うつ病患者が、サカナクション・山口一郎さんの記事を読んだ。
2024年4月19日(金)
サカナクションのボーカル・山口一郎さんの記事がYahoo!ニュースオリジナル特集で公開された。
少しだけ簡単に自己紹介をすると、私は2020年にうつ病と正式に診断された。PTSDを発症したのと同時にうつ病も患った。
その後は、心療内科への通院とカウンセリングを経て無事に社会復帰し、転職を経て通常通り勤務していた。
しかし職場でのパワハラ被害でうつ病を再発し休職に至り、現在は自立訓練サービス(復職プログラムを受けられる)を利用している。
病気となった経緯は異なるものの、山口さんと同じ病気を抱え、現在も闘病中である。
記事の概要
山口さんは、2022年に診断を受け、2024年1月に自身のソロライブでうつ病を公表した。
記事の中で、うつ病との闘いの経験を語っている。現在はマネージャーと共に通院し、症状に応じた薬を服用している。最初は活動休止を迷っていたが、所属事務所の理解もあり休むことを決断。闘病中、周囲の支えと「好きなもの」に支えられ、徐々に活動を再開した。
山口さんは、同じ悩みを抱える人が多いことに気づき、うつ病についての理解とケアの重要性を強調し、音楽業界での精神的な支援の整備に取り組みたいと考えている。音楽活動を続けながら、うつ病を公表し、他の人々にも勇気を与えたいとの思いを持っている。
私が経験したうつ病の再発と症状
私がうつ病を再発してから特に悩まされたのは、睡眠。
不眠症状にプラスされるように悪夢を頻繁に見るようになった。会社で出会った人たちが出てきては、嫌味を言う。私の事を笑ってる。
毎晩のように悪夢にうなされている私を家族が心配していた。
毎晩その状態で、情けない話だが家族と一緒の空間で寝る日もあった。一方で眠るのが怖くて泣いてしまい、寝れない時もあった。
落ち着いて一人で寝られるようになるまで、時間が必要だった。
他には強い不安とパニック症状にも悩まされ、身体(咳ぜんそくが治らない、嘔吐、食欲不振、ひどい肌荒れ)にも影響が出るようになり、心身ともにボロボロだった。
全身骨折しているのに試合でフル出場を目指している状態だったにもかかわらず、休職してから3日目には後にお世話になる自立訓練サービスに、はやる気持ちで「利用したい」と電話をかけていた。
ストップをかけてくれたのは、他ならぬ主治医だった。
「復職プログラムを受けに行くことには賛成だが、今は落ち着いて心と身体を休めることを優先して欲しい」と諭された。ひどく焦る様子から、今は通える状態では無いと判断して止めたのだと思う。あの時、先生が止めてくれなければ、私はとことん挫折をしてどこにも行き場が無くなっていたかもしれない。
不安、怒り、焦燥感、無力感。たくさんの感情と恐怖に支配されて心が滅茶苦茶になっていく感覚があって、自分が自分でいることがとても辛かった。
休職中には誕生日を迎えていたが、家族も友達も祝わってくれたというのに違う意味で初めて泣いた。
当日の食卓には誕生日を祝うための料理やケーキが並んでいたが、それを母と食べている最中に自然と涙が溢れて止まらなかった。
号泣しながら「私はもう生きていくのが苦しいと、こんなに辛いのなら生まれたくなかった」と、勢いのまま母に伝えてしまいそうだった。
私を見た母はとても驚いていたが、深くは追求してこなかった。ただ、酷く悲しませたと思っている。
何度も何度も布団の中で泣いた。
死に方を探して、ネット検索をした事もある。
生死を自分で決めるかどうかギリギリの時に、家族の存在が浮かんできた。私が死んでしまったら、きっと1番近くにいる母が自分を責めてしまうだろうと思うと、自然と止まっていた。
自殺企図の話をカウンセラーに打ち明けた時には黙って聞いてくれたが、「今の状態が正常で無いことは分かりますか?」と静かに伝えられた。病気のせいだと。療養に専念して、正常な考えが出来るようになるまで休んでみてください。あの時は激しいパニック状態だったが、そう言ってくれたことは覚えている。
私の酷いときの症状はこうだったが、うつ病を経験したからといって必ずしも全ての人が同じようになるわけではない。
うつ病の難しいところは一概にみな同じような症状が現れるとは限らないことだと思う。数値で推し量ることができず、一般的にうつ病の症状とされていることが必ずしも全ての人に当てはまるわけではないので理解されにくいのが、うつ病患者の悩めるところではないだろうか。
私にとってはうつ病が「現代病」だという言葉もピンと来なかったし、実際に体験してみて「甘え」や「怠け」だけでまとめられるような辛さではなかった。この病気は、医学的なエビデンスのない偏見だけで語られるべき病気では無いと思う。
しかしながら、病気のことを打ち明けると他人に嫌厭されてしまいがちな病気のため、闘病の経験を語る人は少ない。そのため、うつ病に対する一般的な認識は他の病気と比べると非常にアップデートされづらい。
