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【映画】感想『ルックバック』

観たのは7月上旬だったのですが、投稿が非常に遅くなってしまいました。
『チェンソーマン』の藤本タツキ先生の傑作長編読み切りが中編映画として、スクリーンにやってきました。原作自体も素晴らしいですが、この映画も素晴らしかったので感想を述べたいと思います。

監督・出演・あらすじ

監督・脚本:押山清高
出演:河合優美、吉田美月喜

あらすじ
学生新聞で4コマ漫画を連載している小学4年生の藤野。クラスメートからは絶賛を受けていたが、ある日、不登校の同級生・京本の4コマを載せたいと先生から告げられる…。二人の少女をつないだのは、漫画へのひたむきな思い。
しかしある日、すべてを打ち砕く出来事が…。胸を突き刺す、圧巻の青春物語が始まる。

ルックバック - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ | Filmarks映画

藤野歩というキャラクター

本作品は、躓いても立ち上がり前に進む話です。誰しもつらい経験をした時、自分の過去を悔いてしまうことがあるのではないでしょうか。あの時ああしとけば、、、あんなことしなければ、、、。そんな後悔を抱えて、それでも前に進んでいく主人公の覚悟に感動します。
そんな覚悟を見せてくれる主人公の名前は、藤野歩。お調子者で見栄っ張りな子です。しかし良いかっこをみせるための努力を惜しまない一面も持っています。
この映画は、藤野が夜に一生懸命漫画を描いているシーンから始まります。この後も頻繁に描かれ続ける漫画を描く後姿ですが、このシーンのみ机の上に鏡が置いてあり、時折彼女の表情が写ります。背中で彼女のひたむきさや集中度合いが表現されると共に、時折鏡に映る顔でどこか楽し気な様子が見てとれます。翌日学校でその漫画がみんなに褒められると、5分くらいで描いたと見栄を張ります。この冒頭の部分で藤野の性格を端的に示しており、非常に優れています。

藤野が漫画を描く理由

その後、自分より絵の上手な存在、京本との「出会い」(あくまでも京本の四コマをみるだけですが)により、一層絵の修練に励みます。この修練の場面で使われる表現技法は、藤野が漫画を描く後姿を描きながら、周りの風景を変化させることで時の流れを表現する技法で、この映画全編を通じて多用されます。私たち観客は、藤野の後姿(Back)を見続ける(look)ことで彼女の努力を体感し、感情移入していくことになるのです。
その後、努力を重ねても縮まらない距離にやる気を失った藤野は、筆をおいてしまいますが、卒業証書を京本の家に届けた事で物語は加速します。京本に褒められた藤野は、お調子者のため、大口をたたき、京本と別れます。そして雨が降り出す中、スキップのような足取りで田んぼ道を進んでいきます。『雨に唄えば』を彷彿とさせるシーンです。しかし『雨に唄えば』は軽やかなステップを踏んでいますが、こちらはとても力強いステップ、それは敵わないと思っていたライバルが自分を手放しに誉めてくれた嬉しさと大口をたたいてしまい引くに引けなくなった自分を鼓舞するかのようなステップです。主人公の動きと心がしっかりとリンクしているとてもいい場面です。そして後になって分かりますが、この一連の場面は、京本の死を招いた(と藤野は考える)シーンであり、藤野が漫画を描き続けるきっかけになるシーンでもあります。

それでも立ち上がる

中学に進学すると藤野と京本は一緒に漫画を描くことになります。共に楽しい時間を過ごしながら一生懸命漫画を描き続ける彼女たちは、こちらまで楽しい時間を共有できます。この楽しい時間を観客も追体験することで、後の京本の死の辛さをより深く感じます。
そして話は「転」にあたる京本の死へと至ります。親友の死は、藤野にとって衝撃的なニュースであり、茫然自失になります。そんな状況で彼女を家に行きます。そこでかつての4コマ漫画を見つけることで、京本の死は、自分のせいではないかと過去を振り返って(look back)しまいます。4コマ漫画なんか描かなければ、京本は家を出ることがなく死ななかったのではないか。自分の漫画が京本を殺したのではないか。そんな自責の念からか、京本を外に出さなかったパラレルワールドが始まります。しかしそのパラレルワールドでも、藤野は京本が自分の漫画のファンだったことを知り、漫画を描くと京本に宣言するのです。どの世界線でも藤野は漫画を描くのです。それは、一番のファンである京本のために、、、。自身の漫画を描く意味、理由を思い出した藤野は、文字通り立ち上がり、最初は弱々しく、しかし次第に力強く歩き出します。そして最後のシーンへと移っていきます。

もう一つのテーマ

最後の場面は、この映画でずっと描かれ続けた藤野の漫画を描いている後姿です。しかしこれまでは(冒頭以外)時間経過を示す情報が付与されていましたが、最後の場面では、特にそういう描写はなく、ただ仕事部屋で漫画を描き続ける姿が描写されます。そこにはもう後ろを振り返らず、ただひたむきに漫画に向かっている姿があります。しかしその背中は冒頭の背中とは違い、大きな覚悟を背負っているように見えます。ここからは推測を通り越して妄想ですが、その覚悟は、道半ばで亡くなっていったクリエイターたちへの想いも背負って進んでいくという強い覚悟であり、最後の曲は、そんなクリエイターたちへの鎮魂歌のように思えます。(亡くなったクリエイターとはもちろんあの事件を指しています)

余談:映画のポスター

余談としてですが、部屋のポスターで『バタフライエフェクト』と『ビッグフィッシュ』(ビッグうなぎでしたが)と思わしきものがありました。『バタフライエフェクト』といえば、過去改変映画の代名詞的な映画ですので、本作品との共通点は明確ですが、『ビッグフィッシュ』との共通点はなんなのでしょうか、、、ちなみに原作の方では、『ワンスアポンアタイムインハリウッド』と思わしきDVDが落ちており、こちらも本作品との共通点は明確ですね。

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