【25卒】 7大商社 徹底比較 (決定版)
絶対に、総合商社の内定を獲得したい学生、必見です!
はじめに
なぜ、「7大商社比較」が必須なのか?
総合商社は、新卒採用において過去から人気の高い業界の一つです。25卒においても、好調な決算、高い社会貢献性や成長性、良い待遇などを理由に非常に高い人気を維持しています。
しかし、「総合商社」は「グローバル」「大きなプロジェクト」といったイメージはあるものの、どのような使命を担い、どのような機能やアセット(ヒト・モノ・カネ)を持ち、どのようなビジネスモデル(収益を上げる仕組み)で、どのような社会課題をどのように解決し、どのように収益を上げているか、非常にわかりづらい業界です。取扱商品・サービスは多岐にわたり、さまざまなステークホルダー(利害関係者)と共に、グローバルにビジネスを展開しているため、つかみどころのない業態であると言えます。
ましてや「7大商社」の特徴や違いは? と聞かれても、「財閥系」or「非財閥系」、「組織型」or「個人型」、「資源に強い」or「非資源に強い」、ぐらいは分かったとしても、それぞれの会社の細かい特徴まではつかみにくいものです。そのため、志望理由を言う時には、どうしても「人」という視点に頼りがちになってしまいます。
でも、面接では「なぜうちを志望しているの?」と聞かれます。どうしたらよいか途方に暮れている人も多いと思います。
商社の業界研究については、一生懸命考えている人が多いように感じます。複雑でつかみどころのない業界ではあるものの、自分なりに商社業界とはどのような業界なのか、なぜ商社を志望しているかを語れる人はそこそこいるように感じます。
一方、7大商社の企業研究や比較については、十分に行なっていない人や行えていない人が多いように感じます。理由は、「企業研究の重要性を理解していない」「どのように企業研究を行えば良いか分からない」「時間が足りずそこまでたどり着けていない」「先輩の ”結局は人” というアドバイスを鵜呑みにしている」といったことが挙げられます。
結局、「社員訪問を通じてこのような人たちと一緒に働きたいから」という抽象的な理由を志望理由にしている人が、たくさんいるように感じます。結果、面接官の心に刺さらず、面接官から「またか」と思われ、不合格になっているケースが散見されます。安易に「人」を理由にしているため、熱意の面でもロジックの面でも、その会社で働きたいという想いが伝わってきません。
逆に言うと、十分な企業研究を通じて7社の違いを深く明確に理解し、その上で志望動機やビジネス構想を考えていけば、ライバルとの差別化が図れ、商社内定の確率がグッと高まっていきます。十分な企業研究を通じて深くその会社を理解していけば、だんだんと愛着や想いが湧いてきます。それに自分自身の原体験をからませ、「どうしてもこの会社で働きたい」「この会社でなければダメなんだ」といった想いや理由を、一貫性を持って熱く語っていければ、面接官の心に刺さります。
したがって、7大商社の特徴や違いを多角的に理解していくことは、商社内定の「王道」であると言えます。ただ、7大商社比較は簡単ではありません。7社比較が浅い多くの就活生にとって「人」でしか差別化できないかもしれませんが、しっかりと対策した就活生にとっては、7社は全く違う会社であることが見えてきます。
三菱商事は、総合力を発揮し、国の発展や産業の変革に大きく貢献する商社です。三井物産は、高い志を持つ強い個が、グローバルに活躍し、「つくる」を実現する商社です。伊藤忠は、「三方よし」の精神をベースとし商人としての使命を持ち、生活消費分野に強みを持つ商社です。住友商事は、「住友の事業精神」を継承し、目先の利益よりもサステナビリティを大事にする商社です。丸紅は、「正・新・和」の精神に基づき、商社の枠組みを超えて、自ら先頭に立つという気概を持った商社です。豊田通商は、トヨタのDNAを引き継ぎ、「豊田通商らしさ」を追求する商社です。双日は、社員一人ひとりの発想を尊重し、若手に裁量権の大きい商社です。
のちほど詳しく説明していきますが、この記事では、まず第一部で、「企業文化」や「人」などの9つの多面的な視点から、各商社を横並びで比較し、その違いを具体的に理解していただきます。次に第二部では、24卒商社内定者が、社員訪問やセミナー、面接などを通じて得た一次情報をもとに、リアルな各商社の違いを感じていただきます。
他の就活サイトは、表面的な説明に留まっていることが多いです。この記事を通じて、多面的かつ深く7社の違いを理解し、それを企業の志望理由やビジネス構想につなげていき、「どうしてもこの会社で働きたい」「この会社でなければダメなんだ」という熱い想いを、自分の言葉で伝え、商社から内定を勝ち取ってもらいたいと強く願っています。
もう少し具体的に、この記事のコンセプトについて説明していきます。
一般論として、企業の特徴を理解するための機会やコンテンツには、以下のようなものがあります。
会社説明会や社員訪問、インターンシップなどの機会を通じて(対面かオンラインかは問わず)、「一次情報」を入手することは非常に大事なことです。特に社員訪問は、社員から本音を聞き出す絶好の機会ですので、早めにスタートすることをお勧めします。
コンテンツについては、「採用ホームページ」に加え、「企業ホームページ」にも有益な情報がたくさん掲載されています。両方ご覧ください。また、投資家向けの「統合報告書」や「中期経営戦略/計画」には、経営方針、決算、人材戦略、マテリアリティ、セグメント情報など、重要な情報が網羅的に記載されています。こちらもぜひお読みください。最近は動画での配信も増えています。
ただ、これらの情報は、就活生にとって以下のような困難があり、重要であるにも関わらず、学生のみなさんにはややハードルが高いかもしれません。
そこで今回、7大商社について、私なりにわかりやすく網羅的に解説することにしました。7大商社を比較するにあたり、【第一部(基礎編)】として、まず各社の特徴を表す厳選されたキーワードを4つずつ列挙し、全体像をつかんでいただきます。そして、8つの観点から分析しました。各社を多角的な視点で分析することにより、その会社の特徴を浮き彫りにし、各社の違いを明確にしていきます。【第二部(実践編)】では、24卒商社内定者の就活を通じて得た「一次情報」に基づき、実践に役立つ情報を5つの視点で整理しました。
7社は同じ「総合商社」業界に属しており、共通事項はたくさんありますが、深く掘り下げていくと、各社の特徴が浮かび上がってきます。
この記事に書かれていることが全てではないということを認識してもらいたいですが、第一部(基礎編)の9つの観点からの分析は、かなりの部分を網羅しています。また、第二部(実践編)は、就活生の生の声を集めましたので、よりリアルに各社を理解できます。
ここに書かれていることを頭に入れた上で、社員訪問や企業セミナーなどに参加すれば、商社業界全体のみならず各社についての理解が一層深まり、志望理由を考える参考となると確信しています。
また、「統合報告書」や「中期経営戦略」なども合わせ熟読してみると、理解はさらに深まっていくでしょう。
それではさっそくですが、第一部(基礎編)から始めていきます。第一部(基礎編)は、各社の特徴を4つのキーワードで表すところからスタートします。まずは各社の特徴を大枠で捉え、全体像を把握して下さい。
第一部(基礎編)
1-1. 「キーワード」から「特徴」を学ぶ
三菱商事
キーワード:「三綱領」「国・産業」「総合力」「EX・DX」
「三綱領」
