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お前はどうしたい?と聞かれても答えはなかった。それでもノープランでルワンダ移住を決めた理由 #11. ちさ(ルワンダ)

#その時自分史が動いた は、私たち夫婦が世界一周をしながら現地の人々に突撃取材をし、彼ら彼女らの語る人生ストーリーと私たちの視点を織り交ぜながらお伝えしていくシリーズです。(背景はこちら

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「ある良く晴れた日。
洗濯物を干しているときに『あ、今って5月なんだ…』ということにふと気づいたんです。
ここ数年、季節のことなんてまったく気にしてなかったんですよね。

急に、抜け殻のように過ごした数年間から目が覚めたような感覚でした。

そして、こんな時間の使い方していたら、もったいないんじゃないか。
『惰性で生きるのはやめよう。これからは、自分で自分の進む道を選ぼう』と、初めて思った瞬間でした。」

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世界一周の10か国目、ルワンダ。ここで誰かインタビューできる人はいないかと、ツイッターで見つけたのが今回の主人公、ちささんだ。
プロフィールを見ただけで「連絡するしかない」と思った。メッセージを送ったところ快諾してくださり、彼女が立ち上げたタイ料理のレストラン「Asian Kitchen」にて昼食を頂きながら話すことになった。

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「お前はどうしたいの?」

「新卒で入社したのは、リクルートでした。
もともとは通訳にあこがれがあって、わざわざ休学してカナダ留学までしたんです。でも、結局通訳として活躍するためには言語力だけじゃなくて専門性とか経験が重宝されるということに気づいて。だったら、会社に入ろう、って。

でも、入社直後にリーマンショック。そんな中でひたすら営業する日々。
控えめに言って激務でしたね。

しかもリクルートって、『お前はどうしたいの?』という問いを常に投げかけられる文化。周りは皆、ポジティブに自分のやりたいことを追い求めている人ばかりだったけれど、私はそんなこと聞かれても『いや、特に何もないので、指示をください』という感じだったんです。そんな人、リクルートにはほとんどいないんですよ(笑)

私はどちらかというと、それまでずっと敷かれたレールを歩んできた、完全な優等生タイプ。やれっていわれたことはやらないといけないし、空気を読まなければならないし、輪を乱してはならない。
そんな性格だったので、こと営業は本当にしんどかった。難しく考え過ぎてたんだと思います。
クライアントに『これ、明日までにやれるー?』と聞かれたら、全部『やらなきゃ!』と追い込んでしまってたんですね。」

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育児、離婚、激務

「その後、結婚し、息子が生まれて産休育休をいただくのですが、その間に離婚を決意しました。協議離婚が成立せず裁判に持ち込まれたタイミングで復職。
上場前の時期だったこともあり、毎日朝3時に起きて仕事してましたね。
保育園に預けて、通勤電車にのって、会社についた時点で、ヘトヘトでした。

どうしたら楽になるんだろう、と先輩のワーキングママにアドバイスを求めても『寝るな、土日も預けろ』って言われたんですよ…。まだ世の中が生産性向上やリモートワークに舵を切る前でしたし、部署・職種的にも結果を出すには長時間労働になりやすい環境でした。3時に起きて仕事をしていることを褒められたりもしましたが、ロールモデルとしてこれを後世に残すのは害だ、と思いましたね。

仕事中は裁判の苦しみを忘れて、裁判中は仕事の辛さを忘れる…という毎日。そこからやっと解放されたあとも、一年くらいはボーっとしてました。
今考えると、鬱だったんだろうなと思います。

他の会社に比べて待遇は良かったんだろうと思うし、社内異動で環境が改善したりもしましたが、それでもあまり先が見えなかった。

そしてある良く晴れた日。
洗濯物を干しているときに『あ、今って5月なんだ…』ということにふと気づいたんです。
その数年、季節のことなんてまったく気にしてなかったんですよね。

急に、抜け殻のように過ごした数年間から目が覚めたような感覚でした。

そして、こんな時間の使い方していたら、もったいないんじゃないか。
惰性で生きるのはやめよう。これからは、自分で自分の進む道を選ぼう』と、初めて思った瞬間でした。」

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もしも今日が人生最後の日だったら?

