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自分のやりたいこと⑤ - NPO入門編

前回の記事はこちら(未知との遭遇編)

話は少し前に戻る。

2014年12月、社会人2年目の冬。

僕が経営企画に異動してしばらく経った時だ。

僕は京橋のナチュラルローソンにいた。

キョウライセキが代表を務めるNPOのミーティングに参加するためだ。

事前にネットで調べるとキョウライセキは教来石小織(きょうらいせき さおり)というらしいことがわかった。

教来石は映画が好きで映画監督を目指していたが、挫折して諦めて派遣社員をしていたらしい。そこから離婚や病気などいろいろあって、カンボジアの電気のない農村部で映画上映をする団体を立ち上げたそうだ。

なぜ映画上映か。

電気のない農村という外の世界を知らない子どもたちに映画を通じて外の世界を知ってほしい。とのこと。

団体名はCreate A Theater in Cambodia 略してCATiC(キャティック)だった。

派遣社員からNPO代表?あまり聞いたことがない。

本当に不思議な人だなと興味を持った。

しばらくすると、ナチュラルローソンに教来石が現れた。教来石に案内され、すぐ近くのビルに行き、すごく急な階段を上り会議室に到着した。 会議室にはすでにメンバーがいた。10人くらいの参加者でパッと見た感じみんな20代くらいだった。

そして、教来石に自己紹介をするように言われた。

教来石「みんな、今日から新しいメンバーののぶくんです。自己紹介をお願いします」

僕「いやいやメンバーじゃないですから」と強く否定する。

メンバーのいる前で僕はメンバーではないと否定した。

当然、変な空気が流れる。

僕「見学に来たナカツカです。よろしくお願いします」と補足。

無邪気な教来石にハメられた。

ミーティングに参加すると、ミーティングは情報共有の場というより、みんなで会議の時間を使って何か一緒に作業をする雰囲気だった。普段のビジネスとは違うアットホームな感じでピリピリしてなく、お菓子を食べながら楽しそうに何か会話をしているような感じだった。これがボランティアかと思った。

会議が終わると不安そうな教来石が僕のところに来て、「メンバーになってくれますか?」と言った。普通だったらもう少し慎重になって回答するところをなぜか直観で引き受けてしまった。すぐに教来石は「みんな、のぶくんがメンバーになりました!」と叫んでいた。

教来石というのは会えばわかるが本当に不思議な人だ。

リーダーというとみんなを引っ張っていく、たくましいリーダーを普通はイメージする。しかし、教来石はみんなを引っ張らない、むしろ仕事もできない、常に困っている、人に頼っている。そんなキャラクターだった。

しかし、なぜか不思議なことに彼女の周りに人が集まってくる。

僕もそのうちの一人だった。

以下はその日の僕のブログである。

“僕もちょうど週末などをNGOとかもっと有意義に過ごしたいなと思っていたので、今日見学で団体のMTGに参加してきました。
結果、団体に入ることにしました。
僕はカンボジアに行ったことがないです。
理由は直観ですね。おもしろそうだったから。
あと、なんとなくカンボジアに引き寄せられてる気がするんですよね。
そういうの変に信じるというか。。
なんとなくフィリピンの時を思い出すんですよね。”
(2014年12月14日のブログより)

今ではなんで入ることになったか全然思い出すことができない。

でも記事を読むとどうやら僕は直観で入ることにしたらしい。

そして僕はNPO法人CATiCに入った。

それがすべての始まりのような気がする。

ちょうど僕が団体(CATiC)に入った時は、2か月後に日本武道館で行われる大きなイベントに向けて準備をしている時だった。
イベントというのは、ワタミ主催の自分の夢を語るプレゼンコンテスト。全国500人以上の応募者の中から、三次審査をクリアして最後に残った7名が、日本武道館で延べ8000人の観客と50社以上の企業の前でプレゼンできて、そして優勝賞金が2,000万円という、漫画みたいなコンテストだった。
教来石は奇跡的にファイナリスト7名に残ったらしい。

僕も途中からではあるが、本番に向けてプレゼンの手伝いを始めた。イベントの準備というのはつまり、教来石のプレゼン練習だ。この時、NPOのメンバー全員が、他の業務を止めて、教来石のプレゼン練習に時間を費やしていた。

