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明けまして

年明けの仕事は身が入らない。

久しぶりに目の前の画面とにらめっこしていただけで、めまいを起こしそうになる。

と、

「あ~~~~~~~~~~~~~~~!」

向かいの席から突然大きな声が聞こえたかと思うと、

「はぁ………………」

ため息と椅子の軋む音が同時に聞こえ、そして静かになった。

年始早々面倒なことに巻き込まれそうな予感がしたので、向かいで起きている「何か」には決して触れることなく、黙々と仕事を進めた。

_______________

その日の昼休み。

「ねぇねぇ」

「お疲れ。どした?」

さっきまで向かいに座っていた同僚に対して「どした?」なんてナンセンスかもしれないが、触らぬ神には祟りなし、だ。

「今日の夜暇?飲みに行こ」

ただし、神が自ら接触を試みてきた場合はどうにもならない。

「まぁ…いいけど」

_______________

想像通り、その日の夜は愚痴祭りだった。

「もうほんとさぁ~~めんどくさいよね、もっと休ませろっ!こんな年の初めからなんでこんな一生懸命あれこれやることあるんだろうね??効率考えてよ全く」

「……そうだな」

「ってかよく何にも言わないでやってたね!すごいほんと!私には無理だわ~~」

「……とりあえずやるしかないな、って諦めてただけだよ」

普段からにぎやかな分、アルコールが入ると尚更五月蠅い。これを知っていたからあまり乗り気ではなかったのだが。

「あ~~、喋りすぎて暑くなってきちゃった!」

そう言いながらパタパタと顔を仰ぐ。

「顔めちゃくちゃ赤いけど、大丈夫そう?」

「ねー!バカにしてるでしょ!」

試しに茶化してみると、頬をぷうっと膨らませた。

くるくると感情が変わって、仕事をしている時よりも忙しそうだ。

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「うぐぅ…」

「飲みすぎだわ、バカ」

ここまでほぼ予想の範疇というのが驚きだ。

明日も仕事だというのに、やけに酒の進みが良いのは気になっていた。それをあえて指摘しなかった俺にも若干の落ち度はあるだろうが。

「帰れんの?」

「やだ~……帰るのめんどくさい~…」

「じゃあどうすんだよ。明日は休みじゃねーぞ」

「うう~…」

そう言いながら、とうとう座り込んでしまった。こうなると面倒だ、ということは恐らく多くの人が理解してくれることと思う。

「しっかりしろよ。駅までは送るから」

体に触れるとなにかと角が立つので、ひとまず近づいて声をかけると、

「………おんぶして」

「……は?」

「じゃないと帰らない!動けないもん!」

そう言いながら立ち上がる素振りも見せず、じっとこちらを見ている。

逡巡したが、置いていく方が圧倒的に面倒だとわかるのにそう時間はかからなかった。仕方なく、しゃがみこんで声をかける。

「仕方ないな。乗れ」

ゆっくりと、背中に重みを感じた。酔いのせいか全身が熱く、炬燵を背負っているかのようだ。

自慢ではないが、炬燵も女性もおんぶをしたことがないので勝手がわからない。不器用ながらもなんとか背負い、歩き始めた。

「……zzz」

そのうち、背中からは寝息が聞こえてきた。全身の重みと、柔らかい体の感触が伝わってくる。

「まったく…ほんと子供みたいなやつだな」

そう言いつつも、さっきより俺の体温が上がった気がするのは、アルコールの作用だけではないのだろう。

すると、なにやらぼそぼそと声が聞こえてきた。

「……ですからここはぁ~…はい、はい…そうですぅ…」

「…いや違くて、そのぉ~…うぅ~ん…」

寝言を聞く限り、夢の中でも現実とそう大して変わらない出来事を経験しているようだ。こいつも俺も働きすぎなのだろう、きっと。

「…明日もがんばるぞ~。へへ…」

そしてまた、何もなかったかのように寝息が再開された。

「いや………最後のって寝言なのか?」

少しにやけてしまい、1月の寒空へふっと息を吐いた。駅までの道のりはまだ長いが、不思議と気は重くなかった。


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