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芸術監督対談シリーズ②「横山拓也(iaku)×山口茜(メニコン シアターAoi芸術監督)」

劇作家・横山拓也による演劇ユニット「iaku」がメニコン シアターAoiの2024年度ラインアップに登場する。昨年初演されたiakuの近作『モモンバのくくり罠』は、権威ある戯曲賞「第27回 鶴屋南北戯曲賞」を受賞。一方で横山は、PARCO劇場や新国立劇場、世田谷パブリックシアターなど様々な劇場・企画にも作品提供が続き、超多忙な人気劇作家として活躍している。そんな横山率いるiakuがシアターAoiで上演するのは、約10年前に初演された『流れんな』。小さな港町を舞台に、父と娘が切り盛りする食堂を描いた初期代表作だ。今回のリクリエイションではキャストを一新。初演とは違って横山自身が演出を手がけるうえ、セリフを当初の関西弁から広島弁に変えるというのも意欲的だ。シアターAoiの芸術監督・山口茜が、戯曲の書き方や、再び演出を手がけ始めた理由など、横山の創作法に迫った。(取材・文:小島祐未子)

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横山:今まさに台本を書いている途中で、自分がどうやって書いているかなんて……、こんな話していいのかな?

山口:それを聞こうとしていました。

横山:戯曲講座などで「こうやってプロットを立てて、こう書くんですよ」みたいに教えるじゃないですか。でも自分はそのとおりにやっていなくて。

山口:ホッとしました(笑)。

横山:永井(愛)さんが先ほど僕たちに聞かせてくださった「書き出さないと書きたいところにたどり着かない」という話は、本当にそうだなと。この1年、異常なペースで書いていて、今は4本目。比較的スラスラ書けていたんだけど、3/4くらいまで行ったところで矛盾が生じてきて、プロットもあるのに筆が止まってしまったんです。でも、いつもこの辺で止まって、戻って帳尻合わせして書き直していたことを思い出した。4回も書いているから記憶がしっかりしていて、僕は半分くらいまで行かないと気づかないことがたくさんあるとわかったんです。そこに層を加えていって、やっとエンドマークをつけられる。それでも完成ではなくて、稽古場で俳優の声を聞いたり、関西時代から演出などでお世話になってきた先輩の上田一軒さん(劇団「スクエア」)に意見を求めたり……。そうやって上演できる状態の台本ができています。だから、さっきの話を聞いて「永井さんと同じ書き方だったらいいや」と思いました。

山口:私の中で永井さんと横山さんって似てるんですよ。作家として生活していると問題意識は出てくるものですか。

横山:もちろん問題意識を持って生きていたいし、生きていたらいろんな問題にイラっとしたり、おかしいと思ったりしますけど、それと作品は直結してないんですよ。いろいろ思うことはスマホの中に羅列していて……。

山口:メモっているんですね!

横山:気になったことを書いておいたり、新聞記事を写真に撮ったり、本から得たことやSNSから入ってきた情報をコピペしておいたり。実際に企画書が必要になったら、メモの中のモチーフやアイデアでうまくハマるものを探して作品にしていく。普段からいろいろ感じていても「今度はこれを書くぞ」みたいなことはないですね。

登場人物全員に自分の一部がある


山口:断片がいっぱいあって、そこにザクっとした像が見えてきたりするんですね。すごくよくわかります。横山さんの作品は人間の解像度が高いですよね。そして女性に優しい。女性の鬱屈したものを描くというか、女性が常に誰かを怒っている印象があります。また、歳のいった女性をサポートする男性が出てきたり、事情を何も知らない来訪者が現れたり……。ご自身と登場人物との距離感をどうとっていますか。

横山:みんな自分。全員に自分の一部がいます。みんなペルソナみたいなものを使い分けて生きていると思いますが、僕の一面ずつを役が抱えているなと。だから台本を一度書いた後、誰かと別の誰かのセリフを入れ替えたりするんですよ。俳優が聞いたらイヤだと思いますけど、簡単にセリフを入れ替えちゃうくらい、みんな自分なんだと思います。