「三綱領」の精神は、三菱商事の社員に深く根付いています。「三綱領」は、「所記奉公」「処事光明」「立業貿易」から構成されており、それぞれ、「社会貢献」「フェアプレー」「グローバル」と表すことができます。三菱商事の社員は、一段高い視座を持って社会全体を良くしていきたいと考えている人が多く、公明正大で品格があり、紳士的な人が多い印象です。社内では役職や年齢に関係なく、「さん付け」で呼び合っており、お互いを尊重し合う組織風土が感じられます。また、全世界に110の海外拠点を有していますが、三菱商事のいち駐在員としてではなく、日本を代表するという意識を持ち、業務以外にも日本代表として駐在国や駐在地に積極的に貢献しているように感じます。
「国・産業」
1870年創業の三菱商事は、三菱財閥の一角として、三菱財閥のメーカーの原料輸入・製品輸出を担ってきました。そのため、当時から政府や海外との強いコネクションを持っており、現在も商社の中で、それが一番強い会社であると言えます。三菱商事は、日本のみならず世界中の国・地域の発展や、産業全体の変革に大きく貢献しています。そのためか、三菱商事は商社の中で、一番「戦略的」な会社であると感じます。会社として戦略を練り上げ、それを組織・個人に落とし込み、それぞれが連携を取りながら着実に戦略を実行しているイメージがあります。三菱商事が社員に求める能力・資質として、社会課題の解決に向けた「高い志」、時代を先取りして新たな価値を導出する「構想力」を掲げています。そのことからも三菱商事は戦略的な会社であると言えます。
「総合力」
総合商社はどの会社も「総合力」を有していますが、三菱商事が一番「総合力」が強い会社であると言えます。三菱商事が持つ「総合力」とは、本店・国内外拠点・事業会社などの「グローバルネットワーク」、幅広い産業分野における「顧客・パートナー」、豊富な「資金力」、多彩・多才な「人材」、金属資源・LNGなどの高い競争力とプレゼンスを有する「事業資産」、「インテリジェンスと産業知見」等を指します。また、三菱商事のグループ会社数は、商社最大の約1700社であり、産業接地面は一番広いと言えます。さらに、中期経営戦略2024では、「つなげ・つながることで三菱商事グループならではの総合力を最大化」を目指すとしており、三菱商事の「総合力」はますます強くなっていくでしょう。
その強い「総合力」を発揮して、より大きいことを成し遂げるのが三菱商事です。
「EX・DX」
EX(エネルギー・トランスフォーメーション)とDX(デジタル・トランスフォーメーション)を一体推進し、エネルギーの低・脱炭素化とデジタル技術の活用による変革により、未来創造(特に、地域創生)するという戦略を明確に打ち出しています。もともと三菱商事は、エネルギー・資源分野に強みを持っていますが、エネルギー・資源の安定供給と社会・経済活動の低・脱炭素化の両立を目指しています。また、DXによって、産業・企業・コミュニティをつなぎ、社会全体の生産性向上を図り、持続可能な価値創造を目指しています。そのEXとDXを掛け合わせ、新産業創出や地域創生などの未来創造を果たしていくという戦略です。エネルギー・資源とデジタルに強みを持ち、高度な総合力を有する三菱商事ならではの夢のある戦略だと感じます。
三井物産
キーワード:「志」「人の三井」「つくる」「グローバル」
「志」
三井物産は、社員一人ひとりの「志」が価値創造の源泉になっている会社であると言えます。社会のために、誰かのために、という熱い想いを持って、どんな困難があっても最後まで成し遂げるという強い意志を持つ社員が多い印象です。コーポレートブランディングである「その志で世界を動かせ。」に登場する社員からもそのことを強く感じます。三井物産を志望する人の志望理由は、自分自身の「志」を実現するのにベストなフィールドが三井物産だから、とする人が多いように思います。
「人の三井」
三井物産は、採用を含む「人材育成」を最重要に考えている会社と言えます。ここ数年、新卒採用において、自分史やケース面接の導入、インターンシップの必須化など、求めている人材を時間や労力を厭わず貪欲に採用しようとしている姿勢からもそのことが言えます。三井物産は、自立したプロフェッショナルが、お互いの個性を認め合い、協働し、新たな価値を創造し続けています。2020年に東京・大手町にできた立派な本社オフィスでは、社内外の知見・アイデア・専門性が交わり、知的化学反応が起きるような仕掛けをたくさん設けています。ちなみに、三井物産の英語の名称は、「Mitsui & Co.」ですが、「三井物産と仲間たち」という意味で、社名からも上記のことが言えます。
「つくる」
三井物産が創業以来培ってきたDNAに「挑戦と創造」があります。経営理念(MVV)の最上位概念であるMissionは、「世界中の未来をつくる - 大切な地球と人びとの、豊かで夢あふれる明日を実現します」ですが、そこに「つくる」という言葉が使われています。三菱商事や伊藤忠商事など、商社は社名に「商事」がつく会社が多いです。「商事」とは、モノを輸出・輸入したり、販売したりする会社のことを指し、トレーディングと同義です。一方、三井物産だけが「物産」を使っています。それは、三井物産の本業、すなわち存在意義は、新しい事業を創り、産業を興し、人を育て、新しいビジネスを生み出すことにあると考えているからです。また、持続可能な社会の実現のための経営課題である「マテリアリティ」として、「安定供給の基盤をつくる」など5項目を掲げていますが、すべてが「・・・をつくる」としています。
「グローバル」
商社の中で、世界中を飛び回っているイメージが一番強いのが三井物産だと私は感じます。いち早く総合商社化し、いち早く海外拠点を持ったことが影響していると思います。高い志を持つ個が世界中で奮闘しているイメージが強いです。他商社に比べ、海外留学生の採用が多く、また入社後活躍している割合が高いように思います。また、事業についても海外で展開しているものが多い印象です。2000年代後半から2010年代にかけて、金属資源(鉄鉱石・原料炭・銅など)やエネルギー(石油・LNGなど)に注力してきました。資源・エネルギーに偏重していると言われてきましたが、現在は、資源・エネルギーの強みを維持しつつ、社会課題の変化に合わせて、ヘルスケア・ニュートリション、再エネ、デジタルエコノミー、次世代モビリティなどに注力し、事業ポートフォリオの変革を進めています。
伊藤忠商事
キーワード:「三方よし」「商人」「非資源」「働き方改革」
「三方よし」
伊藤忠は、近江商人の経営哲学である「三方よし」、すなわち「売り手よし・買い手よし・世間よし」を企業理念とし、社員の心の中に深く浸透しています。「売り手良し」「買い手よし」に加え、「社員よし」「株主よし」も実践していますが、昨今は「社会よし」「環境よし」も強く意識しています。伊藤忠は、利益はもちろん、環境に、社会に、社員や株主のすべてにどれだけの価値を生み出していけるかに注力しています。
「商人」
伊藤忠は、1858年に近江商人の伊藤忠兵衛がおこなった麻布の持ち下りをルーツとしています。創業時から受け継がれている「商人魂」を今でも大切にしています。「商人魂」とは、「信用・信頼」「個の力」「倹約」「積極・機敏・合理」「自由闊達と謙虚さ」です。「商人」の会社ということから、お客さまから信頼を勝ち取り、お客さまに好かれることが大事ですので、採用においては「人物本位」の選考をおこなっています。
伊藤忠は、単年度の目標達成を大事にしている会社です。その根底には、中長期的な経営戦略を実現できると信じてもらうには、各年度における目標の着実な達成や経営戦略の連続性が重要であると考えているからです。コミットメントを重視し、目先のことを一つひとつ着実に実行していく社風があります。
「非資源」
