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物語の断片 00

今宵も桜の花びらは、満開に咲き誇っている。
月明かりに照らされながら煌々と、見せびらかすみたいに。
その艶やかな立ち振る舞いは綺羅びやかで、どこか狂っているようにも見えた。

少なくとも、私には。

「ありえない……ありえないってば」
スマートフォンの画面に映し出された任務内容を流し見しては、尽きない溜め息を吐き出す。かれこれ数十分の間で、この仕草を何度繰り返しただろうか。
「よりにもよって、最後の任務がこれだなんて」
意図して仕組まれたものなのか、はたまた運命のいたずらなのか。
組織の末端の身分である私に、そんな事を問い質す権限などなく。
「はぁ、やるしかないわよね。引き受けた以上は、全うあるのみよ」
それに、ちょうどいい機会だとも思った。
だって私にとって、『この場所』は自分の運命が変わった、いわば転換点だから。
あの日あの瞬間、捩じれ歪んでしまった人生のレール。
もしかしたら、その災厄や後悔とも、けじめを着けられるかもしれない。
そう前向きに考えているうちに、気持ちが引き締まってきた――その瞬間。

季節外れの桜が、一層と激しく光り出した。
それは月明かりや街灯などがもたらすものとは逸脱した、神秘的な輝きに他ならず。

「さあ始めましょう……最後の跳躍を」

呟き同然の小さな宣言に応じるように、目の前の世界が忽ちに白一色に包まれた。

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