山口:ただ、登場人物がみんな作者に見える作品には出会いますけど、横山さんにはあまり感じないんですよ。だから一人ひとりが生き生きとして、その世界に生きているという印象が強い。中でも女性がテンプレ化していません。横山さんの作品に出てくる女性は、もっと人として葛藤していますよね。

横山:母や娘、恋人といった役割で人物を描かないようにはしていますが、特に気をつけているわけでもないんですよ。役割で描くと自分を投影できないんです。女性役でも男性役でも自分が投影されているから役割という視点では書かないのかなと。あと、役が生き生きしているのは俳優の力です。戯曲を読んだらそうじゃないかもしれない(笑)。

山口:それは違うと思います。永井さんとも話したんですけど、横山さんの戯曲を読むとまず一回泣けるんですよ。そこにドラマが盛り上がっていて、グッと刺されるところがある。俳優は「安心してドラマの中を生きられる」って思うというか、不安がないから力を発揮できるんじゃないですか。話は戻りますが、プロットを書く時どこまで解像度を高めていますか。例えば会話の内容まで書くとか細かく設定することもできますよね。

横山:それはセリフを走らせないと書けないので、プロットは主に出来事ですね。シーン1はこうスタートして、こんなことが語られて、シーン2ではこの人とこの人がケンカして問題が浮き上がってくる…みたいな感じ。箇条書きで羅列していきますね。

山口:行動というか、人間関係で起きた出来事を羅列していくと。

横山:セリフで補うこともありますけど、それをそのまま台本にするというより雰囲気をつかむためですね。セリフは書きながらじゃないとリズムが生まれない気はします。

山口:私は恋愛ネタが苦手で、ひとの作品でも痒くなるんですけど、横山さんは真正面から書くじゃないですか。

横山:僕、恋愛を描いてます? 確かに恋愛沙汰は……。

山口:男女が惹かれる様子はどんなモチベーションで書いていますか。

横山:エンタテインメントとして書いているかもしれない。自分自身、恋愛とは遠い人間だと思っていて、でも憧れはあったし、ひとの恋愛を観察するのも好きだから、そのタマモノです。自分の経験による部分は情けない話が多いですね。ダサかったことをさらけ出す面白味というか……。やっぱり恋愛はエンタテインメントだと思っていますね。


同時期に関西で活動をしており、旧知の仲である横山拓也(写真右)と山口茜(同左)の対談は終始和やかな雰囲気で行われた


人をジャッジしない安心感


山口:別の気づきですが、横山さんは書いている時、人をジャッジしていないのかなと。

横山:いろんな面を持った人たちの、ある一部分がセリフとして出てきているだけなので、そこを糾弾していくほど我々は強くないというか、「みんなそういう面がありますよね?」という書き方しかできない。ジャッジしないというより、ジャッジできないのかな。

山口:『流れんな』など見せてもらって、それが自分に突き刺さってきたんですよ。私は人にジャッジされたくないと思ってきたけど、ジャッジする側にはなるんだと。横山さんは人の在りようを書いているだけで、良いか悪いかをジャッジしていないので、見ていると「いいんだよ」と言ってもらっているように感じます。

横山:半面、腹も立つと思うんですよ。この人をもっと責めてほしいとか、こんなこと言う人を信じられないとか、観客が拒絶してしまうような人物も作品によっては登場する。でも、そういう面が自分自身にもあることに気づくかもしれません。共感じゃないですけど、そういうものを演劇という表現で提示しているのかなと。あるものを並べただけで問題提起というのはおこがましいけど、まず問題を並べ、僕たちは生きていかなきゃいけないし、自分たちの問題は自分たちで解決しなきゃいけないと示す。そこに少しでも光が見えたら作品として成立し、エンタテインメントになるんじゃないかと思います。

