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冷麺だけでお腹を満たしたいから、手作りすることにした #KUKUMU

さぁさぁみなさん、お立ち会い。腹ペコさんはよっといで!

あるところに、夏の暑さにへばりながら、クーラーの効いた部屋で麺ばっかり食べている女がおりました。カップラーメン、うどんにそうめん、昼ごはんはほとんど麺なのです。

ただ、家で食べる麺はどうしてもレパートリーが少なくなってしまう。在宅勤務だから贅沢は言えないけれど、その女、よしザわにはずっと食べたかった麺がありました。

他の麺にはない圧倒的弾力、キムチの辛さ、細切りのきゅうり、あっさりスープの酸味、他では見かけない銀の器……。そうです、私は冷麺が食べたいのです。焼肉屋さんのメニューで見かけた時、つい目が合って必ず頼んじゃうアイツ。肉と米で満腹になっていても、冷麺は別腹なんです。

ただ、好きだからこそ1つ言わせて欲しい。

お店の冷麺は、量が少なすぎる。

食べやすいが故、あっという間に食べきってしまうのです。さっぱりしてるからか、麺がツルツルだからか、ただ食べるのが早いだけなのか、食べ終わった時はいつも「もうなくなってる……」という寂しさが付きまといます。私はもっと冷麺で、いや、冷麺だけでお腹を満たしたい! 

そんな "冷麺欲" を満たすべく、今回は製麺経験ゼロのよしザわが手作り冷麺に挑戦しました。お店に行った方が美味しいかもしれない、テイクアウトや茹でるだけの袋麺を買った方が楽かもしれない、それでも私は自分で冷麺を作りたいのです。

だって、冷麺が大好きだから!

焼肉屋の待ち時間で通ぶれる、冷麺入門

そもそも冷麺って、どんな食べ物なのか皆さん知っていますか? 「ゴムみたいな麺」くらいの印象しかない方はもったいないですよ。冷麺は、科学と歴史が詰まったとても興味深い食べ物なんです!

「韓国冷麺」と「盛岡冷麺」、大きく2つに分けることができ、素材も見た目も違います。

韓国冷麺 
→ そば粉と緑豆(デンプン)を使った黒っぽい細麺

盛岡冷麺 
→ 小麦粉と重曹、片栗粉(じゃがいもデンプン)を使った半透明の麺

小麦粉や片栗粉に含まれるデンプンは熱を加えることで科学反応が起き、透明な糊状の物質に変化します。これを「糊化(コカ)現象」といい、含まれるデンプンが多いほど、麺は弾力を持つようになるのです。他の麺に比べて冷麺の食感が独特なのは、ベースとなる粉にデンプンを足しているからなんですね。

しかも、盛岡冷麺では重曹も加えます。これも麺のコシを強くするためのカギです。アルカリ性の重曹を加えると、小麦粉に含まれるタンパク質「グルテン」のパワーが強くなって、麺が硬い食感に変化します。これがあるとないとでは、噛んだ時の押し返しが全然違うのです。
そば粉はないけど、小麦粉なら家にありますからね。重曹もスーパーに売っています。作りやすさを重視して、今回はなんちゃって盛岡冷麺に挑戦してみましょう。

そもそも盛岡冷麺ってなんなのよ

『盛岡冷麺物語』によれば、発祥は1954年。在日朝鮮人、青木輝人さんが生み出した冷麺がルーツとなっています。飲食店で働いていた青木さんが、故郷の味の再現に挑戦したことがきっかけです。

朝鮮では昔から食べられていた冷麺。青木さんが舌の記憶のもとに、地域で異なる朝鮮冷麺の良い所を組み合わせ、盛岡冷麺が作られました。いわば、冷麺のサラブレッドです。ありがとう、青木さん。だいたい70年経った今でも、あなたのレシピが愛されてます。そば粉ではなく、小麦粉と重曹を使うようにしたのは、黒っぽい麺が美味しそうに見えないと思ったからなんだとか。見た目は大事、めっちゃ気持ちわかるワ。

