下請けのくせに文句を言うな
From 安永周平
ある食品メーカーの話だ。売上の大部分…というよりほぼ全てがある大手企業の下請けだった。大手であるが故に原価に厳しく、価格を下げられては低収益に苦しんでいた。こうした状況では、どうしてもお客様に対して恨みがましい気持ちになり、愚痴のひとつも言いたくなる。
しかし、いくら原価に厳しくても最大のお得意様であることに変わりはない。そのお得意様のおかげで今まで事業を続けてこられたのだとしたら、やはり感謝の気持ちで誠意を尽くすしかない。それができないのなら、そのお得意様と縁を切るべきではないだろうか。縁も切らず、誠意も尽くさずにお得意様を恨むのは自分勝手だと思う。
下請けで利益率が悪いのは当たり前
下請けという業態は、事業経営において最も難しい「営業」をする必要がないのだから、低収益が当たり前だ。営業力のある会社が元請けで仕事を取り、協力会社がその下請け(一次請け)で仕事を受注する。お客様の前面に立つ元請けの責任を果たすからこそ高収益を得ることができる。高収益を望むのなら、自社商品・サービスを持って元請けで仕事を取るしかない。
とはいえ、いきなり事業転換できる中小企業は稀だ。かといって、最大のお得意様と縁を切ってしまったら売上はほぼゼロになる。社員を抱えて経営する食品メーカーの社長が、突然そんな思い切ったことはできない。だとしたら、答えは1つ。やはり感謝の気持ちで誠意を尽くすべきだ。そして、恨みがましい気持ちを払拭するためにもう一歩踏み込む必要がある。それは何かというと…
お得意様の社長を好きになろう
そう、お得意様を好きになることだ。特に社長を好きになるのがいい。そんなの無理だと言わずに、まずは「いや、私はあの会社の社長が好きなんだ」と自己暗示をかけることから始めよう(笑) そして、前回のメルマガで言った「定期訪問」を始めるのだ。月1回、毎月訪問する。なんなら月2回訪問してみる。すると、しばらくすると心にある変化が起こる。
本当にお得意様の社長が好きになるのだ。もちろん仕入れ担当者のことも。これは「ザイオンス効果(単純接触効果)」と呼ばれており、1968年にアメリカの心理学者ロバート・ザイオンスによって発表された。人間は特定の人物や物事に何度も繰り返し接触することで好感度や評価が高まっていく。有名だからあなたも聞いたことがあるのではないだろうか。
こうなればしめたもので、得意先の社長とゴルフに行くために、やったこともないゴルフを始めるかもしれない。接待ではなくとも、一緒に食事に行って経営の相談に乗ってもらうようになるかもしれない。そうしているうちに、徐々に注文が増え始める。価格は厳しいけれども無茶な値段ではなくなる。現に先の食品メーカーでは、こうしたことが現実となり業績が上向いたそうだ。
業績を伸ばす社長は原価にシビア
こうした話は、何も下請けで仕事をする時に限った話ではない。特にBtoB事業では元請けでも起こる。取引先の社長が実力があって業績を伸ばしている経営者であれば、原価にシビアなケースは多い。私もつい先日、尊敬する経営者から仕事の引き合いをもらったので見積書を持って提案しに行ったのだが…予想以上に価格交渉で難航した。
正直なところ「人格者だしそこまで買い叩かれることはないだろう」と思ってたら、甘かった。しっかりと内容と金額を見て、自社の基準に合わせてほしいとのオファーが来た。私も社長として自社にとって不利になる契約をするわけにはいかない。色々とスケジュールや時間などを調整のうえで何とか折り合いがついたが、当初見込んでいた利益より下がってしまった。
「お客様」から「友人」と呼べる仲へ
だからこそ、この契約だけで終わらせてはいけない。今後の定期訪問が重要だと思っている。お客様になってもらうことはスタートで、ここから繰り返し会うことで「友人」のような信頼関係を目指していきたいと思う(注:馴れ合うわけではない)そうやって付き合っている中で、知合いを紹介してもらえたりするものだ。
セールスにおける普遍の法則「他の条件が全て同じなら、人は知っていて、気に入っていて、信頼している人に仕事や紹介を回す」というのは真実だ。人は信頼している顔馴染みから買いたいと思うし、大切な友人やお客様を紹介したいとも思うのだろう。繰り返し会うことで信頼関係を構築していくのは、小さな会社でもできる「地味だが強力な戦略」だと思う。
「価格交渉をしてくる人はTAKERだから付き合わない」というのも気持ちは分かるが、相手を見て判断するのはアリだ。原価にはシビアだけど、別の面で協力的なGIVERもいる。そう考えると、事業において「人を見る眼を養う」ことだけは間違いなく重要だと思う。付き合うべき人を見極めて定期的に訪問する。これを2年続ければ、業績は大きく上向くはずだ。それでは今週も頑張っていこう。
追伸:
人を見る眼を養うには「鬼の目」の使い方を知っておいて損はない。少し読みにくいけど、これ社長は必読だと思う
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