らせる)は、総選挙で現在のオポジションである労働党が勝つ可能性が非常に高いことからも、恐らく実現しないだろうと予測はしているものの、子供たちの生理開始の年齢も早まっていることが分かっているし、子供たちに人気のオンラインゲーム等の広告に性的なものが表示されるような現状からも、RSEの開始を遅らせることは、子供たちを危険にさらすことになると心配しています。
RSEの知識がない子供たちを性的に搾取するのは、大人にとっては容易いことは明白で、子供たちの安全を考えれば、RSEは重要でしょう。
ただ、子供たちではなく、大人たちの心の準備ができていないのかもしれません。

子供たちは社会的に弱い立場の存在なので、社会がしっかりと守る必要がある、というのは、社会契約として、しっかりと存在するものではあり、守るために、子供には知識が必要なのは誰もが合意するところですが、どういった知識がどの時点で必要かと言うことには議論はあるでしょう。
ジョーさんは、学校に両親たちを集めて、子供たちがRSEでどういったことを習うのかをしっかりと知らせて、話し合うことが大切としていました。
ちなみに、現在の法律では、子供たちが16歳になる3ターム前までは、親の意向により、子供がRSEの授業を受けないことが認められているそうです。
このフレキシブルさも、ある意味イギリスらしいと思います。

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