「時を同じくして、『もしも今日が人生最後の日だとしたら、今日やろうとしていることをやりたいと思うだろうか?って、鏡をみて問いかけるべき』、というようなスティーブジョブスの格言をたまたま見たんですよね。『NOと答える日が何日も続くようであれば、何かを変えなければならないということだ』ってやつ。
それを聞いて、『私、本当にハッピーなんだっけ』というのを自問自答してみたんです。

『そろそろ変え時かなー』

ぼんやりと変化を求めはじめ、気づいたときには友人夫婦を訪ねてルワンダまで足を運んでいました。休暇を取って、普通の旅行として。
数年前に移住してきていたその夫婦から『ルワンダめっちゃいいところだよー』と聞いてはいたのですが、実際に来てみたら治安もよし、気候もよし、子育て環境もよし。

『うん、会社やめよ、ひっこそ!』と思って移住を決断しました。
子供の教育のことを考えても、日本のようにみんなが同じということを良しとするような文化ではなく、ダイバーシティの中で育てたいという思いもあって。

アフリカに来る日本人って、ビジネス機会をちゃんと考えている方が多いんですけど、私の場合はただの勢いです。
でも、一大決心というよりは軽い気持ちだったんですよね。
不安があるとしたら、医療くらい。」

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天職だとは思ってない

「ルワンダへの移住を決めてから『さあ、どうやって食べていくか』というのを考え始めたんですけど、結局は自分が身近に知っているシンプルなビジネスしか思いつかなくて。
当時のルワンダにはまだあまりレストランが多くなかったという単純な理由で、レストランを開くことにしました。

だから、実をいうと私にとってレストラン経営は、天職だとは思っていないんです。別に料理が得意なわけでも特段好きなわけでもない。タイ料理にしてみたのも、友人の提案でした。たしかに、和食にするほど魚も手に入らないし、それで行くか、と。
なので、自分は飲食店経営については何も知らないという自覚があったので、とにかくあらゆるアドバイスに素直に従いましたね。レシピも、再現性を優先するために、なるべくシンプルなものをクックパッドで探してそのまま真似したものも(笑)

リクルートでは、皆やりたいことがあって、それをカタチにしようとしていて、すごいなあと思っていました。私はどちらかというと、言われたことをマシーンのように着実に回す方が得意だったんですよね。
ただ、その淡々とこなすスキルこそが、会社員時代はコンプレックスに近かったのですが、レストランの立ち上げには必要なスキルでした。電気がないとか、水がないとか、業者が来ないってのは日常茶飯事なんですけど(笑)、そんなときでも、とにかくやるしかない、と突き進めたのは良かったと思っています。」

自分で選ぶ、ということ

「天職ではない」と言いながらも、着実に、真面目に、レストランを成長させているちささん。そんな彼女にとってルワンダへの移住が大きなターニングポイントだったことは間違いないが、なぜ、そこまで大きな転換点になったのだろうか。

「ルワンダに来た時のことを振り返ると、それを機に徐々に上がっていったというよりも、人生のどん底からいきなりワープしたような感覚ですね。
すべてをすっきりリセットして生まれ変わったんです。

なぜそうなれたのか。
それは、あの洗濯物を干している日にふと思った、『自分で自分の進む道を選ぼう』ということなのかなと思います。
選んだ選択肢が正解だったかどうかというよりは、それって自分が決めたことだよねと立ち返る場所があるということが大事なんじゃないかなと。

自分が決めずに『なんとなくこうなっちゃった』って、結果が出なかったときの言い訳でしかないんですよね。

自分は望んでなかったし…なんて言うのは、自分に同情しているだけだし、誰も助けてくれない。

だったら、最初から自分で選ぶべき。
それだったら受け入れるしかないから、自分を強くしてくれると思うんです。自分の運命をコントロールする手綱を手放してはいけないんです。

今も、辛い瞬間なんていくらでもあるんですけど、でも『自分で選んでここに来たわけだしなあ』と思うと、不思議と『よし、もうちょっと頑張ってみるか』ってエネルギーが湧いてくるんですよね。

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あとは、ぱっと空を見たときに、そこから何かを感じられるか、というのも大切にしています。

例えば大企業で高いお給料もいただいて働いていた頃は、40階近いオフィスから一望できる東京の夜景を見ても何も感じなくなってた自分がいました。日本という美しい四季をもつ国で季節を感じる五感が完全に麻痺していた時期もありました。

だから、お金を盗まれたとしても、スタッフがいなくなったとしても、季節のないルワンダで、『ああ、今日も良い天気だな』って思えるなら幸せだと思いますね(笑)

