見出し画像

【読書感想文~刑務所のリタ・ヘイワース~】賭けなければ何も失わない

読んだ本

スティーブン・キングさんの「刑務所のリタ・ヘイワース」
ゴールデンボーイという本に収録されている中編小説。

感想

何度も読み返すうちに心に刺さる言葉は「ひょっとするとアンディーは怖くなったんじゃなかろうか」です。

刑務所の中で自らの心を脅かす様々な問題を抱えていながら、一切顔には出さないアンディー・デュフレーン。
全部自分の手で片付けてきた彼でさえ、脱獄すること、そしてそれが失敗することには恐怖を感じていたのです(あくまでレッドの推測ですが)。

自分だけがいる監房の壁に穴を掘り進め、後はその穴を通って脱獄するだけだというときに、彼は躊躇したのです。

躊躇する理由はいくらでもあったでしょう。
穴を通り抜けた先にある、下水管。その下水管の中を這って進んでいけるのか。下水管の末端は鉄格子や金網でふさがっていないか。すぐに指名手配されて刑務所へ逆戻りしないか。
それらすべての懸念が何事もなく上手く進んだとして、いちばん大切な、これからの人生が収められている貸金庫の鍵が無くなっていたら?

そういった色々なことを考えて、一旦は脱獄を中断するのです。賭けなければ失うこともない。まさしくその通りです。

アンディーが失う可能性があったものは、図書館や今の平和な生活といった現在持っているもの。そして、未来への機会でした。

私は、アンディーはきっと未来への機会を失うことを恐れたのだと思います。今ここで賭けて失ってもよいのか、と。

それでもアンディーは賭け、そして未来を手にしました。確かに賭けなければ失うこともないでしょう。しかし、賭けなければ得ることもないのです。

これが必死に生きるという事なのだと、私は得心しました。

すべての賭けがアンディーの脱獄のように上手くいくとは限りません。アンディーだって最初は失敗していました。妻とその愛人殺しの冤罪を回避できなかったのです。刑務所に入ってからはシスターから狙われました。

最後の賭けは、アンディーが必死に生きていたからこそ得られたものなのでしょう。死ぬためではなく、生きるため、希望のために必死だったからこそ、彼は最後に勝ったのだと思います。

この記事が参加している募集

#読書感想文

191,671件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?