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tari textile BOOK 前編 第8章 課題⑧

課題⑧

〇経糸280本、半反。

 

 

 2年間にわたる伝習生の課題も、大きな山場を越え、残すところあと2本となった。今回、私は自家製落花生をテーマにして布をつくろうと考えていた。

 

 千葉県生まれの私は、落花生にはわりと馴染みが深いほうだとは思っていたが、千葉で住んでいた場所が落花生産地とは少し離れていたり家庭菜園にもあまり縁がなかったりで、丹波に来て周囲の人々が家庭菜園で普通に落花生を作っていること、そして採れたて落花生の愛らしい姿とその美味しさに衝撃を受けた。

 初めてその採れたて落花生と出会ったのは昨年(伝習生1年目)の秋、畑の師匠が育てた落花生の収穫に、立ち会わせてもらった。引き抜かれた茎に繋がれて、様々な大きさと形の、消しゴムみたいな落花生が土の中からころころと大量に現れる。かわいすぎる。そしてお裾分けに頂いた採れたて落花生は、土を洗い流し、鮮度が落ちないうちに殻ごと塩茹で。台所にはなんとも言えない甘い匂いが広がる。ちょっと固めに茹でて、殻を剥いて熱々をいただく。そんなふうに落花生を食べたのは初めてで、今までの落花生観(乾燥タイプ)が大きく覆った。この魅力的な落花生ともっとお近づきになりたい。翌年は自分でも植えようと決意した。

 そして今年(伝習生2年目)。初めての家庭菜園も2年目を迎えていた私は、様々な野菜経験をしつつ、この秋には念願の落花生収穫にもこじつけた。

 1番出来が良い10個ほどは来年の種用に確保。その次に出来の良い実は早速塩茹でで頂き、収穫祭。残りは網状の袋に入れ、数ヶ月かけて乾燥させる。できあがった乾燥落花生はまず中身を取り出し、アルミホイルに並べてグリルで香ばしく炒る。そのままのアツアツを味わった後は、残りでピーナッツペーストを作る。そのペーストは、自家製小麦を粉にして配合し作ったパン、通称「原始パン」との相性は文句なしに抜群だった(原始パンについては説明すると長くなるのでここでは詳細は割愛)。

 そしてこの乾燥落花生の「殻」が、今回の染色で活躍することになるのだ。調べたところによると、落花生は媒染剤によって出る色に結構な差があるようだ。ここは文字通り落花生を味わい尽くすべく、とことん落花生の布を作ろう、と縞の考案に勤しんだ。

 

 ここで、私が布をつくるときの色との付き合い方について少し書いてみたいと思う。

 草木染めは、その植物の生育状況によって、また染色時の水や材料の量などによって、同じ植物で染めたとしても結果の色に大きく差が出る。それを豊富な経験と知識によって正確にコントロールするのがプロの技なのだろうが、私にはそのような高度なことはまだまだ到底できそうにない。とはいえその「コントロールの難しさ」も草木染めの魅力ではないか、そう考えた私は、染色に関して「ある程度の予測と期待はするが、結果は出てからのお楽しみ。そしてそんなふうに楽しめるように、縞も心も許容範囲を広く持つ」という作戦をとるようになった。

 まず本などで、各植物でどのような色に染まるかという情報を集め、大まかな色のイメージを持つ。そしてその色のイメージを参考にして縞を考えるのだが、その時に、少しでも色がぶれたら表現できないような縞は避ける。逆に、濃淡をはっきり出したり媒染を変えて色差を出したりして、色が多少ぶれても大丈夫なような縞を考えるのだ。

 そのようにして、ある程度予測はしながらも「結果どんな色が出てもオッケー」な縞を考える。こうすることで、実際にはどんな色に染まり、どんな布になるかが楽しみになる。これは精神衛生上もとても良くて、色を狙いすぎないからその結果予想と違う色になった、失敗した色になった、ということがない。全部成功なのだ。

 

 今回もそのようにしてつくった布。染色材料は落花生のみ、媒染と濃度を変えて数種類の色を出し、落花生をイメージした縞を考えた。前回と同様、布全体をキャンバスとするタイプの布だ。ミミと中央の経の線、そして横の太い線で長方形になるよう区切りを入れて、落花生の縦長の形を表現。そしてその中の細かい経緯たてよこの模様は落花生の殻の色とポコポコした模様を表している。

 落花生の殻で染色した糸は、おはぐろ・みょうばん・石灰どの媒染の色もやんわりやさしい色味で、どことなくあの茹で落花生の甘い香りと味を連想してしまう(のは私だけか…)。

 

 

 細かい経緯たてよこの縞は、前々回、前回に引き続き「大きい格子が実は小さい格子シリーズ」の第3弾。今回も前回と同様に3色使いだが、前回が「1,2,3,1,2,3…」という並びだったところを、今回は「1,2,1,3,1,2,1,3…」という並びに変えてみた。落花生の殻の模様の、微妙な色合いと質感を表現した(つもり)。気に入ったこのシリーズを色々と試す。

 

作品NO.8

→経糸:落花生(石灰)、落花生(みょうばん)、落花生(おはぐろ)
 緯糸:落花生(石灰)、落花生(みょうばん)、落花生(おはぐろ)

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