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歩き続けた日々は、生きてきた勲章(「丸窓と涼」を読んで)
立秋を過ぎ、暦の上では秋に変わったにも関わらず、気温の方は連日体温とほぼ変わらない猛暑の日々が続く。
こうも暑いと気分転換に近場のプールで泳ぎたいのだけれども、この時世ではそれすらもままならず、仕方無しに家のノートPCでFPSゲーム『VALORANT』を嗜む毎日である。
毎日二十分程射撃場でウォームアップして、メモ帳に記していた前回プレイ時の反省点を意識して、一時間近くかかる試合に臨む――なるほど、初心者である僕ですらゲームを楽しむ為にきちんと考えて取り組むのだから、このゲームの競技シーンで戦う人々はどれほど真剣に取り組んでいるのだろうと考えてしまう今日このごろである。
そんな家に籠もる日々の合間に、merryさんの記した投稿に目を通した。
鎌倉という地名を見て羨ましいなと思ったが、すぐにそういえば自分も二回程訪れた事を思い出した。しかし、その二回は中学時の遠足と高校時の遠足で訪れたもので、いずれも有名な場所ばかりを適当に見て回ったりお土産を探し回った程度で、投稿のような思い出がほぼ残っていないのだ。
いや、唯一ハッキリと覚えているのがあった。
それは中学の遠足で初めて訪れた時に、浄智寺から銭洗弁財天、そして佐助稲荷まで続くハイキングコースを歩き回った事だ。
というのも、何故かこの遠足ではいくつか通らなければならないチェックポイントが数カ所設定されていて(きっとサボりや勝手な行動を取らないようにする為だろう)、奇しくも銭洗弁財天がそのうちの一つに入っていたのだ。そして確か鶴岡八幡宮から坂道を登っているうちに、いつの間にか小町通りの賑わいとはかけ離れた静かな山道に入ってしまったのだ。
この遠足は十月頃に行われたのだが、奇しくもこの日も季節外れの暑さで、ハイキングコースの途中で何度も休憩を挟んだ気がする。そしてその道中で見た自然の景色だったり、ついでに当時のクラスメイト達と何故かプリキュアやおジャ魔女どれみの話題を語り合ったりした事も思い出してしまった……本当に何故だか。
そしてハイキングコースを抜け坂道を下り、目的地である銭洗弁財天に着いたところで、やっと着いたんだという謎の充実感に満たされた事を思い出す。きっとこの充実感が、未だ鮮明に記憶している理由の一つなのかもしれない。
当然ながら、この場所ではきちんと手持ちのお金を清めた。
お小遣いが増えて、それらをコツコツ貯めて、当時最先端だったMDプレイヤーやPCを買えたらいいなと願って。
もっとも、その翌月に車との衝突事故にあった挙げ句、治療費やら壊された自転車の新調代に呆気なく消えてしまったのだけど。
そんな感じで、なんだかんだ僕にも鎌倉には思い入れがある事が思い出せたので、merry氏には感謝したい。
しかしながら、何故あの当時の僕達は鶴岡八幡宮から北鎌倉方面遠回りして歩いていたのだろう。時間つぶしなのか、はたまた昼食をとる店を探していたのか。記憶から抹消されてしまった以上、真相はもう闇の中である。
もし時を戻せるのならば、適当に歩き回った浄智寺の代わりに明月院をピックアップする。そしてあの円窓――『己の心をうつす窓』を覗きながら、自分自身との対話に悠々と時間を費やすに違いない。
まあそれでも、唯一鮮明に思い出した記憶を振り返った時に湧き上がった感情は、この上なく楽しく心地いいものだった。それは紛れもなく、熱さを帯びた生きてきた勲章。だからこれはこれで良い思い出なのだと思う。
赤ワイン片手にコオロギの真夜中ソロコンサートを聞きながら、ふと思う――あの時おジャ魔女どれみのどのキャラが好きかで議論した級友たちは、今何をしているのだろうと。
色々と大変なご時世だけど、なんだかんだ誰かしらに笑顔を向ける事ができていればいいなと、ささやかながら願わずにはいられない。
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