繊維が祖業であり、重厚長大を支える国や企業とのパイプが、財閥系大手商社と比べて乏しかった伊藤忠の強みは、衣食住を中心とする「非資源分野」です。もともと強みを持つ「非資源分野」において、「マーケットイン」による事業変革に取り組んでいます。具体的には、消費者接点から得られるデータに基づき、多様化する消費者のニーズを的確に捉え、川下を起点としバリューチェーンを変革し、そのニーズにあった商品・サービスを提供しています。その例がファミリーマートです。
また、コーポレートブランディング「暮らす、愛する、商いする。」でも、一般的な人たちの生活にフォーカスしています。伊藤忠は一般の人たちに寄り添った商社であると言えます。
また、伊藤忠はビジネス以外にも積極的に消費者との接点を持とうとしています。具体的な取り組みとして、世の中のあらゆるSDGsに関する取り組みの発信拠点『ITOCHU SDGs STUDIO』、季刊誌『星の商人』、朝日新聞や大学生と共創する『ミライテラス』などが挙げられます。
「働き方改革」
もともと伊藤忠は、自らの足で商いを開拓してきたDNAを持ち、商いの規模が小さく顧客数が多い非資源分野に軸足を置き、「個の力」を養ってきました。伊藤忠の社員は「野武士」と表現されることが多いです。現在伊藤忠は、5大商社の中で一番「単体人員数」が少なく、少数精鋭の会社と言われています。そのため、社員一人ひとりが効率的に働き、「労働生産性」を高めていく必要があります。そこで伊藤忠は他商社に先駆けて、2013年より「働き方改革」を推進しました。朝型勤務制度や110運動、脱スーツデー、がんとの両立支援など様々な施策を次々に打ち出し、世間でも話題になりました。現在は、「働き方改革第2ステージ」を始動し、特に若手や女性社員の価値観の多様化に対応した施策を導入しています。
住友商事
キーワード:「住友の事業精神」「サステナビリティ」「DE & I」「社会変革」
「住友の事業精神」
「住友の事業精神」は430年にも亘り受け継がれています。「信用・確実」「浮利を追わず」「自利利他公私一如」「進取の精神」「事業は人なり」の5つですが、住友商事の社員にこの精神が深く根付いています。信用を大事にし、社会貢献性の高いビジネスを堅実に進めていく一方、デジタルやテクノロジーを活用して社会変革を目指すなど、新しいことにも挑戦していく姿勢が感じれます。
「サステナビリティ」
どの商社も「持続可能な社会の実現」と「企業の持続的成長」の両立に取り組む「サステナビリティ経営」に力を入れています。中でも、住友商事は「サステナビリティ」を経営のど真ん中に据えて、商社の中で一番長期的な視点で経営やビジネスをおこなっている会社であると言えます。常に、判断基準が目先の利益ではなく、長期的な社会への貢献と長期的な利益にあると感じます。2019年の創立100周年の際に発表した「次の100年へ Enriching lives and the world」は、サステナビリティを強く意識した内容となっています。
「Diversity Equity & Inclusion」
2020年に「グローバル人材マネジメントポリシー」を制定しました。その中で、「Diversity, Equity & Inclusion(DE&I)」を「価値創造・イノベーション・競争力の源泉」と位置づけ、DE&Iを妨げるあらゆるバリアを撤廃し、知のミックスを活かして、ビジョンの実現を追求するとしています。Diversityを「属性」の多様性だとすると、Inclusionは多様性を意識することなく、様々な人たちが自然体で最大限力を発揮し、活躍している状態だと言えます。商社の中で、住友商事がInclusionに一番近い環境にあると感じます。
「社会変革」
2021年に脱炭素・次世代エネルギー分野での次世代事業開発を目的として、組織横断的な組織である「エネルギーイノベーション・イニシアティブ(EII)」が新設されました。また、「量子コンピュータ(QX)」や「ローカル5G」といった最先端テクノロジーを、あらゆる産業において社会実装し、社会全体の変革を目指す取り組みに注力しています。商社はもともと「タテ(商品・サービス別組織)」が強く、VUCAの時代(先行きが不透明で、将来の予測が難しい時代)においては、タテ割り組織を打破し、ヨコの連携を強化していくことが課題と言われています。住友商事は、三菱商事と並び、社会変革を目指し、ヨコの連携に積極的な会社であると言えます。
丸紅
キーワード:「正・新・和」「Global crossvalue platform」「女性活躍推進」「グリーンのトップランナー」
「正・新・和」
丸紅初代社長 市川忍氏の訓示が起源の社是「正・新・和」は、丸紅という会社や丸紅の社員を的確に表すものであると感じます(正:公正にして明朗なること、新:進取積極的に創意工夫を図ること、和:互いに人格を尊重し協力すること)。
例えば、女性採用比率を50%を目指すのは「正」を、商社の枠組みを超えたGlobal crossvalue platform やコーポレートブランディングは「新」を、チームワークの良さやアットホームな社風は「和」を表していると考えます。
「Global crossvalue platform」
創業160年の節目の2018年に、丸紅グループの在り姿として「Global crossvalue platform」を定めました。商社は幅広い事業を行なっていますが、タテ割りの発想(商品・サービス分野)に縛られてきました。
丸紅は、このビジネスモデルを一新し、事業間、社内外、国境、あらゆる障害を突き破って、タテの進化とヨコの拡張、価値と価値の新たな変化を生み出すことを目指しています。つまり、「商社の枠組みを超える価値創造グループ」を目指すものです。また、「とがった丸」というメッセージを発信していますが、実際には、とがった丸など存在しません。そんな既成概念を覆し、世界が見たことのない答え、○を見せようじゃないか。というところに丸紅らしさを感じます。
「女性活躍推進」
丸紅は、新卒採用において「オープン採用」「キャリア・ビジョン採用(CV採用)」の2つの選考方法を用意しています。これらを同時に運営していくのは、とても時間や労力が掛かりますが、それだけ学生の強みや特徴を最大限評価しようとする姿勢を持った会社と言えます。面接の回数も4回と、他社よりも1回多いことからも、じっくりとその人を見極めていく、そして、学生にも丸紅という会社を理解してもらうということを重視していると言えます。
2022度には「女性活躍推進2.0」を制定し、新卒・キャリアをあわせた採用全体の女性比率を、自然比率の50%程度とする目標を掲げています。このことは就活に大きなインパクトを与えています。
「グリーンのトップランナー」
丸紅は、中期経営計画「GC2024」の基本方針の一つとして「グリーンのトップランナーへ」を掲げ、「グリーン事業の強化」と「全事業のグリーン化推進」を目指しています。グリーン事業とは、脱炭素・循環経済等、地球環境に対しポジティブな影響を与えるサステナブルな事業を指します。「グリーン事業の強化」は、丸紅が長年培ってきた森林・植林事業や再生可能エネルギー事業など。「全事業のグリーン化」は、カーボンフリー商材・サービスの展開、廃棄物のリサイクル環境配慮型素材への転換などです。
グリーン事業は新しい事業領域で、ロールモデルも前例もない中でソリューションが求められています。丸紅からは、自分たちが作ったすべてをロールモデルにしていく。そのために丸紅が先頭に立つ。といった気概を感じます。
豊田通商
キーワード:「トヨタ & M&A」「Be the right one」「現地・現物・現実」「アフリカ」
「トヨタ & M&A」
