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Root cause(ルート・コゥズ/根本にある問題)を理解し、解決することの大切さ

ヨーロッパにいると、戦地から報道するジャーナリストの多くが女性であることは、ごく普通のことです。

今回は、女性ジャーナリストでドキュメンタリー映画製作者でもあるSimona Foltyn(シモーナ・フォルティン)さんの鋭い中東状況の分析からです。
The Prospect Magazineは、無料で聞けるPodcastもあり、「What motivates Hezbollah, Iran and the Houthis? (何がヒズボラ、イランやフーシ派を動機づけているのか?)」というシモーナさんがインタビューされたポッドキャストを聞き、とても興味深かったので、記事も読みました。
シモーナさんの記事は、国際政治や経済について強いメディア、The Prospect Magagine (ザ・プロスペクト・マガジン)のここから読めます。

英語を技術的にだけでなく、文化的な背景やさまざまな概念も含めて理解できるということは、世界で起こっていること(結局は他の国々で起こっていることにもつながっている)をより深く理解し、世界中の人々に共感をもつことを可能にします。

戦地からの取材をする女性ジャーナリストは珍しくはないものの、シモーナさんはどこか一つの大きな組織に属しているわけではなく、独立ジャーナリストとして活躍しています。
イギリスの独立系新聞ガーディアン紙でも中近東地域について、記事を書いており、ここから読めます。

シモーナさんは、恐らくアメリカ出身ですが、アラビア語も流暢に話し、長年イラクのバグダッドに住み、中近東・アフリカ大陸で起こった多くの紛争についての報道をしています。
この、現地のことばが話せ、普通の市民たちと交流できるということは、とても大切であることは、シモーナさんも指摘しています。

シモーナさんは、現在、Red Sea(紅海)で起こっているイエメンの武装組織フーシ派からの船舶攻撃に対して、西側諸国(特にアメリカ)は、彼らがなぜそういった行動を取っているのか、という動機を理解することを拒否しているのか、理解せず、それは結局、ストラテジーや外交政策の間違いにつながり、中近東だけでなく、多くの国々に悪影響を及ぼすとみています。
大事なのは、彼らの動機を理解し、root cause(根本にある問題)を適切に扱うことです。

イギリスを含めたヨーロッパやアメリカの政府やメディアの反応は、型にはめたように同じです。
繰り返されるのは以下の2つです。

「フーシ派もほかの組織も、すべてイランから指示を受けているだけ(=フーシ派やイラクのカタイブ・ヒズボラも、自分たち独自の主体性やアジェンダはもっておらず、イランが命令したことだけを行う)」

「フーシ派が行っている船舶への攻撃・拿捕は、イスラエルによるガザ侵攻とはなんの関係もない」

シモーナさんは、どちらも間違った認識であり、真実/事実ではないと指摘しています。この間違った認識からは、正しい解決方法にたどりつくことができません
根本的な問題は、フーシ派やほかのグループが明言しているように、ガザでのイスラエルによるパレスチナ市民の大量殺人です。
これを適切に扱わない限り、(不当な扱いを受けたことに対する)腹立ち・抗議をお互いが繰り返すだけです。

最初の「フーシ派もほかの組織も、すべてイランから指示を受けているだけ」と言う説については、シモーナさんは真っ向から否定しています。
※シモーナさんの見解をもとに、私の考えも含めています。

アメリカは、レバノンのヒズボラ、イラクのカタイブ・ヒズボラ、イエメンのフーシ派はすべて、イランのProxy(プロキシ―/代理)で、自分たち独自の主体性等はもっていない、と括り、「イラン(悪魔の国)対アメリカ(文明の進んだ民主主義の良い国)」の戦い、と単純化したがり、それがメディアでも増幅されていますが、現実は全く違います

これらの組織は、「Axis of Resistance(抵抗の枢軸)」と括られることが多く、イデオロギーは、「(アメリカを主とする西側諸国の)占領に対する反対・抵抗、西側諸国からのネガティヴな影響に対しての抵抗」と、一致してはいるものの、その組織の拠点となっている地域により、国内的・地域的な優先順位や対応はかなり違い、ひとくくりに語ることはできません。
また、イランは西側諸国からの経済的制裁を長年受けており、経済状態はよくなく、石油の埋蔵量が世界3位にはいるぐらいのイラクは、イランより資金をもっと大量にもっており、イラクのカタイブ・ヒズボラは、イランの資金や助けが必要なわけではありません。

