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5000万円の案件 vs 50万円の案件

From 安永周平

突然だがあなたに質問がある。あなたが年商5億ほどの建築会社の社長だとする。そしてこれから半年間、社内トップクラスの実力がある技術社に担当してもらうとしたら次のうちどちらを選ぶだろうか?

A:工期半年 5000万円の工事1件
B:工期2日 平均50万円の工事50件

売上5000万 vs 売上2500万


前提として上記案件が消えることはないとしよう。Aの5000万円の工事1件も、Bの50万円の工事1件も100%遂行されて売上は立つ。そのうえで、Aは工期半年…つまりはこの5000万円の工事1件だけを現場代理人(責任者)として半年間ずっとやることになる。他の仕事はほぼできないだろう。それでも、1人で半年間5000万円の売上をつくるのは凄いことでもある。

一方でBは50万円×50件=2500万円の売上だ。売上額で言えばAの半分になる。案件が消えるリスクは考えないので、売上だけで言えばAの圧勝だ。それにBのように案件が50件もあれば、手続きも量が増えて色々と手間がかかるかもしれない。もちろん利益率にもよるだろうが、営業面でも効率がよさそうなAを取るのが賢明だろうと思うかもしれない。しかし私の経験からいけば、おそらく最終的な利益は…

最終利益はBが大差でAに勝つ


Bが利益で大差をつけてAに勝つことになるだろう。というのも、年商5億規模の会社で5000万円の工事を請ける場合、ほとんどの場合は建物オーナーからの元請けではなくゼネコンやサブコンからの下請けである。この受注額自体、既に値交渉をされた後の金額だ。そして、5000万円もの受注額となると自社だけで完結する工事はほとんどない。基本的には自社ではやれない業務を協力会社・パートナー企業に依頼することになる。

受注前にしろ受注後にしろ、協力会社とも金額交渉をすることになる(それも複数) 元請けから相見積を取られて叩かれた金額で受注し、協力会社からは板挟み「うちもギリギリで、これ以上下げるのは厳しい」と値引きに抵抗される。こうした中で最終的に落としどころを見つけて着地させなければならない。もし担当の技術社員がこうした折衝に慣れていなければ、利益率自体が厳しい状態でスタートする可能性が非常に高いのだ。

社外のトラブルに振り回されるリスク


また1つの目安ではあるが、受注額が1000万円を超える大きな工事は、工程(計画)が自社だけでは完結しないケースがほとんどだ。作業を予定していた日の前日になって「前工程が終わってないから明日は作業できない」というケースは普通にある。せっかく人を手配しておいたのがパーだ。あるいは設計事務所の段取りが悪ければ「オーナーの希望により図面が変更になったので、この図面に沿って変更をお願いします」なんて連絡が来る。やり直しだ。

当然「で、その費用は誰が持つのか?」と現場に入ってる担当者の中で揉める。本来であれば原因をつくった会社がその費用を持つべきだが、実際には多重下請け構造における力関係によって「追加予算はありません」で押し切られることもある。とはいえ、請けた現場はなんとか納めなければいけない。仕切り直している時間もない…と結局、自社の利益を減らしてでも対応することになる。このあたりは本当にキレイごとだけではやれないのが建設業の現場だ。

経理の数字に表れている以上に手間を食う


こうしたトラブルで振り回された結果、最終的な利益率は下がり、人件費を引いて20%出れば御の字、悪ければ10%、下手すれば赤字…なんてこともあるのが長期の大型工事なのだ。そして、これら経理の数字に表れなていないところでも、他の社員のヘルプや時間外労働などでさらに多くの手間が発生している可能性もある。大型工事に対応できる体制を持っていない会社だと、いくら優秀な社員が担当しても利益を出すのは難しかったりする。

一方で、Bの50万円規模の工事だとまず関係者が少ない。そして元請けはもちろん一次請け(下請け)であっても、工程をある程度は自社でコントロールすることができるのでロスが少ない。それを安定して進めていくことで利益率が平均50%を超えることも現実としてある。Aの利益率が20%なら利益1000万だが、Bの利益率が50%なら利益1250万…なんてことが現実的に起こる。もちろん最初に前提条件を細かく言っていないので「クイズの正解はどっち?」なんてことを言いたいわけではない。そうではなく…

自分の得意なフィールドで戦うこと


自分が得意なフィールドで戦うことがとても大切なのだ。普段は単価10万円の案件をメインにしている人が、いきなり1000万円の案件を受注するのは営業面では確かにすごい。しかし、全く違う規模の案件では求められる能力も別であることが多い。もちろん規模を上げるチャレンジが必要なこともあるが、自分が最も価値を発揮できるフィールドで戦うのが「戦略」の基本であると忘れないようにしよう。

追伸:
自分が戦うフィールドを決めるために「戦略」を学ぶならこの一冊だ。特に資金体力やマンパワーが少ない小さな会社がスピードの速い市場に参入するのは要注意。リアルなストーリーで事例をひと通り知るのは価値があると思う

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