豊田通商は、トヨタグループの総合商社としての道を歩んできました。トヨタ車の販売金融からスタートしましたが、その後、完成車の輸出、さらにトヨタのグローバル化に伴い、海外進出を加速させていきました。2000年代に入り、加商株式会社、株式会社トーメン、アフリカに強みを持つフランスの商社CFAO社をM&Aし、総合商社化を図り、事業領域を拡大していきました。M&Aの際には、相手企業の特徴や企業文化を尊重し、多様性として取り入れることで、自らの強みに昇華させてきました。このように、トヨタグループとしての強みとM&Aを通じて培ってきた多様性の両方を備えているのが豊田通商の強みです。
「Be the right one」
豊田通商は、「豊通らしさ」をとても大事にする会社です。「豊田通商グループは総合商社というよりも専門商社の集団」という考えがベースにあります。ここで言う「専門商社」とは、他にはない 「ならでは」の専門的知見やネットワークを持ってお客さまに価値を提供する企業のことです。「タグ」と言い換えています。「何々と言えば豊田通商」とお客さまに言われるような「タグ」を増やしていき、それらの「タグ」が有機的に結び付く本当の総合商社になりたいと考えています。 これが他の商社にはない「豊通らしさ」であると言えます。
「現地・現物・現実」
豊田通商グループの役職員が共有すべき価値観・行動原則である「豊田通商グループウェイ」は、3つの要素、すなわち「商魂」「現地・現物・現実」「チームパワー」から成り立っています。中でも「現地・現物・現実」が、トヨタグループとしてのDNAを表しています。「現地・現物・現実」とは、事業の最前線である現場に寄り添い、知恵を絞り汗をかきながら、縁の下の力持ちとしてサプライチェーンを強くしていくという、トヨタグループの一員として大切にしている価値観です。商社はトレーディングから事業投資・事業経営にビジネスモデルを進化させ、Hands-On(経営人材を送り込み、経営に深く関与すること)で投資先を経営しています。その場合、戦略立案、管理・監督、重大な課題の解決を担うことがほとんどですが、一番現場に入り込み一緒になってオペレーションの課題を解決しようとしているのは豊田通商だと思います。
「アフリカ」
豊田通商(旧トーメン)のアフリカでのビジネスのスタートは、1920年代のウガンダでの綿花取引です。豊田通商は、1960年代になると英語圏であるアフリカ東・南部において、トヨタ自動車の完成車・中古車の現地販売や販売金融などの自動車事業のバリューチェーンを拡大していきました。また、発電所の建設や肥料の生産・販売など自動車事業以外にも事業を広げています。フランス語圏であるアフリカ中・西部に多くの拠点を持ち、B to Cビジネスに強みを持つCFAO社を2016年に買収しました。アフリカ東・南部に多くの拠点を持ち、B to Bビジネスに強みを持つ豊田通商とCFAO社の相乗効果は抜群で、ONE TEAMとなってアフリカ全土でビジネスを展開しています。現在特に注力している分野は、「モビリティ」「ヘルスケア」「消費財」「電力・インフラ・テクノロジー」です。豊田通商は、本社の組織として「アフリカ本部」という、総合商社で唯一の海外(ヨコ)の本部レベルの組織を設けており、自他ともに認めるアフリカ最強商社です。
双日
キーワード:「古くて新しい」「事業・人材を創造」「発想」「若手」
「古くて新しい」
双日は、2004年にニチメンと日商岩井が合併して誕生した新しい商社ですが、元をたどると古い歴史を持っています。ニチメンは1892年創業。日商岩井は1968年に岩井産業と日商が合併し誕生しましたが、それぞれの創業は1862年と1874年。各社が創業から100年以上の歳月の中で培ってきた事業創造のDNAは、現在の双日にも受け継がれています。一方で、若い会社ということもあり新しい発想も大事にしています。
「事業・人材を創造」
2030年に向け、双日の目指す姿は「事業や人材を創造し続ける総合商社」であり、マーケットニーズや社会課題に応える価値(事業・人材)創造を通じ、企業価値の向上を目指しています。そもそも総合商社としての使命を「必要なモノ・サービスを必要なところに提供する」ことと定義しています。一つひとつの事業創造を通じて、顧客やパートナーとの接点が生まれ、深まり、その次の事業へと繋がる。そして、その過程で獲得した新しい機能や人材の成長によって、新たなビジネスチャンスを捉えていく。双日は、そのように成長して続けてきました。
また双日は、事業を創造するためには、必ずしも双日の社員でなくても良いという柔軟な考えを持っています。例えば、双日OBのネットワークである「双日アルムナイ」、35歳以上の社員のやりたいことの支援する「双日プロフェッショナルシェア」、独立・起業を企図する社員を支援する「独立・起業支援制度」などのユニークな制度を設け、緩やかな双日グループを形成し、それらと連携して事業を創造しています。
「発想」
双日は、「発想」で新たな価値を創造し、それをビジネスとして「実現」する会社であることを表すため「Hassojitz(ハッソウジツ)」という造語を大々的にアピールしています。
2019年に、社長の発案で新規事業創出プロジェクトとして「Hassojitzプロジェクト」がスタートし、毎年開催しています。挑戦や発想を実現につなげる双日らしい価値創造の仕組みの一つで、社員一人ひとりの「発想」を起点とするビジネスアイデアが競われます。実際に新会社が設立され、4年目の社員が社長に就任したりしています。社員の挑戦を応援する風通しの良い企業風土のもと、組織を超えた共創の取り組みが進んでいます。双日の「発想」は、「戦術的」なもので、新しい視点を手段として直にビジネスにつなげていくイメージです。一方、物産の「志」は、「戦略的」のもので、社員一人ひとりが高い志を持ち、自分の信念を貫く家庭で生まれた付加価値をビジネスにしていきながら、その大きな志の実現を目指していくイメージです。
「若手」
双日は、2004年の合併の影響もあり、30代後半から40代の人員が不足しています。双日はもともと若手にチャンスを与える会社ですが、この人口プラミッドの歪みにより、本来、30代後半が担う役割を30代前半が、30代前半が担う役割を20代後半が担うというように、若手により裁量権のある仕事が回ってくる環境にあります。
加えて、指導員制度やメンター制度、Hassojitzプロジェクトなどの育成の仕組みも整えています。若いうちから裁量のある仕事を任されたいと考えている人にとって望ましい環境かもしれません。
1−2.「社長」から「想い」を学ぶ
社長が、対外的にメッセージを発信する機会は多々ありますが、正式にメッセージを発信する機会は、年に2回あります。それは、1月の第一営業日に発信する「念頭挨拶」。それと4月1日の「入社式挨拶」の2回です。それぞれホームページ上でプレスリリースされます。そのうち「入社式挨拶」は、新入社員に向けたものですので、社長が新入社員に対して求めていることを知る良い機会であり、就活にも大いに役に立つと考えています。
また、投資家向けに年に1回発行される『統合報告書/統合レポート』でも、冒頭の数ページを使って、社長メッセージが発信されています。
それらを元に、「どのような社会を実現したいか?」「そのためにどのような会社にしたいか?」「そのためにどのような社員を採用し育てたいか?」という3つ問いに対する私なりの答えを述べていきます。
なお、各社の社長メッセージに共通しているのは、「企業理念の徹底」です。各社の企業理念の中身については、『1-3.「歴史・企業理念」から「企業文化」 を学ぶ』を参照してください。企業理念とは、その企業の「存在意義」や「目指す姿」、事業活動を通じて創出される「価値」など、企業にとって根源的・根本的な最も大切なものです。これらを新入社員の時から徹底させ、物事を判断する時、行き詰まった時、失敗した時などに立ち返り、拠り所として欲しいというメッセージを各社長は発信しています。
三菱商事
【問1】どのような社会を実現したいか?
