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落合陽一らと“これからのファッションデザイン ”を考える「True Cloros Fashion」

“標準化”に抗うという、ダイバーシティの方向性:当事者として多様性を考えるメガ会議「True Colors FASHION」

日本財団が主催する「True Colors Festival -超ダイバーシティ芸術祭-」と、バリアフリーなオンライン劇場「THEATRE for ALL」のラーニング企画がコラボし、「True Colors FASHION メガ会議『多様性時代のファッションデザインとは?』 」なる200人規模のメガ会議が2021年3月5日(金)にオンラインで開催された。

一人ひとりの身体や生き方にフィットしたデザインは、どう生み出せるのか?「これからのファッションデザイン」について話し合う2時間のメガ会議には、メディアアーティストの落合陽一さん、起業家であり株式会社オトングラス代表取締役の島影圭佑さん、ファッションデザイナー・教育者の山縣良和さん、インディペンデントキュレーターの青木彬さんが登壇し、プレゼンテーションを行なった。バリアフリーに関しては、「特定非営利活動法人シアター・アクセシビリティ・ネットワーク“TA‐net”」と「Palabra株式会社」の協力により、手話通訳とUDトークによる文字支援が行なわれた。

本レポートでは、落合さんの発表を中心に、会議の様子をお届けする。

島影圭佑さん|当事者兼つくり手が増える文化を醸成する

ファシリテーションを務める島影さんの発表から、会議は始まった。まず島影さんが視聴者に「あなたにとっての、居心地の良い〈作る行為〉とは、なんでしょうか?」という質問を投げかける。Slidoを通して「3Dプリンタで『自助具』をつくること」「絵を描く」「掃除・型付けをする」「愛し、愛されること」など様々な回答が返ってきた。

島影さんは、父の失読症をきっかけに、文字を代わりに読み上げるメガネ「OTON GLASS」を仲間と共に発明した。その活動のなかで自らの生き方をつくる自立した弱視者やエンジニアと出会う。そこから現在は彼らと協働して、方法論を中心にした知の流通によって、自立共生する弱視者やエンジニアを増やす「ファブ・ビオトープ」というプロジェクトに取り組んでいる。プロジェクトを通じて当事者兼つくり手が増える文化を醸成する展望を語った。


落合陽一さん|あらゆるものがあらゆる形で自由になれる"自然"とは


落合さんは多様性と機械学習をテーマとしたプロジェクト「JSTCRESTxDiversity」の研究代表を務めている。今回は、現在進行形で進むxDiversity(クロスダイバーシティ)の実践の今について、話をしてくれた。

JST(科学技術振興機構)の研究プロジェクトである「JSTCRESTxDiversity」では、筑波大・東京大・富士通・SonyCSLチームとともに、計算機によって多様性を実現する社会に向けた超AI基盤に基づく空間視覚触覚技術の社会実装を行なってきた。この研究のテーマは「どうやって人の多様性をAIテクノロジーで支えるか」というもの。自動化された車いすやロボット義足がその一例だ。

人間がものをつくる/機械がものをつくることには、問題を見つけてそれを解決策にして解いていき、解決策としてマーケットに出すという一連の流れがある。機械が問題を解く時のキーパートは、AIをどう使うか、つくるか、もしくはどんなユースケースに何がはまるかを考えることだ。世の中にあるアプリケーションやタスクはたくさんあるが、そういったものと、コンピュータビジョンが扱う乗っているものーー例えばモノを認識する、ボディ構造をトラッキングする、自然言語処理、音声認識などーーをどうすれば最適に組み合わせられるかを考えていくのはとても重要な問題だと落合さんは言う。

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自らが研究代表を務める多様性と機械学習をテーマとしたプロジェクト「JSTCRESTxDiversity」について話す落合陽一さん。

さらに精度の高い文字認識など、“エンジン”は世の中にいっぱいあるが、それをどうユーザーインターフェースに落とし込んで使えるようにするか考えること、また、そういったものの整備をオープンソースでやっていくことも非常に重要な問題だという。それを仕組み化したり方式化するのも、落合さんの研究だ。

