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【こえ #13】診断結果は「異常なし」。そこから4、5日経って声がかすれ始めた…

大貫 榮二さん


 大貫さんは咽頭がんが見つかった経緯を正確に覚えておられる。

 友人が癌になり不安になって受診した人間ドックの結果を受け取ったのは、2012年の12月20日のことだった。診断結果は「異常なし」。そこから4、5日経って声がかすれ始めた。年明け6日に近くの内科にかかるも「疲れでしょ、風邪ですね」とだけ。自分自身で普段と何か違うと納得がいかず耳鼻咽喉科へ。鼻から内視鏡を入れるや「咽頭がんです、ステージ4です」と告げられた。

 紹介された大学病院からは「手術は3か月先になる」と告げられ、待っていられずに別の大学病院に2月8日にかかり、同じ診断を得る。抗がん剤や放射線やレーザー治療など他の選択肢を調べたが「手遅れです、切るしかありません」と言われ、2月20日に手術をした。朝7時に始まり、21時に終わるという大手術だった。


 事前に「命は助かるが、声は失う」と言われていた。でも、声帯を摘出した手術室から戻って初めて「声を出そうとしても出せず、声を失ったことを実感した」。3、4日は体も自由に動かせない。声は出ない、体は動かない、自分はどうなるのか、、「一人っきりで日が経つごとにモチベーションが下がっていった」。

 そんな折に担当医から紹介された「銀鈴会」を何も知らずに訪れた。大貫さんと同じように癌で声帯を摘出し声を失った人たちが、声を十分に出せなくても笑顔で会話していた。「自分も努力すればああなれるのかな」とその場で入会を決めた。自身の仕事もこれから軌道に乗るところだったが、会社の出勤日を減らし、発声訓練を優先した。


 取り組んだ「食道発声法」。まず口や鼻から食道内に空気を取り込み、その空気をうまく逆流させながら、食道入口部の粘膜のヒダを摘出された声帯の代わりに振動させて音声を発する方法。

 最初の練習は「あいうえお」から。「あ」を5回出す。この訓練だけで汗が吹き出し、酸欠になった。そのたった1音から始まって、2音続けて、3音続けてやっと言葉が言えるようになっていく地道な訓練だ。通常男性の肺活量は3000~3500ccとも言われるが、食道発声では100~110cc程度しか空気を取り込めない。無理して長く話そうとすれば語尾が消えてしまう。

 一生懸命伝えようした相手が「何を言おうとしているか察してくれたり、聞こえていないのにうなずいてくれる」ことは優しさなのだとわかっている。でも、「それは切ないんですよ」と大貫さんは仰る。途中で途切れれば「無理しないでくださいね」とも言ってもらえる。でも、「とぎれとぎれでも最後まで話させてほしいんです」。


 「声帯を摘出するような喉頭がんや咽頭がんや食道がんは人数も少なくてマイナー。でも手術が終わってからこそが大変な病気でもある。だから、よかったら、こういった経験や、こういった集まりがあることを広く知ってほしい」。

大貫さんの願いを応援したい。


▷ 銀鈴会


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