だからこそ、山口さんの勇気ある公表には励まされた。アルクアラウンドを聴いてから、サカナクションを知った。目が明く藍色は思春期の自分にとって衝撃的なナンバーで、何度も繰り返し聴いた。
自分の人生の一部分を彩った人が、自分と同じ病気で苦しんでいたことに驚いた。
立場もなにもかもが違うけれど、記事を読んで心を打たれたし、同時にひとりじゃないと思った。
服薬への抵抗感
記事の中では、当初はうつ病の薬を服薬することに抵抗があったと山口さんは話した。これは山口さんに限った話ではなく、私もそうだった。恐らく多くの人が抗うつ薬や抗不安薬に対しては、良いイメージをもっていないはず。
同じように私も服薬する怖さがあったし、当時は「薬に依存して廃人になってしまうのではないか」といった偏ったイメージによって、服薬することをためらっていた。
再発後は転院を経験し、今もお世話になる主治医のところへ通うことになったのだが、最初の診察のときも服薬に抵抗があることを伝えた。その理由としては以下の通り。
服薬するのがシンプルに嫌だった
過去、服薬していて体重に変化があった
できれば、飲まずにカウンセリングベースで治療したい
1は、自分に合う抗うつ薬を探すことはとても労力がいる。
初めに処方された薬が合うのは珍しく、記事の中でも言及されていた通り、自分に合わない薬を飲むと調子が悪くなってしまう。だから、合う薬を見つけるまで主治医と相談して色々と試してみるので、長期戦となる場合がある。
再発してから新しい病院へと転院したので、また自分に合う薬を一から探すことは途方もないことに思えたし、心理的な部分では心身ともにボロボロではあったけど、薬を飲み始めることで自分を病気だと認めることになるのが嫌だった。
2は、初めて発症した時に体重が増加した。私は体重の増減が激しい体質なので、ただでさえベッドから動くのもやっとという状態のなか太ってしまいより自己肯定感が下がってしまった経験から薬を飲むことを拒んだ。
3は、かなり自分のわがままとも言えるが、できるなら抗うつ薬を飲まないで治療したいと思っていた。主治医は私の意向を呑んでくれていたが、双方同意のもと、抗うつ薬を処方されて今では毎日1回服薬している。
どんなに抗うつ薬を飲まないように粘っても、飲まない方が圧倒的につらかった。
記事の中でも話されていたように、薬を飲むことで徐々に身体が動くようになってきて、その日数がだんだんと増えていく。自分に合った薬であればしっかりと症状が落ち着いてくる。
いまは服薬を忘れてしまった時の方が辛い。中断してしまった時の離脱症状も苦しい。人によっては薬を「お守り」として持ち歩いたりする。
それらは、乗り物酔いをしやすい人が酔い止めを持ち歩くことやかぜを引いたらかぜ薬を飲むことと変わず、うつ病も治療の第一歩として服薬がある。この事は、多くの人に知ってもらいたい。
「好きなもの」が闘病の支えとなる
私はもともと多趣味な人間で、旅行をすることもコンサートに参加することも好きだったし、些細なことでも頻繁に友達と連絡を取り合っていた。
しかし、うつ病を再発してからは全てが白紙になっていった。
YouTube動画を開いても、内容が頭に入ってこない。その他のことも同様で、大好きなアイドルの曲も右から左に流れてしまうどころか、うるさく感じて聞いてられない。メイクも楽しんでいたけれど、今はハードルが高いように感じる。とにかく何もかもが億劫で、スクロールするだけで簡単なSNSばかりを見ていた。
友達とも徐々に連絡を取らなくなるというより、ピッタリと止む。返信が出来なくなる。近況報告にハードルの高さを感じて連絡出来なくなり、自ら孤立してしまうようにひどく自分を追い詰めていた。
そんな自分を救ってくれたものがあった。
山口さんにとって中日ドラゴンズにあたるもの。
それが私にとっては、お笑いだった。
M-1グランプリで令和ロマンに出会ったことで、鬱々とした日々に「お笑い」が飛び込んできた。
優勝したことをきっかけに興味を持ち、YouTubeを見始めて、初めて芸人さんのラジオを聞くようになった。
YouTubeを見ることにエネルギーが必要になり疲れてしまったら、声だけのラジオを楽しむ。
これがかなり闘病の身にハマった。ラジオを聞いていると、ファミレスの隣の席で二人が面白い会話をしているのを聞いてるようで、なぜか心地よかった。世代が近いので話している内容にも共通点があったので思い切り笑えた。
自分の世界とかけ離れている内容だと辛くなってしまって聞けないのだけど、二人の会話の内容は社会に生きている自分とも通じる部分があって良かった。
うつ病の再発後、久しぶりに心から「これが好きだ」と思えるものに出会えた。毎日のように自分自身のマイナスな面に意識が行ってしまっていたところを「好きなもの」に集中することで気持ちが和らいだ。