ド素人でも作れる冷麺のレシピ

私と同様、「家で麺なんて作ったことないよ!」という人に向けたレシピです。手順をできるだけ細かく書き、☆でポイントを補足しています。みんなも家で冷麺を作ってみよう。

〈材料〉1人前
・強力粉……50g
・片栗粉……50g
・重曹(食用のもの)……2g
・塩……3g
・熱湯……60g
(・茹でる用の熱湯……鍋にたっぷり)

基本の材料は4つだけ

作り方

小麦粉と片栗粉をボウルに入れる。大きいボウルの方がこねる時に楽です。

小麦粉と片栗粉をよくかき混ぜる。

手や箸で混ぜてもいいよ

熱湯に重曹と塩を入れ、溶かす。
☆お湯を使うことでデンプンが化学反応を起こし、麺にコシが出ます。

②の粉に、④を4〜5回に分けて入れ、箸でかき混ぜる。均等に混ざらなくても大丈夫です。たまごボーロくらいの玉が、いくつかできてくると思います。

数回に分けると均等に水が回るのです

手で生地を練る。5分以上が目安。

ここが1番重要です。最初は紙粘土のようにパサついていますが、親指の付け根を使って、上から押しつけながら伸ばすように練ると、だんだん生地がしっとりしてきます。日頃のストレスを発散しながら、根気良くこねましょう。こねて、こねて、こねまくると綺麗な半透明の麺になります。

☆よくこねても1つにまとまらず、ポロポロ生地が割れていくようであれば、水を少しずつ足してください。少しネチョっとしてしまっても、こねている間に水分が減っていくから大丈夫! この時はお湯じゃなくても平気です。

10〜30分、生地をラップに包んで常温で休ませる。
☆生地がさらにしっとりして、次の工程で生地を伸ばしやすくなります。

こんな見た目になればOK。ひび割れてたら水が少ないです

生地を綿棒で伸ばす。
☆麺を切る時に楽なので、できれば四角く伸ばしたいです。紹介されているのはパン生地だけど、製菓・製パン材料のECサイト「cotta」さんで書かれていたコツがとても役に立ちました!

全然四角くないけど、よしザわにはこれが限界

生地を切る。太さは2〜3mmがオススメ。
☆包丁でも良いんですが、よしザわはピザカッターで切った方が楽でした。

沸騰したお湯に麺を入れて、2分茹でる。
☆茹で時間は太さに合わせて調整してください。

うどんみたい

ザルにあげて、流水で洗う。水を切ったら完成!

氷をいっぱい使って冷やすと麺がより締まって、お店で食べる時の感覚に近づく!

自由すぎる冷麺ワールド、はやく酒もってこぉぉぉい!

具やスープは、生地を休ませている間に準備しておくと時間に無駄がありません。

手作り冷麺なので、スープも具材もとにかく自由。ネットで調べればレシピがたくさん出てきますが、私が試してみたレシピを軽く紹介しますね。

〈スープレシピ〉
①「白だし+お酢+水」で冷やし中華風
②「めんつゆ+しょうが+水」で和に寄せる!
③「ダシダ(牛肉だし)+鶏ガラスープの素+白だし+お酢+水+ラー油」で本格派

スーパーの中華調味料コーナーで見かけたので、牛肉だしのダシダを買ってみました。ちゃんと牛肉の味がして、これをお湯に溶かすだけでもかなり美味しいです。

〈乗せると美味しい具〉
キムチ・チャーシュー・ゆで卵・温泉卵・きゅうり・ゴマ・カニカマ・もやし・ツナ・紅ショウガ・ザーサイ・納豆・みょうが・プチトマト・シソ 

などなど

キムチと卵はできれば入れておきたいかなぁというくらいで、冷蔵庫に入ってるものをのせれば結構なんでも合います。家で作るからこそわかる、冷麺の懐の広さよ。

☆完成☆

キムチや肉が乗っている時点で、そりゃもうビールには合いますわな。「アサヒスーパードライ」や「本麒麟」など、キレのあるビールとの相性が特に良いです。凍らせたジョッキにビールを注いで、よく冷やした麺をすすれば身体の熱もみるみる逃げていきます。これが酒飲みの暑さ対策だ!

