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#57 学び続ける理由 99の金言と考えるベンガク論-戸田智弘


寺田寅彦の一文を引用

実際作物の創作心理から考えてみても、考えていたものがただそのままに器械的に文字に書き表わされるのではなくて、むしろ、紙上の文字に現われた行文の惰力が作者の頭に反応して、ただ空で考えただけでは決して思い浮ばないような潜在的な意識を引き出し、それが文字に現われて、もう一度作者の頭に働きかけることによって、更に次の考えを呼び起こす、というのが実際の現象であるように思われる。 寺田寅彦(物理学者、随筆家) 「科学と文学」『寺田寅彦全集 第五巻』(岩波書店)

確かに文字に起こしていくうちに次々と言葉が浮かび上がってくるという経験は私にもある。ただ読書をするだけでなく、一度文字にすることでその言葉が自分の血肉となっていく実感が湧く。尊敬する平野啓一郎さんやショウペンハウエルも読書についてはそう言及している。ただ読むだけの読書では、あくまで娯楽に過ぎない。先人たちの英知を自分のものにする。過去の永遠の遺産から豊かさに満ちた時間を得るということは読んでる時間ではなく、むしろ自分の手で活字を起こしている時間にこそあるべきだ。そうすることにより思想を理解して、自分の過去の知見と照らし合わせ、新たなざいさんにしていく。そう言った意味で、寺田寅彦の言及は、非常にわかりやすい。

出典
学び続ける理由 99の金言と考えるベンガク論
戸田智弘 ディスカヴァー・トゥエンティワン

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