何かに没頭して、あれこれと考える余地を減らしたことで終わりのない不安が和らぐような気がした。これもうつ病と付き合う方法の一つなのかもしれない。
病気でも好きなことを楽しんでも構わない。いや、病気だからこそ思い切り自分の好きなことに心を癒される時間を大切にして欲しい。
うつ病患者がこの社会を生きるには
うつ病を再発した自分を受け入れられなかったのは、自分をうつ病だと再認識するのが嫌だったからだ。
再発前に、友人からうつ病を経て復職した人について話を聞いたことがあった。私がかつてうつ病を経験した事は言えていなかったから、友人は当然知らない。
率直に「うつ病の人と話すと、暗い思考に引っ張られてしまうから嫌だと感じる」と健常者の正直な感想を聞かせてくれた。
その言葉を聞いて傷ついたわけではなく、ただ純粋に「そうだろうな」とだけ。経験してないから分からないのは当然のことだと思ったし、その時は友人にうつ病に対する理解を求めることも打ち明けることもなかった。
知らない人も多いと思うが、最近は病気であることを隠さないオープン就労といった働き方も一部企業では出来るようになり、うつ病患者が就労をする上で、困りごとや悩み事について周囲のサポートや理解を求めやすいように変化している。
だが偏見や考えの違いによって、健常者と対立する場面もある。一例を挙げると、精神障害者が公共交通機関で割引を受けられることに対してネット上では賛否両論が巻き起こる。
メンタルヘルスケア後進国の日本が抱える社会の矛盾に、うつ病患者がボロボロの身で立ち向かっていくにはかなりの勇気と胆力が必要となる。
うつ病の経験を受け入れるのは、社会の枠組みから離れたことに対して強い不安を抱いていた私にとって簡単なことではなかったし、見えない病気を抱えながら就労を続けることも苦しいものだった。
どこにも行き場がない。
前にも後ろにも進むことができずにいた中で、それでも心が軽くなったのは「病気はいずれ治っていくから、適切な治療をしていきましょう」と主治医が話してくれたことと、転がり落ちていく前に受け止めてくれた社会のセーフティネットが存在していたことが大きかった。
主治医に励まされたことで療養に積極的になり、社会復帰を目指して自立訓練サービスを利用するようになって初めて前を向けるようになった。
もし私と同じような思いで悩んでいる方がいるのであれば、自分に差し伸べられている「優しい手」だけは離さないで欲しい。病気からの回復の一助となる医療制度・社会制度、支援サービスはこの国に確かに存在している。
「元に戻る」のではなく、「新しい自分」になる
まさに今は、自分が病気を抱えながらこれからどのように生きたいか、どのようなキャリアを積みたいか改めて考える分岐点に立っているところだ。
「元に戻る」のではなく「新しい自分になる」
山口さんのこの表現が、今後こうありたいと思っていた状態を的確に言語化してくれたようだった。
治療をしているとはいえ一日の中にも体調の波が大きい時もあるし、前向きになり始めて少しづつ元気になったかと思えば大きな揺り戻しが来てしまい、ひどいうつに苦しんでベッドから動けなくなってしまうような一進一退の日々を過ごしている。心身ともに元気だった頃の姿からは確かに程遠いと言える。
ただ、私は元から自己評価が極端に低かったので、元の自分もそれほど好きでは無い。病気を再発したことで自分自身が更地となってしまったのなら、そこに新たな自分を再構築してみようと私は山口さんの言葉をそう解釈した。
この記事を書こうと決めてからも、沢山の時間を要しているし、書きたいところまで書き出せてアウトプットが上手くいったという実感を持てたのに、そのあと数時間は身体が動かなくなり横になっていたこともある。
後ろめたいとも言えるこの経験をさらけ出したとしても伝えたかったのは、うつ病に対して理解を求めたいという思いだけではなくて、この病気を乗りこなすために多くのうつ病患者が葛藤を抱えながらも必死で前に進もうとしていることを知って欲しかった。
また、休むことを酷く恐れてボロボロの身になりながらも前に進むことを決意したあの頃の自分には、ここまでよく頑張ったと伝えたい。何もうまくいかない人生だからこそ必死に社会にしがみつこうとしていた。ただそれだけだった。
現在は社会の枠組みから外れている身ではあるものの、この病気を乗りこなしながら、目の前の課題に対して精一杯取り組んでいくという約束が出来るだろう。
何度もこの人生を投げ捨ててしまいたいという考えが頭の中を巡ったが、それでも周りのサポートを受けながら、生きることを諦めずに治療に専念してみようと思う。少しずつだとしても、うつ病を再発したことを受け入れていく。
そして、この思いを綴るに至るまでの勇気をくれた山口さんに、心から感謝している。
後書き
5月5日(日)21時~ 「山口一郎"うつ"と生きる~サカナクション 復活への日々~」が放送されるようです。うつ病患者として、この病気を勇気を持って公表してくれた山口さんを応援しています。