共通点は、これらの組織が生まれたのは、西側諸国からの侵略や占領が原因です。

レバノンのヒズボラは、イスラエルからの複数回にわたる残忍な侵略と長年の占拠から生まれ、強固な存在となりました。
このレバノンへの度重なる侵略も、目的は、パレスチナ地域と同様、Landgrab(ランドグラブ/土地を強制的に奪い取ること)だと、多くの専門家や研究者はみています。
イスラエルは、西側諸国ではないのでは、と思うかもしれませんが、イスラエルをヨーロピアンの最後の植民地outpost(アウトポスト/出先機関)と解釈する専門家は多いです。
なぜなら、イスラエルの建国をすすめたのは、ヨーロッパで迫害にあい、ユダヤ人のためだけの国をつくるためにやってきたヨーロピアン系白人ユダヤ人だからです。この、「原住民を暴力や殺人で追い払ってでも、その土地や資源を盗み、自分たちの国にする」という発想は、まさに多くの西ヨーロッパが数百年にわたって行ってきた「植民地政策」だし、アメリカやヨーロッパの国々にとっては、石油や資源を多くもつ中近東(植民地時代に中近東やアフリカでひどい行いをしてきたヨーロッパの国々に良い感情をもっている国はない)に、自分たちの一部(=ヨーロピアン系白人の多い、中東では唯一の「文明化された、民主主義のある」国ː イスラエル)があるのは、中近東へのスパイ活動や、戦争時のエネルギー補給等にも都合のいいものです。
Eurovision Song Contest(ユーロヴィジョン・ソング・コンテスト)というヨーロッパの国々から選ばれた代表が歌合戦を1年に1回行うイベントは、ヨーロッパではとても人気があるのですが、ここにもイスラエルが入っています。
イスラエルは、アメリカからの強大な武器供給、資金提供を建国当時から受け続けており、アメリカからのこれらのサポートがなければ、レバノンや、パレスチナ占領地域(ガザ、東エルサレム、ウエストバンク)への攻撃は続けられません。

実際、ガーディアン紙でMehdi Hassan (メフディ・ハサン)さんが指摘している通り、1982年にイスラエルがレバノンの首都ベイルートに11時間休みなしに爆撃を繰り返し100人以上の市民を殺害したときに、当時のアメリカの大統領、Reagan(リーガン)氏は、イスラエル政府に、意味のない残虐な殺害への怒りを表明し、今すぐ停戦するよう命令して電話を切った後、20分後には、当時のイスラエル首相から「完全停戦するよう防衛省に命令した」との電話を受け取ったそうです。
このとき、レバノンでは、Siege(シージ/包囲攻撃)が数か月にわたって続いており、現在のガザの状況のように、食料や水、電力が切断され、飢餓や伝染病がひろがっていたそうです。
停戦したものの、イスラエルの占領は続きました。ヒズボラが生まれ強固になっていき、イスラエル兵士の死傷者数があがったことから、イスラエルは2000年に撤退しました。
当然ですが、レバノンの人々は、イスラエルからのひどい扱いを忘れてはいません。

アメリカの現大統領のバイデン氏は、「アメリカにはイスラエルへの影響力はほぼない」といったことをさまざまな方法でアピールしますが、アメリカが兵器の輸出やサポート資金を少なくしたり止めたりすれば、イスラエル政府はガザでの侵攻を諦めざるをえないことは、専門家も含めて誰もが指摘しています。
でも、バイデン大統領は、これだけ多くのパレスチナ市民の死傷者が増えていても、武器をさらに送り、大きなサポートを続けています。

