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現在のリアリティーに基づいた未来ではなく、インクルーシヴでヴィジョナリーのある未来をつくる ー パレスチナ人女性弁護士 Diana Buttu(ダイアナ・ブットゥ)

Diana Buttu(ダイアナ・ブットゥ)さんは、パレスチナ人の両親のもとに生まれ、カナダで育った女性弁護士です。
1948年にイスラエル建国に伴い、パレスチナ地域に住んでいた多くのパレスチナ人が、ユダヤ人に大量殺害されたり、ユダヤ人からの暴力やテロ行為で家や土地を追いだされ、難民となったため、アラブ諸国を含め、多くの地域にパレスチナ人は難民として逃げざるを得ませんでした。
1948年に難民となった人々の子供や孫たちも、多くはいまだに難民として、Stateless(ステイトレス/無国籍)で、定住する家や職業、教育にも大きな制限がある人々も多い状態です。
アラブ諸国を除いて、一番大きなパレスチナ人難民がいる国は、南アメリカのチリだそうです。
パレスチナ人の間では、「どうして(ユダヤ人は)パレスチナにきたの?ドイツ(ユダヤ人の迫害を一番残酷に大量に行った国)にイスラエル建国すれば良かったのに(=ユダヤ人を迫害したのはドイツなのに、なんの罪もないパレスチナ人をつかってドイツを含めたヨーロッパ全体でのユダヤ人迫害の罪を洗い流そうとするのは、不正義)」という冗談を、半分あきらめ気味にいうこともあるようです。

2024年3月に、The Intercept(ザ・インターセプト)のポッドキャストで、「We Have to Start Thinking In Terms of Decolonization (私たちは脱植民地主義という観点から考え始めなければなりません)」というタイトルで、興味深い話をしていました。
ここから聴けます。

ダイアナさんは、人権弁護士として、Outspoken(アウトスポークン/率直なものいい)にパレスチナの人々のことを語りますが、パレスチナの女性や子供が大量に殺害されている中でも、ダイアナさんは、正義が行われる希望を失わず、闘い続けています。

ダイアナさんが、「decolonization/デコロナイゼイション(脱植民地化)」の観点からみる必要があるというのは、もともとの問題の根っこから扱う必要がある、という意図からきています。