日本にいると自分のそういう感覚に素直になれず、優等生的なことをしてしまうんですよ。だからこそ、ルワンダに来て本当に良かったなと。
私って、成功したい、こうなりたい、っていうのはあまりないんだと思います。でも、『今日もこれもできなかったし、あれも上手く行ってないけど、このあと息子とご飯食べられるなら、いいじゃん』って。『日々幸せに暮らせているなら、いいじゃん』って。」

塞翁が馬

「夢は持たなければいけない」「成功しなければならない」とプレッシャーを感じている方々に届けたいストーリーだと思った。
そんな風にちささんに伝えたら、強く共感してくれた。

「よく、アフリカで起業したいんです!という勢いのある学生さんとお話する機会があります。
でも、本当にそれをやりたいのか?と深堀りしてみると、実は『好きなことがなかなか見つからない。焦ってる。なんとかしなきゃ。じゃあ起業してみよう。じゃあアフリカ行ってみよう』みたいな方が多い気がします。

そんな学生の話を聞いていて私が思うのは、無理せず、日々コツコツやればいいんじゃない?ということ。アフリカまで実際に足を運ぶ素晴らしい行動力があるのだから、焦らず、地に足をつけてもう少し目の前のことをコツコツやってみるといいのでは、と。

だって、どの道が正解でどの道が不正解かなんて、長い目で見てみないとわからない
うまく行って良かったーと思ってても、もしかしたら失敗してた方がよかったのかもしれないし、失敗したーと思っても、次の挑戦のための前触れかもしれないし。
目の前の結果に一喜一憂せずに、続けられることを続けるのが大事なんだろうなあと。

娘の父はスペイン人なんですが、文化の違いがすごいんですよ。
人生を純粋に楽しむ人たちなんです。
私にとっては、休暇なんて最大2週間以内に抑えるのが当たり前だったのですが(それでも日本でサラリーマンしていた時からはかなり長くなりましたが)、彼からしたらそんなのはあり得ない。
『自分の人生なのに、どうした?』と驚かれたことがあるくらい。
働くために生きるのか、生きるために働くのか、という感覚が逆なんですよね。

それのおかげで私も少しずつ気を緩めて、人生の楽しみ方を学んでいるような気がします。」

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↑ "What makes you happy?" (あなたにとっての幸せとは?)という問いに
対するちささんの回答

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編集後記

先日、「ドリームハラスメント」という言葉をはじめて聞いた。
「夢を追いかけろ」「好きなことを仕事にしろ」ということをプレッシャーに感じるという現象のことらしい。

なるほど…と思ってしまった。
私もかつて、就職活動をしていた頃は「やりたいことなんて分かんない」と悩んでいた。社会人3年目くらいになってからやっと、ぼんやりと見えてきたような気がする。
でも、今この瞬間だって、夢は何かと聞かれたら、ハッキリとコレだ!みたいなものはないかもしれない。

夢とか好きなことなんて、特に見つからないまま過ごす人だってたくさんいる。
それでも、いい。
夢がなくたって、いい。

「ルワンダでレストランをつくった元リクルートの日本人」であるちささんは、外から見たら「バリバリ夢を追い求めているワイルドな女性起業家」みたいに映るかもしれない。
でもお読みいただいたように、彼女はいわゆる「ザ・起業家」のイメージとは少し違う。
それでも、子供たちのために、従業員のために必死に働く彼女の姿は、まぶしかったし、幸せと充実感がにじみ出ていた。シンプルに、かっこよかった。

それは、彼女が、自分の意志でルワンダに住むという決断をしたからであり、そして自分の意志でレストランを立ち上げたから。
「自分で選ぶ」ということが何よりも大事なのかもしれない。
そんなことに気づかせてくれるインタビューだった。
そして。
かつては季節すらも気にしていなかったちささんが、今では「ふと空をみたときに綺麗だったら幸せ」だと言っていたのも印象的だった。
ルワンダに移住したことによって、自分の「幸せの尺度」すらも変えられたんだな、と思った。

もちろん、そこに至るまでに多くの苦労と葛藤、行動と決断があったからこそ、「これが幸せ」というものにたどり着けたんだろう。

「勢い」だけでルワンダに移住できてしまったちささんのその行動力を、見習いたい。

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By 市川瑛子・竜太郎

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