「研究において、互いの理解に対してどうやってデバイスを使えるか、どんなうやってワークショップのデザイン論ができるかとかいうことをまとめていくというのも我々のひとつの研究です。僕らのチームの面白いところは誰も障害を障害として捉えてないというところと、障害を個性と言い切るような標準性の悪意を、放っておかないところ。“標準化”というものは非常に問題だと思っていて、それに対してどうやって課題解決システムを作って自分たちで使っていけるのかっていうことに興味がある人たちの集まりなので、そこが非常にディスカッションしてても常に面白いです」

テクニカルな話以外に最優先課題となるのは、違いに寄り添うテクノロジーを見つけながら、個別課題から現場共通の課題を抜き出し、様々なデバイスやアプリケーションと自分たちのつくっているものを組み合わせて問題を解くことだ。
例えばJSTCRESTxDiversityは、のプロジェクトの一環としてチームメンバーである遠藤謙さんは、四肢のない作家・乙武洋匡さんとともに、義足や義手を使って「歩く」ことを目指す『OTOTAKE PROJECT』に挑戦している。

「N対1、つまりN対N(※)じゃなくて、1人のユーザーだけに寄り添うアプローチってなんだろうなと。乙武さんが歩いていく様子をひたすら追いかけていくっていうのは、ひとつの研究でもあるわけで、N人が使える義足をつくるのではなく1人が使う義足をつくること様子とそのチームがどうやって育っていくかということを考えていく点でのは非常に面白いなと。どうやって歩けるようにしていくかというのはおそらく1人じゃ解けない問題で、義肢装具士の人、デザインの人、理学療法士の人が入ることでその問題を解決しようていこうとする。そんななかで乙武さんは1年間練習を続けることで20mくらい歩けるようになった。プロジェクトのなかで生まれてくる人の輪やコミュニケーションを考えていくことは非常に重要だと思います」

※N:複数を示す 。「N対1」は「複数対1」、「N対N」は「複数対複数」。

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落合さんからは「あなたにとって自然とはどのようなものですか?」という質問が投げかけられていた。それに対する視聴者の回答は「無理をしていなく、いつでも訪れる、変哲のない状態」「環境の知覚と適応」「発散と収束、ありのまま、間」「自分らしく居れること」など。最後に、落合さんが自身の自然観について語る。

「僕の考える自然というのは、マテリアルトランスフォーメーション可能な自然。荘子がある日うたたねしていると蝶々になってしまった夢を見たという話のようにがあるのですが、僕のなかで“物化する自然”、あらゆるものが定型をとどめずあらゆる形で自由になれるというのはどういうことだろうというのが僕にとっての自然の探求です。そこで熱が失われるのか、何が変換されるのかという部分で、情報だけが変換されるならば、それはある種、物理現象よりももっと自由になれるんじゃないかという自然観を僕は持っています。そして、自然体が自然体のままでいられるというのは素晴らしいこと。そのために自然の側も歪めてしまっていいのではと思っています」

そんな自然観が実装されるような自然環境は人間にとって何なのかをよく考えるという落合さん。例えばXboxのアバターをつくる際に義足や義手、車いすがアイテムとして選べるようになったアップデートを受け、落合さんは“Computationally incubated diversity(コンピュータでダイバーシティが培養される)”とツイートした。障害を持っているからではなく、義足や義手が単純にクールだから選んでいるとすれば、ダイバーシティとしては正しい方向だと落合さんは言う。自由度や気にしなさをどのように互いに尊重できるかということが大切だと語った。

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落合さんからは「あなたにとって自然とはどのようなものですか?」という質問が投げかけられていた。

山縣良和さん|つながりや対話によって行なわれるべき表現


気鋭の若手ファッションデザイナーを世界に輩出し続ける私塾「ここのがっこう」を主宰する山縣さん。ここのがっこうは「True Colors FASHION」の一環として同時公開したドキュメンタリー映画『対話する衣服』の舞台でもある。この映像作品では、6人のデザイナーが様々な身体や心を持ったモデルと一緒に数か月間の対話をしながら衣服をつくっていくというプロジェクトが記録された。山縣さんはアドバイザーとして参加している。

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ドキュメンタリー映画『対話する衣服』について話す、「ここのがっこう」を主宰する山縣良和さん。

このプロジェクトを通して、表現は心と心のつながりや対話によって行なわれるべきだということに改めて気付かされたという。『対話する衣服』は、モデルの当事者の方々の身体性とその身体の歴史があった上で、彼らのエモーショナルな部分とデザイナーのエモーショナルな部分がぶつかって出来上がっていった作品だと語った。