→ 先を予測して、『備える』ことができる社会
現代の社会環境に対して、中西社長は不確実性の高さを懸念しています。これは他商社と同様の視点ですが、他社との違いとして三菱商事は「半歩先・一歩先を読む」という特徴的な言葉を使用して、「予測して備える」ことに重きをおいている印象を受けます。
備えるためには様々な可能性を推測することが必要で、さらにそのためには多角的な視点で質の高い情報を取得することが必要だと考えられます。実際に『統合報告書2023』では、ロシアのウクライナ侵攻や、欧米の金融引き締め、中国の不動産不況などといった危機的な側面のみならず、米国のインフレ抑制法の制定による脱炭素関連の技術革新の可能性や、中国のEV化などの事業機会に関しても触れており、地政学、国際政治、経済、テクノロジーなどといった多角的な視点で世界を注視していることが分かります。変化のスピードが早く不確実性が高い現代だからこそ、グローバルにアンテナを張って情報を取得し、それによって先を予測し備えることで、危機を防ぐと同時に機会を活かすことができる会社を目指している様子が推測できます。三綱領における「立業貿易」の観点であると捉えることが出来ます。
→ EX・DXを通じた未来創造で、強い日本が復活する社会
三菱商事は、他商社以上に「地域創生」を掲げている商社です。世界中でビジネスを展開する企業であるものの、日本にルーツを持つ日系企業として日本経済を地域創生から盛り上げようと言う想いがあるのだと感じます。実際に、中西氏は現状の日本経済に関する危機感を下記のように述べています。
歴史を通じて古くから日本の国力向上に寄与してきた企業であるからこそ、日本を代表して世界中で事業を行い、日本経済の成長に貢献したいという想いが他商社よりも強いと感じられます。そのための手段として、EX・DXの一体推進を掲げています。世界的に不可逆の流れとなった脱炭素化に、デジタルの力を使った効率化で拍車をかけて新産業創出を手動する、さらにそれを地域産業と連携して行うことで強い日本を復活させることを構想しています。総合力を強みとして持つ三菱商事ならではの構想であると考えられます。
【問2】そのためにどのような会社にしたいか?
→ 1兆円規模の収益水準を維持できる会社
不確実性が高い中で、「備える」ことができる社会にするために、また強い日本を復活させるために、「循環型成長モデルの着実な遂行」という重要課題を定めて企業としての実力値を高めようとしています。「循環型成長モデル」とは、『中期経営計画2024』で掲げられた経営管理制度です。目まぐるしく変化する不確実な事業環境下で安定的な収益を維持するために、成長事業を目利きして取捨選択しつつ、新たな事業開発に注力するために経営資源を循環させる構想となっています。純利益1兆円越えの現状に甘んじること無く、積極的な事業入れ替えを決断することでビジネスモデルの陳腐化を抑制し実力値を高めていきたい想いが、具体的な制度として表れているのだと感じられます。
社会全体の利益のために、事業の「成長性」という観点に重きを置き、勇気をもって決断する三綱領における「所期奉公」の視点の現れであると感じます。
→ 「処事光明」の実践によりステークホルダーから信頼される会社
さらに、三綱領の「処事光明」にある通り、ステークホルダーから信頼されることも大切にしていると感じられます。2022年度の決算では初の純利益1兆円越えを果たし、名実ともに日本を代表する企業であると言うことが出来ます。それを受けて、ステークホルダーからはより一層の期待の目が向けられていると述べられています。
期待が高まり注目が集まるからこそ、気を引き締めて業務に取り組む必要があると考えられます。
日本を代表する企業として、実力と取り組み方の両面で、ステークホルダーから信頼され続ける会社を目指していると考えられます。
【問3】そのためにどのような社員を採用し育てたいか?
→ 社内外で分野を超えて「つながる」ことができる社員
中西社長は、随所で「つながる」というキーワードを大切にしています。
グローバルで変化の激しい社会環境を踏まえて、ビジネスモデルを刷新し続けて企業としての実力値を付けることを目指している三菱商事では、多面的に「つながる」ことが求められていると考えられます。質の高い情報を取得するための世界中とのつながり、他分野のノウハウを共有し合って産業を超えて新規ビジネスを創出していける社内でのつながり、経営人材として事業会社で業務する上での社外のつながり、これら様々なつながりのために謙虚な姿勢で広くコミュニケーションが取れる人材を育てたいのだと考えられます。
→ 共感されるビジョンを描き、計画して実現できる社員
「つながる」ためには、共感されるビジョンを持っていることが重要です。
倫理観をもってビジョンを描き、実現のための必要事項を計画し、それを共有することで周囲に共感されて協力されるのだと感じます。すなわち、社員には未来に対する目的意識を持つ習慣を求めていると推測できます。
→ プロになるために愚直に努力できる社員
「つながる」ため、ビジョンを描くために重要な要素として、プロを目指すということに関しても名言されています。入社式挨拶では、新入社員に対して下記4つのアドバイスをされていました。
本社・事業会社・海外駐在など様々なフィールドでの多種多様な経験を通じて成長できる環境である三菱商事ですが、そんな環境で「何気なく過ごさない」ということだと思います。商社パーソンとして最適な行動はなんだろう、と常に考えるプロ意識を持ち、事象や対話など自分の周りで起こる事に対して本質的な興味をもって主体的に考える習慣が重要だという解釈ができます。
三井物産
【問1】どのような社会を実現したいか?
→ 地球規模の課題をビジネスイノベーションで解決していく社会
現在の社会環境について、堀社長は下記のように認識していることが読み取れます。
気候変動、国際情勢、感染症などの環境の転換期において、社会課題の不確実性や複雑さはより一層増し、地球規模で取り組むべき課題になっています。例えば、中期経営計画の随所に記載されている「脱炭素」は、地球温暖化というグローバルな社会課題解決のために生まれたキーワードであり、一企業や一国だけでなく全世界的に取り組まなければ不可逆的な取り組みの一例です。そして、このような課題の解決には、①世界中の社会課題を掘り起こす、②地域や産業を横断してそれぞれの特徴を活かしたビジネスイノベーションを創造する、③ビジネスとして持続的に取り組むというフェーズが伴います。特に、環境変化の時代において、②ビジネスイノベーションが重要であると考えられます。実際に、2023年5月に発表された中期経営計画2026では「Creating sustainable futures」とのテーマを発表し、futureではなく「futures」と複数形を用いることで、異なる地域や産業が単体ではなく融合して共創する未来を目指すことを強調しています。
ビジネスを通じて既存の事業ノウハウや知見を地域・産業を超えて融合してイノベーションを起こすことで、地球規模で不確実性の高い社会課題の解決に取り組むことこそが、実現したい社会像であるといえます。
【問2】そのためにどのような会社にしたいか?
→ 産業を有機的につなぎ、新しい価値を提供する会社
三井物産は、前述の中期経営計画2026「Sustainable Futures」を実現するにあたり、次のような戦略を描いています。
堀社長は、「産業横断的」という言葉を年頭挨拶や統合報告書など多くの場面で使っており、不確実性や複雑さが増す現代社会において異なる地域や産業が連携し、従来なかった解決策を創出する必要性を説いています。具体的な戦略として、実際に三井物産では、組織設計などを通して事業部門間や地域間の垣根を低くし、「産業横断的」なビジネスを実現するフラットな組織づくりを進めています。
→ 個々の志を実現するためのステージをつくる会社
堀社長は「三井物産という会社は、社員一人ひとりの活躍の舞台」であると表現しています。志を持った社員が、それを叶える環境として三井物産という会社が存在するという立ち位置です。これは三井物産のDNAである「挑戦と創造」と「自由闊達」の考え方が深く影響していると感じます。実現したい社会から生まれる強い志は、社員一人ひとりが周囲を、世界を動かし事業を成し遂げる源泉であると、入社式挨拶に記載されています。
社員の志を起点に、困難な社会課題に対して挑戦し、これまでにない価値を創り出すことができる環境、その過程では同様に志を持った社員たちが自由闊達に刺激しあえる環境こそが、三井物産の社員にとってのあり姿であると考えられます。
【問3】そのためにどのような社員を採用し育てたいか?
