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二人はよく「時をためる」と言っていた。

徒然に 428

桜の季節が近づいてくるとおじいさんとおばあさんの笑顔に、
「また1年、春が来た」と嬉しい気持ちになります。
笑顔の主は津端修一さんと英子さん。
ロングラン上映中に伏原健之監督をお招きした時に
「この作品はDVDにはしないのでどのような形でも上映が続いていくと嬉しい」
そのような言葉をいただいて
ふと思いついたのが「月に1回『人生フルーツ』」でした。

毎月近づいてくると「時間決まりましかた?」「来月もやりますか?」そんなお問い合わせをいただくことが多く、「人生フルーツ」はとても身近な存在になっています。

何度となくご覧の方も多く、お二人の生き方に憧れとパワーをもらっているのでしょう。
観終わった後の皆さんの表情はいつも晴れやか、
「充電完了」そんな言葉と共に去って行かれた方も。

伏原監督の素敵な文章を見つけましたのでご紹介します。


「老いることを思い切り肯定したい。

そう思って作ったのが、ドキュメンタリー映画「人生フルーツ」(2016)である。
主人公、津端修一さんと英子さんは「人生はだんだん美しくなる」と言って、
美しい生活をしていた。
キッチンガーデンで収穫した野菜や果物で作ったごちそうスイーツ。
お手製の窯で作るベーコンに、庭で天日干しするアジの干物、
道具や食器など隅々にいたるこだわり。
落ち葉を集めた土づくり。

お互いを「修たん」「英子さん」と呼び合う素敵な関係。
修一さんいわく「彼女は最高のガールフレンド」である。

自然を慈しみ、毎日を丁寧に生きる二人は、理屈抜きで美しかった。
そして修一さんの最期の姿は寝ているように穏やかで、
まるで生と死の境目がないかのようだった。
美しく生きた人には、美しい結末が待っていた。
ノンフィクションの世界に、ファンタジーのような現実があった。


しかし、自分は修一さんや英子さんのようにはなれないと思った。
自分にはセンスや頭脳がないからだけではない。
二人が守ってきた丁寧な暮らし、静かで穏やかな毎日、理想の生活は、
生半可な覚悟では実現できないからである。
タフでハードな人生なのだ。

そう気づいたとき、ふたりが暮らす平屋の木造家屋は砦に見え、
柔らかいカシミアのセーターは甲胃に見えた。
優しそうなおじいさんとおばあさんは、強くてたくましくて、カッコいいのだ。

二人はよく「時をためる」と言っていた。
時は過ぎるもので、時間は消費するものだと思っていたが、
そうではないという。
時代や流行、国や社会といった荒波にもまれながらも、日々の営みをコツコツと
誠実に続けることが大切だと教えられた。

そういえば、英子さんから手編みのマフラーをもらった。
最初はチクチクと肌触りが悪かったが、数年たった今は肌になじみ、
何とも言えないここと良さがある。

時をためると、やがて果実が実り、財産となる。
人生は経年劣化するのではなく”経年美化”するのだ。

「老いることを面白がる」とは、樹木希林さんの言葉である。
晩年、何度も仕事でご一緒した希林さんは、とにかく何でも“面白がる“人だった。
世の中を面白がり、人間を面白がり、老いや自身の病気さえも面白がっていた。」


実はこれには続きがあって伏原監督は「金の糸」というジョージアの映画にあわせて
「人生フルーツ」と重ね合わせて書いていらっしゃる文章の抜粋です。
全体像はぜひキノのロビー展示に活かしたいと思います。

●月に1回「人生フルーツ」第57回目 5月の上映は 
5月16日(月)です。

●「金の糸」5月14日(土)~の上映です。


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