山縣さんが視聴者に投げかけた「人生の中で体や心の不備やコンプレックスを感じたことはありますか?」という質問には、「男だからレディースサイズの服が着られない」「感情があること」「女であること」「感受性が豊か、繊細すぎる」などの答えが返ってきた。


青木彬さん|よりよく生きるための“切実な創造力”がつくりだすもの


4人目の登壇者は、キュレーターの青木さん。青木さんは2019年に片足を切断した義足ユーザーであり、福祉と根源的な部分でつながっているアートプロジェクトを実践している。
さらに「失った身体や環境が循環するような義足がつくれないか?」ということをテーマに、“発芽する義足”という名のオリジナル義足づくりを試みている。義足のソケット部分に、切断した右足の遺灰を入れ込んで、さらに義足で踏む地面の土から育った藍で染めた布を貼り合わせ、身体と環境の循環を実現させた。義足をつくる過程で、大正時代の作業療法や精神医療についても調べているという青木さん。調べを進める中でアートに通じるものを多く感じ、自分のキュレーションに対する考え方も研ぎ澄まされていったという。
当事者自身がよりよく生きるための技術として、アートというものが使われているのではないかと話した。

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“発芽する義足”という名のオリジナル義足づくりについて話す、キュレーターの青木彬さん。

そんな青木さんからの質問は「あなたにとって『切実な創造力』はなんですか?」というもの。それに対し視聴者は「なりたい自分に必要な要素を考える事」「その人なりの息苦しさに対して、その人なりに回答しようとする力」「自分が納得して生きるためのもの」などの答えを出した。

振り返り|4つの発表に共通するのは“標準化にあらがうこと”


すべての登壇者の発表後には、清水さんのグラフィックレコーディングを通じて振り返る時間に移った。4つの発表を通して浮き出てきたキーワードを“標準化にあらがうこと”として、清水さんがそれぞれの発表について解説した。

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清水淳子さんのグラフィックレコーディングを通じて、4つの発表を振り返えった。

双方向コミュニケーションを目指したイベント


この本会議シンポジウムは一方向的な登壇者のプレゼンテーションだけでなく、視聴者も巻き込んだ大人数の双方向コミュニケーションを目指したイベント。そのために、視聴者が質問したり回答したりできるQ&Aプラットフォームの「Slido」をツールとして使用した。また、質疑応答を活性化するために“オフィシャル質問者”という制度を設け、THEATRE for ALLディレクター/True Colors FASHIONプロデューサーの金森香さんをはじめ、WWD JAPAN.com編集長の村上要さんなど、様々なジャンルで活躍する10名が招かれた。

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視聴者が質問したり回答したりできるQ&Aプラットフォームの「Slido」をツールとして使用した。また、イベントでは手話通訳やUDトークによる文字支援も行われた。

さらに「miro」というホワイトボードアプリを使って、デザインリサーチャー・グラフィックレコーダーの清水淳子さんがこの会議の様子を記録した。リンクにアクセスすると、清水さんの動きをリアルタイムで追うことができる仕様となっていた。

また、振り返りの後は、視聴者が登壇者にSlidoのQ&A機能を使って質問をし、その質問をもとに議論する時間が設けられ、True Colors FASHIONは幕を閉じた。Slidoは3月10日までオープンになり、会議終了後にも登壇者と視聴者の間でコミュニケーションが取られた。

5月にはTrue Colors FASHIONのもメインイベントである、オンラインファッションショーも控えている。総合ディレクターには本イベントの登壇者でもある落合陽一さんを迎え、五感で感じる「服」をテーマに、身体の多様性に耳を澄ますダイバーシティ・ファッションショーを企画しているという。人は皆それぞれ、唯一無二の身体を持っている。当事者であるすべての人へ向けたこのファッションショーは、多様性時代を生きるためのヒントになるような、革新的なイベントとなることだろう。

True Colors FASHION ドキュメンタリー映像「対話する衣服」-6組の”当事者”との葛藤 –
監督:河合宏樹
https://theatreforall.net/movie/true-colors-fashion-documentary/
THEATRE for ALLはこちら https://theatreforall.net/

■ この記事は、令和2年度戦略的芸術文化創造推進事業『文化芸術収益力強化事業』バリアフリー型の動画配信事業によって制作されました。

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