→ 強い志で、やり切る人材
堀社長は「志」という言葉を多用しており、社員が自ら意志をもち主体的に会社や世界を動かしていくような組織を目指しています。2023年度入社式挨拶では、「周りのペースに惑わされず、それぞれの現場の実体験に基づき、自分自身の絶対値としての実力を高めて下さい。」と発言し、社員一人ひとりの活躍を期待しています。
また、社員には、「挑戦」をすることを求めており、三井物産は個人が自らの挑戦を実現する場であると説明しています。答えのない社会課題に対し、志を源泉として、諦めずにやりぬく精神が必要であると考えられます。
高い目標を持ち、最後までやりぬく実力を持つ新入社員を求めていると考えられます。
→ グローバルマインドを持ち、世界中の仲間との協業できる社員
三井物産はグローバル企業を標榜しており、日本を起点に世界規模で事業を行なっています。従って世の中の動きに敏感であり、高い視座をもって世の中の諸問題に対する現実解を見出す素質のある社員を求めています。同時に、社員には世界中の高い志を持つ人と協業・競争できる「世界基準のビジネスパーソン」になることを期待しています。
グローバル企業の一員としての自覚を強く持ち、異なる文化や考えをもつ多様なパートナーと関係構築できる人材の採用を通じて、三井物産が目指す地域・産業の横断的なビジネスソリューションの提供の実現を目指していると考えられます。また、幅広い地域や産業を融合させて生まれるイノベーションにより個人だけでなく仲間と社会課題に対する現実解を創造する力が求められます。
→ 謙虚な心で常に成長する意欲
世界中の強い志を持った仲間達と世界規模の課題に立ち向かう上で、出来ないことや自分の至らない点があることは当たり前です。しかし、三井物産の目指す姿でもある、プロフェッショナルとして信頼を勝ち取りステークホルダーから選ばれるためには、成長していく姿勢は必要不可欠です。成長には、現時点の自分を客観的に謙虚に把握して、目標との距離を認識することが重要と、一貫して入社式挨拶や年頭挨拶で述べられています。自分に足りない箇所を常に探し、三井物産の社員として成長を続けていくことが重要であると考えられます。
常に驕らず、謙虚さを忘れずにさらなる挑戦を続ける社員として三井物産の成長を支え続ける社員を求めているように見受けられます。
伊藤忠商事
【問1】どのような社会を実現したいか?
→売り手・買い手・世間の三方が共に満足する共存共栄の社会
伊藤忠商事は、近江商人の経営哲学である「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」、すなわち「三方よし」を企業理念としています。事あるごとにマネジメントから発信されていますので、社員に十分に浸透している企業理念だと言えます。石井社長COOは、2023年度の入社式で次のように語っています。
→商いを通して社会の課題を解決し、人々の暮らしを豊かにしていく会社
石井社長COOが、2023年度の入社式にて、新入社員の重要な心得を2つ語りました。その2つ目が上記の「三方よし」の精神ですが、一つ目に語ったのは、「グループ企業行動指針」である「ひとりの商人、無数の使命」についてです。
「商い」「人々の暮らし」というキーワードが出てきていますが、商人の会社として生活消費分野に注力している伊藤忠らしいキーワードであると感じます。
【問2】そのためにどのような会社にしたいか?
→商いの基本を大切にする会社
岡藤会長CEOは、『統合レポート2023』の冒頭のキーメッセージとして次のように語っています。
また、石井社長COOは、2023年の年頭挨拶において社員に対し、次のように語っています。
皆さんは、伊藤忠を「いけいけ、どんどんな会社」とイメージしている人も多いと思います。しかし、このように、商いの基本を大切にする堅実な一面も持ち合わせています。特に、会社の業績が好調な時ほど、慢心しないようにとこのようなメッセージが配信されることが多いです。
→相手の気持ちや状況を汲み取る会社
伊藤忠は商人の会社で、マーケットインを事業戦略の中心に据えています。『統合レポート2023』では、伊藤忠のテレビCMを見た視聴者に対し、その視聴者の想いに共感し、CMを収録したDVDをお送りした話や、世界的に著名な投資家であるウォーレン・バフェット氏をもてなした話が披露されています。その上で、岡藤会長CEOは次のように語っています。
また、同じく『統合レポート2023』にて、石井社長COOは、コロナによる行動制限が解除されたことを受け、「現場」の大切さについて次のように語っています。
トップマネジメントの2人が、表現は異なりますが、同じことを言っており、相手の気持ちや状況を汲み取ることを大切にしている会社であると言えます。
→「日本で一番良い会社」を目指している会社
『統合レポート2023』に、入社式のエピソードや、がんで亡くなった社員の話が出てきます。伊藤忠は、社員にとって、またその家族にとって「日本で一番良い会社」を目指している会社であると言えます。具体的には、「1-9 人材戦略から求める人材を学ぶ」と参照して下さい。
【問3】そのためにどのような社員を採用し育てたいか?
→「人間力」と「感性」を備えた人材
石井社長COOは、2023年度の入社式で、新入社員へのメッセージとして次のように語っています。
そのような「人間力」や「感性」を磨くためにすべきことについて、次のように語っています。
伊藤忠は、7大商社の新卒採用において、一番「人物重視」の会社であると言われています。その所以はこのような考えや想いが根底にあるのだと思います。
住友商事
【問1】どのような社会を実現したいか?
→持続的な「経済発展」が実現する社会
兵藤社長は、『統合報告書2023』において、住友商事が注力するビジネスとして3つの具体的な事例について言及しています。「アグリ事業」「マダガスカルのニッケル事業」「エチオピアでの通信事業」の3つです。
この3つのビジネスに共通しているのは、長期的な視点に立ったビジネスであること。相手国政府や地域社会、顧客からの信用の上に成り立ったビジネスであること。相手国および住友商事グループの持続可能性(サステナビリティ)と経済的発展・繁栄(プロスペリティ)の両立に寄与するビジネスであることです。
400年続く「住友の事業精神」である「自利利他公私一如」や「企画の遠大性」を象徴しているように感じます。
【問2】そのためにどのような会社にしたいか?
→事業を「やり遂げる能力」とステークホルダーの皆様からの「信用」の高い会社
兵藤社長は、『統合報告書2023』において次のように語っています。
住友の事業精神の一つに「確実を旨とし浮利に趨らず」があるように、住友商事は「信用」をとても大事にする会社です。「信用」は次の事業機会につながり、そこでも、「やり遂げる能力」を発揮すれば、次の「信用」につながり、その次の事業機会につながっていく。このように、価値を共創し続ける好循環を生み出す会社に今後もしていきたいと考えています。
【問3】そのためにどのような社員を採用し育てたいか?
→夢を持っている社員
兵藤社長は、2023年度の入社式にて、新入社員に求める3つの要素の1つとして以下のように語っています。
また、2023年社長年頭挨拶にて、住友商事グループの社員に対し、次のように語っています。
皆さんには、将来成し遂げたい夢や志はありますか?
ちなみに兵藤社長の夢・志は以下の通りです。
→主体性とチームワークのある社員
住友商事は、人材戦略の柱の一つとして「DE & I(Diversity, Equity & Inclusion)」を掲げています。多様な個性を尊重し、活かしていくということですが、その前提として、主体性とチームワークを社員に求めています。
この「主体性」と「チームワーク」、それと上記の「夢」は2023年度入社式にて新入社員へのメッセージとして兵藤社長から発信されたものですので、就活生である皆さんにも参考になるメッセージであると言えます。
丸紅
【問1】どのような社会を実現したいか?