もともと、ヨーロッパで迫害を受け続けていたヨーロッパ系ユダヤ人に、パレスチナ地域をあげる、と勝手に約束したのは、イギリスです。(Balfour Declaration/バルフォー宣言 第一次世界大戦中の1917年)
イギリスと西ヨーロッパ諸国(フランス、ドイツ、ポルトガル、スペイン、イタリア、ベルギー等)の間で、地球上の約8割近くを植民地とし、さらに領地を広げて資源の強奪や原住民の労働力搾取を狙っていたので、オットーマン帝国を倒し、その領地を当時の植民地宗主国の間で、勝手に分割します。
この話し合いで、イギリスはパレスチナ地域の統括権をえます。
もちろん、ここでは、パレスチナ人やほかの原住民の意見なんて聞く気もありません。
植民地宗主国(西ヨーロッパの多くの国々で、白人+キリスト教が圧倒的マジョリティー)からすれば、有色人種は人間以下、という見方が圧倒的で、今もその影響は色濃く続いています。
Winston Churchill (ウィンストン・チャーチル)さんは、元イギリス首相(1940-1945と1951-1955)ですが、強い人種差別主義をもっていたことでも知られています。
数百年にわたって住んでいた先祖代々の土地からのパレスチナ人追放について、以下の内容のことを述べたそうです。(The untold legacy of Winston Churchill and the British Empire
「私は、the dog in the manger(飼い葉おけの中の犬ー飼い葉おけの中の犬が、飼い葉おけのなかの草を自分は食べられないのに、馬が食べようとするのを邪魔するという寓話からきているよう)が、どんなに長い間その飼い葉おけの中にいたからといって、その飼い葉おけへの最終的な権利をもっているということに賛同しない。
例えば、私はアメリカの(原住民の)インディアンや、オーストラリアの黒人(チャーチルは黒人と表現したけれど、原住民であるアボリジニのこと)に、ひどく間違ったことが行われたとは認めない。(=アメリカやオーストラリアでは、西ヨーロッパの白人たちが、突然アメリカ地域やオーストラリア地域に侵略し、原住民を殺したり奴隷にしたりして、彼らの土地や資源をすべて強奪したのは、間違ったことではない)
私は、これらの人々(原住民たち)に間違ったことが(植民地宗主国である西ヨーロッパの白人たちによって)行われたとは認めない。
なぜなら、事実は、(原住民より)もっと強くて、グレードの高い人種で、もっと世智に長けている人種(=西ヨーロッパの白人)がやってきて、彼ら(原住民)の場所を奪ったということだから(=グレードの低い人種が、グレードの高い人種にとってかわられるのは、手段がどうあろうとも正しい) 」
チャーチルさんは、女性に対しても労働者階級のイギリス人に対しても、見下す態度が顕著であったようですが、こういった見解をもった人々が政府のマジョリティーであれば、どういった政策をとるかは明らかでしょう。
植民地政策については、イギリスでは歴史の授業では美化されて短い時間で教えられているようですが、これも徐々に事実を教える方向に代わってきているそうです。
チャーチルさんも政治目的でサッチャー首相時代に特に美化された経緯があるようですが、ひとはとても多面的なものであり、偶像化することは危険であることの一例でもあると思います。
また、グレードの低い/高い人種なんて存在しないし、地球上の人類は99パーセント以上が同じ遺伝子をシェアしていることは既に証明されています
Eugenics(ユージェニックス/優生学)の始まりも、科学的な根拠は全くなく、植民地化した地域の人々を奴隷や人間以下として扱うことを正当化するためのプロパガンダであったことも研究されています。
チャーチルさんが生きた時代は、植民地主義の盛りと終わりの時代で、優生学も深く信じられていた時代でした。
イギリスの国営放送BBCのウェブサイトに、どう人種差別/白人至上主義の偽りを暴くかについての記事があります。
ここから読めます。

どんなに残酷な戦争や虐殺も、どこかで終わりますが、今回のガザ侵略後の計画についても、パレスチナ人たちが意見をいえる場所はありません。
アメリカや、イギリスやドイツといった旧植民地宗主国たちとイスラエルの間で、自分たちの都合のよいようにものごとを決めたがり、それが当然だと思っています。
イスラエルの状態は、Settler Colonialism(セトラー・コロニアリズム)の形態でアパルトヘイトだと多くの専門家の間で認識されていますが、それに、一番影響を受けるのはパレスチナ人なのに、話し合いにすらまともに参加できないことからも、この植民地主義は、まだまだ続いているといえるでしょう。
ここには、もともと植民地として支配されていた人々であること(=白人よりも下にみられていて、物事を決める能力がないと決めつけられている)も強く影響しているでしょう。

また、ダイアナさんだけでなく、多くの専門家も指摘していますが、パレスチナ人の中に、強力な政治的指導者(圧倒的に多くの人々は、暴力でなく平和的に交渉することを支持)が現れると、イスラエルが暗殺するか、長年牢獄へ閉じ込めるかで、パレスチ人が一致団結しないよう、多くの工作を長年にわたって行っています。
これも、国際法違反のはずですが、イスラエルは国際法をまげて解釈することに非常に長けており、この多くを真似したアメリカも国際法違反を多くおかしているため、アメリカの行った国際法違反に対して、ICJ(International Court of Justice/国際司法裁判所)で、裁判自体を開始しないよう、プレッシャーをかけていることでもよく知られています。
近年でも、アメリカ軍のアフガニスタンやイラクでの戦争犯罪を調査していた国際司法裁判官は、トランプ大統領時代に調査を開始しないよう警告を受け、それでも開始したため、財産の凍結(家族も含む)等の罰を与えらえていました。
バイデン大統領は、この罰を解除したようですが、どの権力からも守られて中立が保障されているはずの国際司法裁判所でさえ、アメリカや西側諸国の影響を避けられません。
それでも、こういった卑怯なバックラッシュに負けずに、本来の正義を求める仕事を着実に続けている裁判官もいます。
往々にして、これらは、少数派の女性裁判官であることも興味深いことです。

