ピンチをアドリブで乗り越える技 16/100(度胸)

自問自答を繰り返しながら、
アドリブと演技の関係を
追求していってみようと思い立ちました。
100回(?!)連載にて、お送りします。


一歩踏み出す度胸

わたしは幼い時から臆病でした。

土手とかに、ちょっと急な坂ってあるじゃないですか、1メートルぐらいの。上りはまあ良いとして、あの急勾配を下がるって、ズリっと、滑りそうで怖いんですよね。
別にそういう経験をしたことがあるというわけでもないのですが、なんか今でもちょっと嫌です。

イギリスの演劇学校には、動作の授業の一環として、アクロバティックの授業もあります。前転や後転はもちろん、飛び込み前転や側転、吊り縄などをやります。

別に雑技団を育成しようとしてるわけではないので、バク転などはしませんが、演技とは直接的に関係なく、ただただ体育の授業のような感じで、専門の先生(美人でした!)が来て授業をしてくれます。

前提の話として、役者の基本的な体型は水泳選手的な筋肉のつき方だそうです。
前回もお話ししましたが、役者には柔軟性が求められます。その為、肉体もパンピングで付けるような硬い筋肉ではなく、柔軟性のある筋肉が良いとされています。

だから、ジムに通うことは薦められてませんでした。
(まあ、肉体的にも時間的にもそんな余裕はないのですが)

それでも、18で入学したわたしの身体は、在学中の3年間を通してだいぶ変化したと思います。とくに、肩幅が広がり、海苔巻き(3/100参照)を扱いやすくなりました。

あと、ダンスのレッスンは中世のダンスから、舞踏会、ジャズ、ミュージカル、タンゴやスウィングなど、大体一通りするのですが、バレーはやりません。バレーは足の筋肉が固くなるからです。

ちなみに、わたしは能狂言で培った足腰が、硬すぎるということで、これを柔軟にするのに苦労しました。
関節が硬いというわけではなくて、筋肉が硬い。しっかりとした動きをするために作られた足腰ではなく、しなやかな動きができる肉体を作ることを求められました。

もちろん、学校を卒業してからは、決まった役に応じて身体を作らなくてはいけません。
場合によっては、筋肉隆々にする必要もありますし、バレー的な体が求められるかもしれません。それでも、基本は柔軟であれというのが教えでした。

また、ダンスでもそうですが、わたしの学校はどのような分野においても、浅くても良いからできるだけ多くのことを経験させておく、
ということを重視していたように思います。

何か役が決まり、それに必要なスキルを求められた時、「やったことありません」ではなく、「経験はあるので、本番までに仕上げてきます」と言えるようにです。

アクロバティックの授業もそういった意味で行われていたのだと思いますが、これにはもう一つ目的があったように思います。

インプロ(即興)においてはもちろん、その他あらゆる場面で、

「えいやっ」

と飛び込む度胸が役者には必要です。それを培ったのがアクロバティックの授業でした。

私はロンドンでインプロの劇団を共同主宰していた頃、全く事前相談なしに、途中で相談をすることもなく、完全なる即興で45分の芝居をするという公演を行っていました。

まさに、全身を研ぎすませ、他の演者のシーンに傾聴する必要があります。

そして傾聴していることによって、次のシーンはこれではないか?
このシナリオは、次にこっちの方向に持っていったら良いのではないか?

というようなことを思いついたときに、
この「えいやっ」とやってしまう度胸が必要となります。

この時、べつに真新しい、世紀の大発見をする必要はありません。それでは突拍子もない提案になってしまい、他の演者や観客がついて来れないおそれがあるからです。

自分はちゃんと状況を傾聴できている、そしてその傾聴に対して最適な解を提供する柔軟性と実力がある、と思わなくては、わざわざ行われているシーンを止めて、次のシーンを始めるために腰を上げることは出来ません。

もっと言えばそこに迷いがあれば、最適なタイミングを逃してしまうことも多々あるわけです。
これだと思い立ったときに、自分の直感を信じて立つことができるか、
これは即興演劇においては、最も重要な要素の1つでした。

ピンチをアドリブで乗り越えようとする時、
周りの状況に傾聴し、脱出の糸口を探っている時、

「お!こうすればいいんじゃないか?!」

と思いつく瞬間が訪れるかもしれません。(訪れて欲しいですね)
そんな時に、ふと頭に浮かんだイメージを実行に移すことができる。柔軟性と自信。
そして何よりも「えいやっ」という度胸これをどう鍛えるか…

飛び込み前転、練習してみますか?

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