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普段は聴こえない音を聴いて、“電磁な耳”を開く:視覚障害者と「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」を体験するワークショップ

アーティスト・ミュージシャンである和田永さんが首謀者となって活動を続ける「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」は、役割を終えた家電を新たな“電磁楽器”としてよみがえらせるプロジェクト。2021年2月27日(土)、視覚障害者がそのプロジェクトの面白さを体験できるワークショップが行なわれた。和田さんのレクチャーをもとに、自宅でできる実験を通してイマジネーションを広げていく本ワークショップには、視覚障害当事者3名が参加した。

・タイムテーブル

自己紹介|「音」に関わる人々が多く参加
リモート実験(1)|家電が電磁楽器に生まれ変わる
リモート実験(2)|縞模様から鳴る音でセッション

・自己紹介|多様な分野から「音」に関わる人々が参加


参加者のなかには、事故で中途失明をしたのち鍼灸院を始め、趣味でパントマイムをやっている方ほか、全盲のサウンドスケープデザイナー、同じく全盲でピアノの演奏活動をしている方など、音や表現にまつわる活動をされている方も多くいた。また、TfAではワークショップの監修やプログラムの企画に携わっている「視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ」チームも参加した。

nicosWS写真

・ワークショップ(1)|家電が電磁楽器に生まれ変わる

まず、今回レクチャーをする和田さんが、「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」について少し説明をする。

「エレクトロニコス・ファンタスティコス!(以下、ニコス)」は2015年に東京・墨田区に拠点を設けて立ち上がった。“オワコン”となったテクノロジーを楽器として見出した時には、まだまだ古い家電にも可能性が宿っているのでは、という考えから始まった。家電に、楽器としての第2の人生、アクロバティックな老後を送ってほしかった。近所の人にいらなくなった家電を持ってきてくださいと呼びかけると、ブラウン管テレビや黒電話、エアコンなどが集まったという。

和田さんは、家電がそもそもどういう仕組みで動いているのかを紐解きながら、楽器としての可能性を探っている。活動を始めて5年ほど経つと拠点も増え、今は東京と京都と日立に拠点を設けている。メンバーは和田さんを中心に、音楽活動をしている方やデザイナー、元々家電メーカーに勤めていた方、家電のエンジニアが本業の方などが参加。“昼はものづくり、夜は魔もの(電磁楽器)づくり”とうたい、探求を続けている。

ここで和田さんが用意したのは、サウンドクイズ。参加者に音を聴いてもらって、何の家電で演奏しているのかを当てるというものだ。ノイズミュージックのような音楽が流れる。正解はブラウン管テレビだった。原理としては、テレビの静電気を拾っているのだという。

次は実際に、普段聴こえない音をキャッチするとはどういうことなのか、参加者も巻き込んでやってみることに。参加者には事前にAMラジオの用意をお願いしていた。そのAMラジオにテレビのリモコンを当てて音を出してみるのが今回のワークだ。テレビのリモコンにも赤外線という信号があり、それをラジオに向けるとリモコンのメーカーや種類によって様々な音が聴こえるという。参加者はそれぞれラジオをつけて、リモコンを立てたり斜めに向けながら周波数を探っていく。うまくいくと「ピピピピ…」という電子音が流れた。AMラジオは中に赤外線を出すためのコイルアンテナを内臓しており、それで磁場を拾って音を出しているので、それにリモコンの赤外線が反応して音が鳴るのだ。

同じ原理で、今度は和田さんがカメラのストロボをラジオに当てる。すると「ヒュイーーーン、ドーン、ピロロロロロロ」というスペイシーな轟音が鳴り響いた。ストロボをたくことで、まさにSF映画に出てくるレーザー光線のような音が鳴り響く。ストロボは放電するためにチャージするので、その時に磁場がねじれるからなのではないか、という。

次に和田さんが流したのは、地球の磁気圏と太陽風の相互作用により生じる自然現象である“ドーンコーラス(夜明けの合唱)”。NASAのラジオで明け方に拾えるドーンコーラスは、電磁波を代表する音で、鳥のさえずりにも似ている。