ほかの法律専門家も言っていましたが、国際法はもともと、植民地宗主国での間の争議や戦争・抗争を扱うための法律なので、植民地宗主国(圧倒的に軍事力・政治力・経済力のある搾取・強奪する側)と植民地国(抑圧され、基本的人権もなければ、なんの力もない人々)との間では、うまく適用できないことも多いそうです。
それでも、法律はすべての解決にはならないものの、正義を獲得する一つの手段としては有用です。
また、虐殺については時効はないので、現在の西側諸国の権力が弱まれば、今までに西側諸国が行ってきた虐殺やそのほう助についても、正義を求める裁判が将来的に行われる可能性も十分あることを、ダイアナさんは指摘していました。
United Nation(国際連合)も、第二次世界大戦の勝利国(=植民地宗主国の一部)から作られたものであり、拒否権がアメリカやイギリスのような第二次世界大戦勝利国にあり、地球上の多くの国々や人々の意見が無視される仕組みは、変わらないといけない、という声も多いものの、少なくとも他の国々が意見を表明できる場ではあります。

ダイアナさんは、1948年以降、ずっと続いているユダヤ系イスラエル人によるパレスチナ人に対するシステム的な国際犯罪(大量殺人、深刻な暴力でパレスチナ人の土地や家を奪う、国際的に認めらたパレスチナの土地に違法にユダヤ系イスラエル人の居住区をつくる、水等の生きるために必要な設備を奪う、平和なプロテストに対しての大量殺人、罪状もなく大量の子供を含むパレスチナ人を逮捕・監禁等)に対しても、きちんと記録を取り、発言を続けています。でも、多くの場合、西側諸国は目を背け続け、「パレスチナ人は、イスラエル側と話し合いをしなくては」と言うのが決まり文句だそうです。
この二者の間の力の差は、あまりにも大きくて、ダイアナさんは、「まるで(イスラエル側から)始終、銃をつきつけられているのと同じ(=対等で正当な話し合いは成立しようがない)」と言っていました。
もちろん、西側諸国は、この事情をよく理解しています。

ダイアナさんは、このガザでの虐殺がとまった後については、今の現状にしばられた決定をする必要はない、としています。
ダイアナさんは、「75年前には、イスラエルは500以上の村を破壊しましたが、多くの子孫はまだ生きていて、この地域には使われていない土地が十分にあります。
私たちには、もっとインクルーシヴでヴィジョナリーに未来を考えて、One state/Two-state(一国家解決/二国家解決)に固執せず、もっと大きく、広げて考えることができます
パレスチナ人には、自分のもともとの住んでいた場所に帰る権利があります
パレスチナ人が繁栄するために。
シオニズムは、植民地時代の大英帝国が行ったように、多くの絶え間ない暴力と殺害を通して原住民の抵抗を抑えることはできません
今の時代に、これは通用しません。
パレスチナ人は、ユダヤ人至上主義のなかでは暮らせません。
南アフリカは、アパルトヘイトから脱却したもののいまだに不公平な資源の分配が続いています。なぜなら、彼らは根っこにある問題を扱わなかったからです。
私たちには、根っこにある問題を扱い、よい社会をつくることが可能です」

また、この対談が行われたのは2024年3月時点ですが、この時点でも、イスラエルの国民の多くが戦争の継続を希望し、イスラエル国内で流行っている歌もパレスチナ人を非人間化するものであったそうです。
ダイアナさんは、イスラエルの教育システムを含むすべてのシステムが、パレスチナ人を非人間化しており、この紛争・虐殺が終わった後は、虐殺を二度と起こさないような特別な教育プログラムがイスラエルには必須である、としています。

さまざまな問題が山積みでも、ダイアナさんは、歴史的パレスチナ地域に住んでいる誰もが、人種や宗教に関わらず、同じ権利・自由をもち、平和に生きていける未来を信じ、前進し続けています。

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