見出し画像

ハッピーアワーは本来の自分に戻っていく女たちの物語

身体性を再認識していくほどに、女性たちは社会のモラルや道徳を逸脱し、よくも悪くも人間性を獲得し始める。ドライブマイカーよりも本質的に村上春樹的な作品で驚いた。

社会という鎧を剥ぎ取られた人間の愚かしくも美しい生を生々しく、客観的に捉えている。

俳優の演技。女性が怒ったときにはもう手遅れというのがリアルすぎる。

あと社会心理学的なリアルさ?直情的にみえる女性がセックスに慎重だったりとか、こういう細部まで精緻に行き届いた現実感はどこから生まれるのだろう。本当に不思議だ。

中身が空っぽな男(村上春樹の小説によく出てくる不条理で暴力的な人物を思わせる)が物語の鍵になり、彼の行動により女性たちが変質していく(もしくは本当の姿に戻っていく)描き方が見事であり、この中身が空っぽな男、というのは映画監督自身なのではないか、という感想も持ってしまうぐらいに、この映画は映される登場人物を客観的に描けているし、なおかつ脚本や演出が観る側に与える刺激が何を齎すのかに自覚的だと感じた。ある種の社会実験をメタ化したような超ハードな作品でありながら、やってることは月9の不倫もののようなベタさを持っており、そこにシュールさがある。深刻な場面で変な笑いが起こる捩れたユーモアがクセになる。

素晴らしい傑作。


#映画感想文

この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?