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②〜小説『四国一周ひとり旅』〜前編

前編1 「旅の準備」

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オレの計画を聞いてロナウドが驚いた

「四国を一周すんの!? マジで!?」

「あぁ。 お前も一緒に行くか?」

「9日間も休めないよ!」

有休と夏休みをくっつけて9日間を確保していたが、『予備日』としてでもあって、希望は5日から7日間ぐらいで1周したいと思っていた

何にせよ、距離が距離だけに予定どおり帰って来れるかも解らない

「キャンプで行くんか?」

今度はビッチが聞いてきた

「いや、それも考えたけど、荷物が倍以上増えるからな…。 今回はビジネスホテルとかを渡り歩いて進もうと思う」

ビッチは若い頃に梅雨の時期になるとキャンプを繰り返して北海道にこもっていたが、プー太郎で1ヶ月以上アテもなく放浪する昔のビッチのスタイルとは違う

あくまで目標は期間内に一周してくる事である

ロナウドも昔のビッチを知っているだけに、オレが挑戦しようとしているカタチとは違う事に納得したようだ

「そっか…それだけの日数なら長袖とかも入れれば着替えだけでも結構な荷物だしね」

「長袖なんか持っていかないよ」

「え! マジで?」

「だって南下していくんだぜ? 夏に。 寒いワケねぇじゃん」

この判断が後に重大なトラブルにも繋がるわけだが、誰もバイクで四国なんて行った事はなかったし、『暖かい、温暖なイメージ』しかなかったのだ

そんな誤った判断すら疑わず、出発に向けた準備を進めていった

まず最初に地図を買った

オレは今でも地図が好きで、平面に示された地図を辿り、実際にその場所に辿り着く達成感は何とも言えない喜びがある

結局今の結論ではサービスエリアとかで無料でもらえる地図が一番手頃で正確なのだが、この時はバイクツーリング用の手帳サイズの地図を一冊買った

それと、迷ったが¥7,000ぐらいする巨大で日本全土が示されたマップルを買った

ずっと欲しかったが高額な為に手が出せなかったのを、今回フンパツして揃えようというわけだ

次にカッパを買った

メンバーの中で一番まともなカッパを持っているのはオレぐらいだったが、それでもドンキで買った上下セットで¥2,980ぐらいの、バイク用でも何でもないカッパは立体裁断なんて無縁の造りだった為に、バイクに跨がるとズボンの裾はずいぶんと上がってきて、靴はもちろん下に穿いているズボンまでビショ濡れになってしまうような残念なシロモノだった

今回を機に一新したカッパは、上下ゴアッテクスのパワーエイジ製

これならば『防水』だけではなく『防風』にも優れているので、文字どおり一生モノのカッパを手に入れた気分だった

そして最後に計画したのが動画を撮る専用のカメラで、四国を一周してくる道中を動画に収めたかった

実は、過去に仲間内で行ってきたツーリングの写真を、ロナウドがまとめて動画として作った事がある

単純なスライドショーではあるのだが、BGMが流れ、文字が流れるその仕上がりは秀逸で、焼いてくれたDVDが割れそうなぐらい観たし、元ヤンキー特有の写真好きだったロナウドが、休憩の度に「写真を撮ろう」と言い出すのをうるさがり、馬鹿にしてきた事をリスペクトしたぐらいだった

『夏に行ったUTCを、冬の寒い時期に自宅で酒を呑みながら味わえる』そんな発見に気づかされたオレは、どうせ行くなら四国一周を動画に収めて、帰ってきてからでも観れるようにしようと計画したのだ

当時、そういった目的の為にウェアラブルカメラという便利なカメラがある事を知り、家電量販店に行った

しかし、値段が¥50,000近くもする事にビックリして「これなら持っているデジカメを『動画モード』にすりゃいいじゃん」という結論を出した

自宅に帰ってからデジカメを取り出し、ハーレーのハンドルに固定する方法を考えた

ハンドルに固定したデジカメを、運転中でも気に入った風景に出くわしたらスイッチを入れられるようにしたいわけだが、丁度良い方法が浮かばない

デジカメとはいえ精密機械なので、安易にL字ステーなんかを組み合わせてガッチリとバイクに固定するシステムは避けたい

バイクの振動でいざ使いたい時に壊れてしまったのでは話にならないのだ

どうしたものかと考えていた所で発見したのがクリーニング屋で付いてくる針金ハンガーで、しっかりとした太さがありながら変幻自在にクニャクニャと曲がる構造は、自分の持っているデジカメを合わせて、折り曲げていって固定するのにピッタリだった

そして両ハジを適度な長さでニッパーでカットし、スプリンガーフォークのセンターに差し込んでしまえば、ワンタッチでセットができる上にほどよく振動も逃がしてくれる

とんでもなく便利な物を見つけたと大喜びしたが、実はこの自作ハンガーに命を救われる事になるとは、当然ながら知る由もなかった……


前編2 「バイクの準備」

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身の回りの準備はもちろん、バイクの整備も着々と進行していた

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