→ みんなで未曾有の危機に立ち向かえる社会
7大商社の多くが、現代の社会環境に対して、先行きの不透明さや環境変化の速度の速さをビジネスチャンスと捉えていることが分かります。その中でも丸紅は、唯一「危機感」という言葉を使っています。
この「危機感」という言葉が使われた背景は様々あると思いますが、大別すると次の2つと推測します。
①何が起こってもおかしくない社会では、皆が協力し合う必要があるという危機感
②業績的に、今のままではダメだという危機感
②は後述の「どのような会社にしたいか」に関わりますが、①は丸紅が目指す社会に関係していると考えます。経済安全保障や、サステナビリティ、エネルギーなど、今の社会が抱える課題がグローバルベースで大規模だからこそ、1つの国や企業だけが頑張るのではなく、全世界的に協力することが必要と考えられます。
これまで、グローバルに地理的・時間軸を踏まえた価値のギャップを埋めてきた丸紅として、世界を繋げることをリードしながら未曾有の危機をみんなで解決できる社会を目指していると考えられます。
【問2】そのためにどのような会社にしたいか?
→ 現状に満足せず、総合商社の既存の枠組みを超える会社
前述の②のように、今のままではダメだという危機感を持っていると考えられます。5大商社のなかで業績が比較的低いのが現実です。たとえ前年の利益が好調であったとしても、そこで満足せずに、常に新しい事に挑戦していく必要を感じているのだと考えられます。企業理念である「正・新・和」の「新」の部分であるとも言えます。
既存に囚われずに、商社としてのホワイトスペースの事業など新しいことにチャレンジしていくことで、これから先も生き残れる会社になりたいという想いを感じることが出来ます。
→ グリーンのトップランナーとなる会社
一つの具体的な戦略が、グリーン戦略であると思います。
サステナビリティという全世界が抱える重要な課題に対して、森林事業などはこれまでにない新規事業領域です。他商社よりも力を入れて、パートナーから選ばれる丸紅になるということが会社としての理想像のように感じます。
【問3】そのためにどのような社員を採用し育てたいか?
→ 企業として社会環境の変化に対応すべく、多様な属性を持った社員
見通しが立ちにくい時代では、これまでに商社が取り組んでこなかった分野・領域での新規事業がチャンスになる可能性は大いにあります。逆に言うと、変化に対応できないと置いていかれてしまう危機的状況だとも言えます。国籍、性別、経験など、多様な背景を持つ社員たちが掛け合わさることで、そのチャンスを掴む可能性が高まると考えられます。
実際に、女性社員の採用比率を多くする試みが行われていたり、キャリアビジョン採用など他の商社が取り組んでいない採用方式を行ったりと、多様な人財を積極的に採用しようとしています。
→ スピード感を持ってチャレンジする社員
変化の速度が早い社会の中で、総合商社の既存の枠組みを越えるためには、とにかくスピード感を持って挑戦することが重要だと感じます。
変化への気づきのスピード、思考のスピード、アウトプットを提示するスピードなど、様々な観点があると思いますが、現状に満足しないで積極的に変わり続ける姿勢を持つ社員が求められていると考えられます。
→ 好奇心を持って、物事を疑問視できる社員
総合商社の枠を越えようとしている丸紅にとって、既存の考え方にとらわれないことは重要なテーマであると感じます。日々何気なくやっている行動や、周囲の動き、社会の動きに対して、本質的な興味を持って、なぜ?を考え抜く習慣が社員に求められていると考えられます。この気づきが発想の種になったり、周囲との関わりを持つきっかけになったりすると述べられています。
豊田通商
【問1】どのような社会を実現したいか?
→ 未来に責任を果たす社会
豊田通商はビジョンとして「Be the Right ONE」を掲げております。このビジョンは、「the right one for you, the right one for us, the right one for future 」という内容になっており、未来の社会のためにできることは何かを追求している姿勢が読みとれます。また、社長である貸谷氏は「統合レポート2023」にて「現在の社会のみならず、未来の社会に貢献」する必要性を発信しており、年頭挨拶や入社式挨拶でも「未来」という言葉を多くの場面で使用していています。そのことから、目先のことだけに捉われずに長期的な視野をもった経営を目指していることが見受けられます。
豊田通商は、1970年より使用済み自動車(ELV)のリサイクル事業を手がけており、早い段階から脱炭素・循環型社会に繋がる事業を始めていました。また、2022年度は未来の社会に向けた事業推進の具体的な戦略としてカーボンニュートラル(CN)・サーキュラーエコノミー(CE)を掲げました。実際に同年では、国内風力発電の業界No.1である㈱ユーラスエナジーホールディングスの完全子会社化や、自動車由来のプラス チックを水平リサイクルする㈱プラニックの工場稼働など、再生可能エネルギー事業や循環型事業への積極的な出資を進めました。未来の世代が安心・安全に暮らせる世界を実現するためにチャレンジし、未来に対して受け身で待つのではなく、主体的に創っていく社会を実現しようとしているように感じられます。
→ 個性を伸ばし、それぞれの「ならでは」を発揮する社会
豊田通商という会社は、豊通といえばアフリカ、豊通といえば自動車など、豊田通商「ならでは」といった他社にはない強みをもつ総合商社です。貸谷社長は2023年度の年頭挨拶にて社員全員に対して「自分の与えられた領域のプロフェッショナル」となり、他の誰にも負けない強みを持つことを求めています。
豊田通商は、2001年から2023年にかけて当期純利益は34.6倍、時価総額は16.9倍に伸ばし、大きな成長を遂げました。特に、時価総額については同期間の日経平均株価の2倍以上であり明確なステップアップを実現しました。この実績は、豊田通商が独自の専門領域を極め続け、「豊田通商ならでは」という唯一無二の立ち位置を築き上げた結果と言えます。このように、個性を極めることで成功を遂げた豊田通商だからこそ、社会全体としても人々が「唯一無二」を追求することを目指しているのではないかと考えられます。
【問2】そのためにどのような会社にしたいか?
→ 唯一無二の存在として選ばれ続ける会社
貸谷社長は「統合レポート2023」にて、ステークホルダーや社会の中での豊田通商の位置づけの変化について、以下のように述べています。
「Be the Right ONE」を掲げ、アフリカビジネスや再生可能エネルギー領域における強みを持ち「専門商社の集団」として存在感を示していることから、国や分野を問わずさまざまなステークホルダーから「選ばれる会社」であることへの強いコミットを感じられます。また、カーボンニュートラル・サーキュラーエコノミーを軸としたサステナブルを追求する事業特性や挑戦を通じて新たなステージを目指し続ける姿からは100年後も「選ばれる会社」として存続しつづけることを目指していると考えられます。
【問3】そのためにどのような社員を採用し育てたいか?
→ プロフェッショナルを目指す社員
貸谷社長は、「タグ」というワードを用いてそれぞれの社員が自身の領域で専門性と強みを持つことを求めています。入社式挨拶ではメッセージの1つとして「仕事の領域で誰にも負けないプロ」を目指すように説いています。
プロを目指すにあたり、他者や環境から学び成長する謙虚さや素直さ、愚直に努力し続ける力、高見を目指し続ける向上心など一つの領域を極めるために必要な粘り強い底力をもつ者を採用し、育てたいのではないかと考えます。
→ チャレンジし続ける社員
豊田通商は、2022年度を「次の新しいステージ」に踏み出す年として位置づけており、貸谷社長は「統合レポート2023」で豊田通商の近年の成長について次のように述べています。
また、同氏は「次の新しいステージ」という宣言は次のような意図をもって設定されていると説明しています。
その上で入社式挨拶では豊田通商が減点主義ではなく、加点主義の会社であり「失敗を恐れずにチャレンジしてほしい」と、挑戦を後押ししています。加速的に成長し、変化しつづけている会社の前線で走り続けられる力を持つ社員を求めていると感じられます。
双日
【問1】どのような社会を実現したいか?