イラクのカタイブ・ヒズボラやイラク国内の他の組織は、アメリカとイギリスからのイラクに対する違法侵略(アメリカ政府とイギリス政府は、イラクが大量破壊兵器をもっているとでっちあっげ、2003年に侵略した)し、多くの無実の市民を誘拐して、拷問・殺害したり、規模の大きな爆撃を行い、市民たちが生きるために必要な多くのインフラストラクチャーや家屋も破壊・多くの市民の殺害をしたことから生まれ、強固な存在となりました。
イラクでは、アメリカやイギリスの兵士が上記のような多くの戦争犯罪をおかしたことも知られているものの、ほとんどの兵士はなんの責任もとっていません。
また、イラクが大量破壊兵器をもっているという、嘘の理由をつかってイラクへ違法侵略する命令を出したアメリカの元大統領のブッシュ氏や、イギリスの元首相のブレア氏は、国際司法での裁判を受けることはないまま、なんの責任もとっていません。彼らは、どちらも、侵略を行うことの正当性としてあげた「イラクが大量破壊兵器をもっている」ということが嘘であることを最初から知っていました。
彼らの目的の一つは、イラクがもっていた世界第3位の埋蔵量の石油をコントロールすることだったと見られています。
ウィキリークスのジュリアン・アサンジさんは、イラクやアフガニスタンでの戦争犯罪(アメリカ兵が市民やジャーナリストと知りつつ殺害を行っているビデオ記録等の多くの戦争犯罪)に関する機密資料を公開したことで、アメリカから国家機密ろうえい罪として引き渡しを求められ、長い間イギリスで投獄されていますが、これも、アサンジさんが西側諸国の戦争犯罪を暴いたからだとみている専門家も多くいます。
現在も、アメリカへの引き渡しを拒む裁判がロンドンで行われています。

国際法は、白人の国(以前の植民地宗主国で権力をもっている)には適用されず、第三世界(ほとんどは植民地にされ資源や労働力を搾取された国々で、貧しく権力がないか少なく、有色人種の国)にのみ適用される、と言われるのにも理由があります。
でも、これがいつまでも続いていいわけではないし、特に若い人々を中心として、こういった不正義に声をあげる人々が地球上で増えています。

もう一つの「フーシ派が行っている船舶への攻撃・拿捕は、イスラエルによるガザ侵攻はなんの関係もない」という西側諸国の声明については、フーシ派(イエメン)やカタイブ・ヒズボラ(イラク)は、明確に、ソーシャルメディアに「イスラエルによるガザのパレスチナ人に対する攻撃が終わるまでは、紅海を航海する船舶(アメリカやイギリス、イスラエルにむかう船)に対して、攻撃を行い続ける」と、何度も団結して表明しています。
しかも、これらの組織は、イスラエルのガザ侵攻が始まるまでは、紅海を運行する船舶に対して攻撃や拿捕は行っていませんでした。
そのため、これらのグループの声明が、真実である可能性がとても高いのですが、アメリカやイギリスは否定します。
もちろん、フーシ派は、地域での名声を上げたい等の欲望もあるものの、フーシ派も、フーシ派を好まない多くのイエメン市民にとっても、パレスチナ人大量殺害について心を痛め、すぐにでも殺害や飢餓をとめたい、というのは、誰もが一致してもっている本当の気持ちです。

この、パラレルワールドかと思わせるようなアメリカとイギリスの対応は、パレスチナとイスラエルの二か国解決策についての対応とも似ています。
イスラエルの極右派首相のネタニヤフ氏は、数十年にわたって、「パレスチナを国としては絶対に認めない、二か国解決は絶対にブロックして実現させない」と言い続け、現在でも明確に言い続け、イギリスのイスラエル大使も同じことを明確に言ったのにも関わらず、アメリカ政府が「ネタニヤフ氏は、二か国解決の可能性をとても前向きに考えている」と繰り返すことともよく似ています。
まるで、アメリカとイギリスは、自分たちに都合の悪い事実は全く聞こえないふりをし、事実をねじまげているようです。
アメリカもイギリスも、「自分たちは文明化され、民主主義で人権が守られモラルが高い洗練された国である。世界の国々のお手本」と見せたがりますが、現実は、どちらも、自分たちの利益でしか動かないのは、政治的決定や行動からも、とても明らかです。
このダブルスタンダードに対しては、どちらの国でも市民がデモンストレーションをしたり、政治家たちにNoをつきつけています。

多くの中東地域の専門家も、アメリカやイギリスが、フーシ派や他の組織の軍事拠点への抑制をきかせた攻撃のみを行い、中近東の国々の市民(レバノン、イラク、シリア、イラク、イエメン等)を殺したりしなければ、誰も状況をエスカレートさせたくないのは共通しているので、イスラエルのガザ攻撃が停戦されれば、紅海を航行する船舶への攻撃はストップするとみられています。

