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ジェンダーロールを飛び降りたい症候群

 十代前半から二十代後半まで訳の分からない焦燥感と「このまま消えてしまいたい」という希死念慮に近いものに囚われてたのが、30歳になった途端に憑物でも落ちたみたいにほとんど気にならなくなった。
 思春期特有の豆腐メンタルとは斯様に度し難いものなのか…と思っていたのだが、それを上回る転換期が40歳になった途端、唐突に訪れた。

「もう子供を産めって言われなくて良いんだ!」

 その時の開放感を、なんと表現すればよいのだろう?
 別に子供嫌いというわけではないのだが、親戚一同から「30歳までには結婚しなさい!」と言われ続け「40歳までならまだ子供が産めるわよ!」と言われるのが正直苦痛で仕方なかった。産めよ増えよ地に満ちよと言われても、21世紀になろうが人間はそう簡単には単性生殖できないのである。
 親戚の集まりにはなるべく顔を出さないようにしていた私が、「そろそろ両親が住む新潟に移ってもいいかな?」と思えたのはアラフォーにさしかかったからだ。
 親戚の集まりに顔を出しても、今一番ホットな話題は私の婚活から両親含めた親戚の終活にシフトしていたのである。

 別に、男になりたかったわけではない。
 2歳下で身長182cmのマッチョな弟を見慣れていると、身長162cmの自分が男になったところで問題が解決するとは到底思えなかった。
 かといって、女らしくもない。
 両親は可愛い可愛いとパフスリーブのワンピースなどを着せて大事もっこに育ててくれたが、もともと骨格ががっしりしてたのでパフの部分に肩がみっちり入ってしまう。
 小学校高学年にもなれば、クラスメイトのゆるふわ系お嬢様との違いに否が応でも気づいてしまう。
「私、ワンピースよりシャツと長ズボンの方が良いなぁ」
 勇気を出して母親に打ち明けたところ、ちょっと残念そうな顔をしたものの、意図は汲んでくれた。
「女の子だから可愛い格好して欲しかったけど…。お母さんもね、スカート履くのあんまり好きじゃなかったんだわ~」
「昔マレーネ・ディートリッヒって凄い綺麗な女優さんがいたんだけど、映画ではドレスを着てるのに普段は男物のスーツ着てたって話でね。マニッシュっていうんだけど、それがめちゃくちゃ格好良かったのよ!」
 蛙の子は蛙である。
 そんなわけで家族は私が中性的(マニッシュ)な格好をするのに特に反対も抑圧もしなかったのだが、田舎ゆえかはたまた時代のせいなのか、トラブルが一気に増えた…のは、今回は割愛する。

 時代が変わり、トランスジェンダーという言葉がTVで語られるようになり、上戸彩さんが金八先生で性同一障害の生徒を演じたりするようになった頃。
 自分の高い声が嫌だとフォークで喉を突くシーンはとても衝撃的で思わず涙が出た。性同一障害とはそんなに辛いのかと改めて思うと同時に、そこまで深刻じゃない自分は中性的な格好が好きなだけで男になりたいわけじゃないんだな~と再確認したのは置いておく。
 そんな時、ネットで知り合った友だちから新井祥先生の実録漫画「性別が、ない!」を渡されて「貴方もこれじゃない?」と言われる。
「どれ?」
「半陰陽、インターセックス」
「私、普通に毎月生理あるし胸もあるし」
「遺伝子検査はしてないでしょ?」
「そりゃ、遺伝子検査するほどの大病したこと無いですし」
「隠れてるだけで男かもしれないじゃない」
「いや……無いじゃろ……」
 当時はそのまま流したんだけど、それ以来、仲間内の一人が私を事あるごとに男扱いするようになって閉口した。

 最近になって、Kindle unlimitedで「性別が、ない!」シリーズ全作が読めることを知りまして、昔借りた1巻から最終15巻までと、その後の「性別が、ない!人」シリーズまで全部読んでみました。

 物凄い勢いで情報アップデートされてた。正直、吃驚した。
 そして、私は感覚的に「FtX」にかなり近いことにようやく気がついた。

 そもそも、女じゃなければ男であれ!って区分けが雑すぎるんだよ。
 中間でいいじゃない。ほんとそれ!
 女性の胸は後から生えてくるから違和感ある人が多い。ほんとそれ!
 だいたい、男になればすべて解決するように思えない。
 私は万が一男になっても脇毛も脛毛も剃ると思う。
 胸はなくてもいいが、ち○こが欲しいわけじゃない。
 多分、男になっても座りションするよ…だって掃除が楽だもん。

 私自身の価値観も時代に合わせてアップデートさせていかなければならない。女らしくない、は男らしくあれ!ではなくなったのだから、大手を振って中性的に歳をとりたい。
 ならば、これからの普段着をどうするか?
 これが、意外なところで解決した。

 昨年あたりからワークマン女子というのが流行っている。
 作業服でおなじみワークマンをカジュアルウエアとして着る女性が増えているらしく、ワークマンプラスというカジュアルも扱っちゃう店舗ができたのだ。
 お値段はリーズナブルで丈夫で機能的な服が多い。
 私が何よりも感動したのはAERO STRETCH(エアロストレッチ)シリーズである。細身でストレッチ素材、しかも男女兼用!ポケットでかい!
 メンズ服を着たことがある女性ならわかると思うのだが、女性の体型ではボトムを選ぶのが一番難しい。
 試着させてもらったところ、162cm 55kg の私だと Sサイズでウエストがかなりゆるい気がするが、これぐらいならベルトで調節可能。メンズパンツにありがちな尻と太股がパッツパツという感じはない。
 レディースにありがちな太ももとお尻の丸みが必要以上に強調されることもない。ある意味、理想の中性的なシルエットじゃないですかこれ…!

 嬉しくなったので、ボトム2本と半袖シャツとUV長袖パーカーとスニーカー買って帰ってきた。
 現在40代なので、そのうち閉経するだろう。また一歩、中性に近づける。
 私はこのままジェンダーロールから飛び降りる。

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