せっかくここまで頑張ったので、色気を出してマッコリをいただくのも良いですね~。冷やしたマッコリをストレートでちびちび飲むのも良いけど、ソーダ割にしてぐびぐび飲んじゃうのも良い。マッコリに甘さがあるから、冷麺はちょっと辛くしちゃおうかな? ラー油たしちゃうわよ? 飲み物によって味付けを変えていくのも楽しいです。

とはいえ、冷麺は1日にしてならず。

以下、手作りした感想です。

冷麺どころか、麺を作るのがそもそも初めてだったので、水の量や生地の練り方には苦戦しました。麺づくりは奥が深く、本当はその日の湿度や気温によって水の量を調整しないといけないんですって。

1回目は水が少なく、麺を切っている時にどんどんちぎれて、5cmくらいの短~い麺になってしまいました。

NG例:パサパサしすぎ

ただ、そんなちぎれた麺でさえ、茹でるとちゃんと半透明で弾力もある。「家でも冷麺作れるじゃん!」と大喜び。この気持ちは市販品じゃ味わえません。

2回目以降は、水の量を足したりこねる時間を多めにとったり、細かい部分を調整することで長い麺を作れるようになりました。試行回数5回、かなり理想の冷麺に近づけています。1本ずつ切らないといけないのは面倒ですが、手間をかけた分だけ麺がたくさん食べられるのでちょっとだけ我慢。がんばりが目に見えて反映されるから、自己肯定感も高まります。冷麺セラピーですわ。

すごくない?

自分で練った麺をすする満足感。こりゃークセになる。チャーシューもキムチも自分で作りたいし、本当は製麺機が欲しい。私の "冷麺欲" 、とどまるところを知りません。これから極めていく冷麺道はTwitterで自慢していきたいと思いますのでヨロシク!

こうして2022年の夏、よしザわは「冷麺好き一般女性」から、「自家製冷麺を打てる爆イケ女」に進化することができたのでした。めでたしめでたし。

参考文献
〈麺全体について〉
・山田昌治『麺の科学 粉が生み出す豊かな食感・香り・うまみ』(講談社)2019

小麦粉と片栗粉(デンプン)の仕組みがよくわかります。なぜ麺が半透明なのか、他の麺より弾力があるのか、この本ナシでは語れませんでした。料理って科学! すげー!

〈盛岡冷麺について〉
・小西正人『盛岡冷麺物語[繋新書]』(リエゾンパブリッシング)2007

あまり世に出回っていない本らしく、国立国会図書館へ行って取材してきました。朝日新聞岩手版に連載されたルポを書籍化した1冊。著者の小西正人さんの取材力が圧倒的で、読み物としても優れています。そもそも冷麺についてまとめられた日本の本も少ないなか、ここまで盛岡冷麺について詳しく書かれている本は他にないと思います。

・焼肉・冷麺 ぴょんぴょん舎(http://www.pyonpyonsya.co.jp/
冷麺チェーン店のぴょんぴょん舎さん。朝鮮で食べられていた冷麺について解説が載っています。

〈冷麺の作り方〉
♪簡単♪手作りの盛岡冷麺 by 田舎のあねっこ 【クックパッド】
簡単5分の手打ち♪冷麺 by **葉っぱ** 【クックパッド】
【焼肉 白雲台】 社長直伝! 冷麺の練り方

文・写真:よしザわるな
編集:栗田真希

食べるマガジン『KUKUMU』の今月のテーマは、「夏に食べたい麺」です。4人のライターによるそれぞれの記事をお楽しみください。毎週水曜日の夜に更新予定です。『KUKUMU』について、詳しくは上記のnoteをどうぞ。また、わたしたちのマガジンを将来 zine としてまとめたいと思っています。そのため、上記のnoteよりサポートしていただけるとうれしいです。