それにも関わらず、アメリカもイギリスも、先述した理由(フーシ派の紅海での船舶への攻撃とイスラエルのガザ侵攻は全く関係ない)を元に、どんどんフーシ派やほかの拠点(この拠点は中近東の複数の国にわたる)を何度も攻撃しています。
こういったアメリカやイギリスからの攻撃は今までも何度も中近東地域にはありましたが、常に罪のない市民が巻き添えにあうことになります。
でも、多くの場合、アメリカやイギリスの対応は、collateral damage (コラッテラル・ダメージ/軍事行動による市民の巻き添え被害)はつきもので、アメリカやイギリスの市民の安全を守るためには仕方ない、といったものになりがちです。
でも、テロリストが数人、どこかの家にいるかもしれない、ということを理由に、アメリカやイギリス国内で、市民が密集して住んでいる地域に爆弾を大量に落として、価値の高いテロリストだったから、数百人のアメリカ人やイギリス人市民が巻き添えで死傷しても仕方がない、という話にはならないでしょう。
ここでも、アメリカやイギリスといった、いわゆるCivilised Country(文明的な国ー実際はそうでなくても)の市民の命は、中近東やほかの国々の人々の命よりずっと重いといった態度を示しているものともいえるでしょう。
フーシ派への攻撃は、軍事拠点のみといいながらも、つい最近までサウジアラビアからの攻撃(アメリカやイギリスがバックアップ)と飢餓に苦しんでいたイエメンの首都への攻撃も含まれています。
アメリカとイギリスは、「Self-defence(自己防衛)のための攻撃」と言っていますが、イエメンはアメリカとイギリスからは距離的に大きく離れていて、アメリカ・イギリス市民への直接の攻撃がありえない状況で、この理由は、あまりにも拡大解釈しすぎたものだとみられています。

アメリカとイギリスがすぐに軍事力(暴力)を使うのは、彼らが軍事的・経済的・政治的に圧倒的に力をもっており、交渉したりすることなしに、力(軍事力・暴力)で押さえつけられると決めつけているからです。
でも、この結果は、誰の目にも明らかなように、結局は「西側からの軍事力や暴力で抑えつけられた地域に抵抗組織ができる→その抵抗組織に対して西側諸国が攻撃し市民を巻き添えにし、抵抗組織はより強くなる→ 西側諸国はさらに攻撃の規模や強さを大きくする→抗争はさらに悪化」の繰り返しで、結局は、この地域にたまたま生まれたり住んでいる普通の市民たちが一番苦しむ結果になりがちです。

カタールがイスラエルに対してどのくらい影響力をもっているかを聞かれ、シモーナさんは、以下のように答えていました。

カタールは、イスラエルに対してほぼ影響力はありません。アメリカが「イスラエルの自衛権」を主張し続ける限り、イスラエルにとっては、Carte Branche(カータ・ブランシュ/何かをする際の完全な自由)を与えられているので、この戦闘について止めたり、他の人々がいうことを考慮することは必要ないと思っているでしょう。

また、ICJ(国際司法裁判所)での「イスラエルはガザで虐殺を行っている可能性があり、虐殺を起こさないために最大限の努力を行う必要がある」という一時的な決断については、国際社会のプレッシャーも必要だけれど、結局は、イスラエルに大量の武器と多額の資金を与えているアメリカ政府が、それらをやめるまでは何も変わらないでしょう。アメリカ政府がイスラエルへの対応を変化させているようにはみえません。(2024年2月7日放送時)

人質解放については、人質解放は起こるべきで、一番簡単な部分ではあるけれど、傷口にバンドエイドを貼るようなもので、結局は、root causes(根本的な原因=イスラエルのパレスチナ人に対する70年以上にわたる不正義:イスラエルのパレスチナ地域占領・イスラエル軍事的独裁・アパルトヘイト政策・パレスチナ人への日常的な暴力や殺人・パレスチナ人の土地や家屋を盗むこと・パレスチナ人の子供たちを罪状なしや裁判なしで長年牢獄にとじこめる等)を正当に扱うしか、恒久的な平和への道はない、としています。


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