→ 世界中の人々が生きやすい、社会
藤本社長は総合商社について、「必要なモノ・サービスを必要なところに提供する」使命を持っていると説明しています。双日の歴史を振り返ると、150年ほど前に神戸・大阪の地に創業した、鈴木商店、岩井商店、日本綿花の3社が源流になっており、砂糖や綿花、鉄鋼、石油、セルロイドの輸入に始まり、日本の近代化に向けた政策とともに、鉄の生産技術の海外からの輸入、人造絹糸の国産技術の開発を通して発展しました。双日のルーツは近代日本の国づくりに不可欠な資源を届ける役割を担う会社にあり、現在はベトナムを中心に国内だけでなく、国外にも「必要なモノ・サービス」を届ける企業として「生きやすい社会」を実現する役割を果たしています。
双日が掲げる「マーケットイン」とは消費者を起点とした事業づくりのことを指します。人々が求めることに応える社会の実現を目指している印象を受けます。
【問2】そのためにどのような会社にしたいか?
→ スキマに入り込み、ニーズに応えていく会社
双日は7大商社の中で会社としての歴史が最も浅く、事業規模は最も小さいです。実際、藤本社長は「統合報告書2023」の中で、同業他社と比較して双日について以下のように述べています。
しかし、同時に上述のメッセージの通り「双日らしさ」を発揮したビジネスを展開することで、「かゆいところに手が届く」ビジネスを実現しようとしている印象を受けます。実際に、藤本社長は社員に次のように伝えています。
規模が小さいからこそ実現できるスピード感ある機動性の高い事業や、風通しのよい社内環境を生かした発想力に富んだビジネスを実現しようとしているように考えられます。
→ 新しい種をまく会社
「New way, New value」は、現在の双日のグループスローガンです。双日は時代とともに新しく生まれ変わり、新たな価値を創出し続けてきました。双日は人事戦略の一環として「Hassojitzプロジェクト」を開始し、積極的に新規事業立案プロジェクトを行なっています。同社はこのプロジェクトへの参加者の年齢制限を撤廃するなど、より幅広い社員にアイデアを形にし、新しい可能性を生み出す機会を設けています。また、藤本社長は変動が激しく複雑化が進む現代の変化を「令和維新」と表し、急速に変わる社会を新たな価値創造の機会と捉え、双日らしい価値提供を行なうことを目指しています。
【問3】そのためにどのような社員を採用し育てたいか?
→ 可能性を創出できる創造力をもった社員
上述した通り、双日は会社として若く、資本力に限りがあるため総合商社としての価値創造機会を社員が創出する必要性があるように考えます。
市場のニーズを敏感に嗅ぎ取り、他社が現状応えきれていないニーズを見出し、可能性を諦めずに追求しつづけて事業を創る力を持った社員を求めていると感じます。
→ 開拓精神をもち地道に努力できる社員
藤本社長は双日発足時について以下のように説明しています。
他の商社と比較し、歴史が浅いからこそ、双日では「未だ何も無いところ」から実績と信頼を積み重ながら事業を進める必要があったようです。今後も、新入社員には前例が無い中でも粘り強く挑戦を続けられる人、またゼロから成果を出す高いコミット力を持つ人を求めているのではないかと思います。
1−3.「歴史・企業理念」から「企業文化」を学ぶ
「歴史」や「企業理念」をあなどることなかれ!
企業選びをする際、会社の「雰囲気」や、そこで働く「人」を重視している就活生は多いと思います。どのような雰囲気の中で、どのような人たちと一緒に働くかはとても重要な要素です。では、会社の「雰囲気」や、そこで働く「人」は、どのようにして生まれてくるのでしょうか?
それらは、さまざまな要因が複雑にからみ合い生まれるものですが、その軸となるのが、「歴史」と「企業理念」であると私は考えます。一般的に企業の寿命は「30年」と言われています。変化のスピードが早い現代ではもっと短いかもしれません。一方、世の中には、「100年企業」という言葉があり、それらは「老舗企業」と呼ばれていますが、商社の歴史は総じて長いと言えます。その長い歴史を通じて、また、長い間大切にしてきた企業理念を通じて、社風や人が少しずつ形作られてきたことでしょう。それでは各社の「創業年」を見てみましょう。
創業年が一番古い伊藤忠商事と丸紅は、1858年の創業ですので、2023年に創業165年を迎えました。双日は、日商岩井とニチメンが合併し、2004年に誕生しましたが、もとをたどれば、日商岩井の前身の日商が1874年、岩井産業が1862年、ニチメンの前身の日綿実業が1892年の創業ですので、長い歴史を持つ会社であると言えます。商社業界においても淘汰された会社は数多くありますが、この7大商社は長らく存続し続けています。それはなぜでしょうか? 理由は3つあると考えます。
つまり、「企業理念」を大切にしてきたからこそ、長い間、企業として存続・発展することが可能となり、そのことが「企業文化(会社の雰囲気や、そこで働く人)」を醸成していったと言えます。現在は、多様性の時代と言われていますが、「企業理念」という土台が会社の雰囲気や、そこで働く人を生み出し、その土台の上に多様性が広がっているということだと思います。
参考までに、1960年代以降の総合商社の変遷を下図の通りまとめました。1960年代に12社あった総合商社の企業数は、現在は7社に集約されていますが、それでも企業体という点においては変化の少ない業界であると言えます。
それでは、各社の歴史と企業理念について細かく解説していきます。なお、歴史については、企業文化に影響を与えていると思われる部分を中心に記載しました。各社の歴史は各社のホームページに掲載していますので、一度読んでみてください。
三菱商事
三菱財閥の「商事会社」として発展し、リーディングカンパニーへ成長
三菱の起源は1870年。土佐藩出身の岩崎彌太郎が海運事業を興したことに始まります。2020年は、岩崎彌太郎が海運事業を起こしてから150年という節目の年となりました。
創業当時の特徴は以下3つであり、これらが三菱商事の土台を作ったと考えられます。
このように、三菱商事は、三菱財閥の一角として貿易業務を担い、当時から政府や海外との強いコネクションを持っていたわけです。
その後、三菱商事は日本の生産品の輸出や、海外からの生産品・資源の輸入、最新の工業技術の日本への導入などを通じて、先行する三井物産を追いかけ、第二次大戦前には「総合商社」の業態へと進化を遂げていきました。
第二次世界大戦後の1947年、GHQの財閥解体によって解散、1954年に再興を果たし、現在の三菱商事が発足しました。
三菱商事は、三菱財閥のメーカーへの「原料輸入」の機能を担っていたことから、伝統的に資源ビジネスに強みを持っています。また、三菱財閥の中核会社ということで、各国政府とのコネクションも強く、大型プロジェクトを担う機会が多いのが特徴です。
三菱商事らしさは「三綱領」から生まれる
三菱には、150年の歴史の中で引き継がれてきた経営の根本理念があります。それが「三綱領」です。1920年の三菱第四代社長岩崎小彌太の訓諭をもとに、1934年に旧三菱商事の行動指針として制定されたものです。旧三菱商事は1947年に解散しましたが、現三菱商事においてもこの三綱領の精神は役職員一人一人の心の中に根づいており、三菱商事がビジネスを展開する上で、また地球環境や社会への責任を果たす上での拠り所となっています。
一言でいうと、「所期奉公=社会貢献」「処事光明=フェアプレー」「立業貿易=グローバル」と言えるでしょう。英語表記の方がわかりやすいかもしれません。
実際に、三菱商事の社員に対する私の印象も、公明正大(私心をさしはさまず、公正に事を行うこと)で品格があり、紳士的な人が多い印象です。
この「三綱領」の精神が社員に十分に浸透しているように感じられます。
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