再び自分で演出するようになった理由


山口:次の質問に移りますね。『流れんな』は初めてiakuのために書いた作品で、その時は上田一軒さんが演出されました。それを自分で演出しようと思った心境の変化は……。

横山:単純にiakuが大阪ではなく東京で稽古するようになったからです。僕の住まいは東京で、一軒さんは大阪。ずっと大阪で稽古していましたが、僕が大阪に行くのがしんどくなってきて。一軒さんに東京での稽古を相談したら、1カ月も東京に行けないと言われました。それで僕が演出することになり、新作の時はドラマトゥルクで一軒さんに携わってもらうことにして今に至ります。iakuを立ち上げて5年くらい一軒さんに演出してもらい、それを見てきたおかげで演出を学べました。

山口:賢い!

横山:演出の言葉、俳優とのコミュニケーションの取り方など、それまでは誰からも学んだことがなく、劇団時代も俳優がやりたいことをサポートするような立場で、演出の指針を持てませんでした。でも一軒さんという師匠を得て演出家の振る舞を学び、それを今は自分なりに解釈してやっています。

山口:引っ越したのは、東京でのお仕事が多くなったからですか。

横山:いや、妻の仕事の都合です。

山口:意外な理由でした!

横山: iakuを立ち上げた時は東京も日本の都市のひとつとして見ようと思っていました。『人の気も知らないで』という作品を大阪・名古屋・東京でやったのが旗揚げ公演。福岡・三重というツアーもありましたし、東京でも公演するけど他の都市と同じように考えてきました。でも結局、東京に敗北したんです。東京の小劇場の強さというのかな。東京でやれば僕の作品を言葉にしてくれる人が大勢いて、自分の作品をやりたいと言ってくれる人がいて、評価してくれる人がいて……。その演劇人口に敗北して、東京で活動するようになった感じです。

山口:それは敗北なんですね。

横山:東京でないと仕事にならないくらい今は染められてしまったので敗北だと思います。福岡や札幌、金沢、名古屋の演劇人と、東京じゃない都市で演劇をやる悩みを共有しながら「でも頑張りましょう」と言っていたのに、いつの間にか自分は東京で仕事をもらい、住んでさえいる。敗北しながら、せっせと演劇の仕事をしているんです(苦笑)。でも本当つながりに助けられています。局面局面で大事な人に会っているんですよ。


取材同日に開催したメニコン芸術文化財団の記者発表会で『流れんな』について話す横山拓也


最後に『流れんな』について


山口:最後に『流れんな』について、お客様が見に来たくなるようなお話をできたら。

横山:作品は10年前に書いたものですけど、今も全然解決してない問題ばかり書かれていて、それがまず面白い。「日本、どうなってんだ!?」と。それを現在地から演出したりリライトしたらどうなるか興味がありました。また、初演は何が書けたかわからないものを一軒さんがエンタテインメントにしてくれた印象があるので、自分でもう一回その作業をしなきゃいけないなとも。『流れんな』は戯曲としてすごく正しく書かれているものではないんですよ。話があっちこっち行くし、何も解決しない難しい戯曲。でも、ひとつのエンディングを迎えた初演という実績はあるわけだから、それに自分もチャレンジしたいと思っています。

(取材日:2024年2月19日)


◼︎公演情報

iaku『流れんな』

作・演出:横山拓也
出演:異儀田夏葉、今村裕次郎(小松台東)、近藤フク(ペンギンプルペイルパイルズ)、松尾敢太郎(劇団あはひ)、宮地綾

2024年8月3日(土)13:00/18:00、4日(日)13:00
会場:メニコン シアターAoi(愛知県名古屋市)
(他、東京公演、大阪公演、広島公演あり)

愛知公演主催:公益財団法人メニコン芸術文化記念財団

愛知公演 公演情報(チケット情報等は後日発表)
https://meniconart.or.jp/aoi/schedule/iaku-nagarena.html

その他の公演情報は iaku Webサイト をご確認ください。


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