仕事が終わって、渋谷のレンタル会議室を借りてプレゼンの練習。

教来石のプレゼンを見てダメ出しをしていく。そういう日を何度か繰り返した。

途中、ダメ出しのし過ぎで打たれ弱い教来石が逃走するというハプニングもあったりした。

あっという間に時間が過ぎて、気づくと本番前日だった。

最後の練習の終わりにみんなで記念写真を撮ろうということになった。

「もし2,000万円獲ったらこの写真すごい価値ですよ?」と冗談を言いながら写真を撮った。まさか本当に獲れるとは思っていなかったので、雑な取り方で手前にある僕の服が映りこんでしまっている。真ん中に不安そうな教来石がいる。

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迎えたプレゼン当日。

2015年2月23日の月曜日、その日は雨が降っていた。

僕は仕事を定時に終わらせ急いで武道館に向かった。

初めて武道館に入った。これがよくTVで見る武道館かと思った。

TVだとよく歌手がライブをしていたりするが、まさかNPOでここに来るとは思ってもいなかった。

薄暗い武道館に入り、上の階に行くと、メンバー、寄付者、関係者等が固まって座っていた。CATiC応援団だった。横断幕なんかもあり、スラムダンクみたいだった。

すでにファイナリストのプレゼンは始まっていたが、ラッキーなことにまだ教来石はプレゼンをしていなかった。

席に着いて、時間があったので受付でもらったパンフレットを見た。

ファイナリストの中にひときわ目立つ岡田光信さんという人がいた。

経歴を見ると、東大卒、財務省からアメリカでMBAをとり、マッキンゼーという輝かしいキャリア。発表内容は宇宙ゴミを取り除くという壮大な事業だった。

これはすごい。敵わないと思った。教来石のキャリアは派遣社員、バツイチ、以上だ。その上岡田さんのプレゼンは、ロジカルで無駄のない熱いプレゼンだった。完璧だった。

一方、教来石のプレゼンはどうだったかというと、プレゼン中はずっとドキドキだった。

完璧でなくていいから、とりあえずセリフは飛ばさないでくれと祈っていた。8分のプレゼンが永遠のように感じた。

教来石の話は、小さいころから映画が好きで映画監督を目指すが夢破れて、派遣社員になる。

そこからカンボジアで映画を上映するまでという、これまでのストーリーだった。

教来石のプレゼンはロジカルよりも感情に訴えかえるプレゼンだった。岡田さんのプレゼンとは対照的だった。

一部怪しいところもあったが、教来石のプレゼンはなんとか無事に終わった。


他のファイナリストのプレゼンも聞いたが、僕個人としては岡田さんが一番で今でも印象に残っている。

そうして投票時間になった。投票は電話投票システムだった。

会場にいる人が各ファイナリスト専用番号に電話をして投票する。

リアルタイムでステージにある大きなスクリーンに投票数が表示される。1、2位はなんと岡田さんと教来石の接戦だった。投票締め切り直前で画面が黒くなり結果がわからなくなった。

アイドルの歌をはさんで、優勝者発表の時間。

応援団一同ドキドキだった。

岡田さんか教来石か。

優勝者は・・・

教来石小織さんです!

まさかの教来石が呼ばれた。

応援団一同、やったー!と歓喜。

普段、僕はこういう時は冷めているのだが、この時はメンバーと一緒にハイタッチで飛び跳ねた。鳥肌が立った。

一方、教来石は自分でも何が起こったか理解できておらず、ぽかーんと口を開けていた。魚みたいだった。マヌケな顔が大きなスクリーンに優勝者として映し出されていた。

そんな教来石の表情を上から見ながらメンバーと一緒に笑っていた。

こうして我々は優勝賞金2,000万円を獲得した。

この日、この活動のポテンシャルを感じた。

この活動は人々に何か響くものがあるのではないか、そう信じるようになった。

この日から僕はこの活動により一層深く関わるようになった。


優勝して何かが変わる。みんなそう信じていた。


しかし、物事というのはいつも自分の思った通りにはいかないものだ。


つづく


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