ニコスがつくり続けているブラウン管を転用した楽器も、テレビの画面から出ている電磁波・静電気を拾うことで音を鳴らしている。さらにテレビに映る縞模様の本数を変えることで、音程が変わり音階をつくれるのだという。

しかも和田さんがそれに気付いたきっかけは、端子の刺し間違い。映像と音の端子を逆に刺してしまうと、画面に縞模様が現れたのだという。「音を無理矢理映像として見ているということなんだ」と感動し、その縞模様に魅せられたと語った。

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・ワークショップ(2)|縞模様の電子音でセッション

聴こえない音を聴くーーそんな音の事例を紹介した後、縞模様に魅了された和田さんの用意した、もうひとつの実験が始まった。参加者が事前に用意した縞模様の洋服を使って、ZOOMのカメラの映像の信号を音声端子に繋ぐことで音を鳴らしてみるというものだ。カメラに向かって参加者が縞模様を掲げ、近づいたり遠ざかったりしながら動かすと、「ブーーー」という電気的な音の音程が変化することがわかる。
縞模様をカメラに近づけると、カメラが捉える縞模様の本数が少なくなって低い音に、遠ざけると本数が多くなって高い音が鳴る。映像信号を音として聴くと、縞模様は音程の変化を生み出すということがわかってくる。さらに距離感がつかめるとメロディも演奏できるという。実際に和田さんがボーダーシャツを着てカメラの前で前後しながら1曲演奏してくれた。その後は全員でセッションをして、縞模様を使ったリモート実験は終了した。

その後さらに、ニコス特製のブラウン管楽器「テレナンデス」で、1曲生演奏が行なわれた。テレナンデスは10インチくらいのずっしりとした小型テレビにギターのネックを取り付けた楽器だ。ネックにはセンサーがついており、左手でそれに触ることで画面に映る縞模様の本数を変え、右手に持ったコイルをテレビの画面に近づけることで音が鳴る。テレナンデスで、テレビを使って演奏する民謡の意である“テレタニーズ民謡”なる音楽を奏でてくれた。

ここで和田さんから参加者へ、「何を音として聞いてみたい?」という問いかけがされた。受信の仕方があれば目に見えないもの、普段聴こえないものも音として聴けるという、今回のワークショップの切り口にもなる考えからの問いかけだ。これに対し参加者は「やわらかい風ややさしい雨の音」「内臓の音や筋肉の収縮の音」「遠くの風景、山並みの音」など、ユニークな答えの数々を出した。

最後に記念撮影をして、ワークショップは幕を閉じた。

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・事後アンケート|新しい世界を体験する

ワークショップ後にとったアンケートでは、「普段生活している中で、触れられないものに触れられた感じがしました」「ノイズのようなものが捉え方によって音楽にもなりえることが新鮮でした」といった意見のほか、下記のような感想も寄せられた。

「初めて、お話しする方ばかりで、大変最初は緊張した。しかし、参加者の方々もそれぞれ時代は違う部分もあったが、電気製品に興味・関心を抱いており、共通認識をたくさん得ることができた。正直、参加する前までは紹介を受けていたものの、どのような方が参加されるのか?本当に生活用品だけで、音楽が奏でられるのか?等と疑いがあったが、結果的に目の前で実践していただけたことでできることを確信した」

「おそらく、我が家のどこかにも眠っていそうな家電、是非ともセカンドライフを歩ませてやりたくなりました」

今回のワークショップの参加者は、日常生活のなかで耳から入ってくる情報の重要度が高い全盲の方々に加え、ラジオ好きや音のプロフェッショナルなどがいたため、会話もより意義深いものとなった。普段は聴こえなくても、すべてのものは振動しており、音になる可能性を秘めている。身近にある家電が楽器になる瞬間を目の当たりにした参加者たちは、その工程に大いに刺激を受け、“電磁な耳”が開かれたようだった。

「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」〜本祭I:家電雷鳴篇〜
和田永
https://theatreforall.net/movie/electronicosfantasticos/
THEATRE for ALLはこちら https://theatreforall.net/

■ この記事は、令和2年度戦略的芸術文化創造推進事業『文化芸術収益力強化事業』バリアフリー型の動画配信事業によって制作されました。

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