Nervous Fairy-17"sENsiTive bEtRayal"


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「は!?一緒に!?」
「いや、布団は分けます!ベッドと、今隣の部屋にある布団で!」
「ああ、ならいいや」
「流石に一緒に寝たらまずいでしょう」
「まずいどうこうではない。関係性的に、ない」
「……そっか。んじゃ、布団持ってくる」
「あ、いや、俺持ってくるよ。テーブル簡単に畳めるからやっといてもらえると」
「わかった」
 そうして俺は部屋を出る。そのまま隣の客間に行き、既に敷かれている布団を一旦畳んで掛け布団一式とともに自室に運び込む。
「敷けるかなぁ?」
「大丈夫。余裕」
「ならよかった」
「じゃ、想ベッドな」
「え?いや、結城がベッドだよ!」
「いいよ。そっち使いな。さて、明日早いらしいし、もう一杯コーヒー飲んだら寝よう」
「……いいの?」
「いいよ別に。あ、ってか、俺が普段使ってるやつが嫌なら布団でも」
「いや、そんなの気にならないけど」
「そっか。じゃベッド確定で」
「……ありがとう」
「いーえ」
 自分もマグカップに半分だけドリッパーにコーヒーを入れる。残った分量全部。これで枯れた。
「……ねぇ」
 それを見届けたのか、一瞬ぼーっとしていた想が口を開いた。
「なに?」
「飲み終わるまで、話していい?」
「まあ、別に?」
 俺が作業机に軽く腰掛けると、並ぶように同じ体勢になる想。しおらしいモードがまだしっくりこないので違和感つええ。
「……兄、さ」
「うん」
「…わかりやすいからちょっと乱暴な言葉使うけど、最初に犯してきたの、2年半くらい前で」
「…一気にかなりえぐい話から来たな」
「あ、ごめん!やめとく!?」
 そらまあ、こんな話をいきなりふっかけられたらそいつはびっくりするだろうよ。自分男だし、下手したら想像するぞ?しないけど。
「いや、話したいなら聞くよ」
「…ごめん。思い出しちゃって」
「まぁ、仕方ないか」
 さっきのハグの勢いがあるのかな。並んで机にハイチェアよろしく並んで腰掛けていると、自分より少し低いその肩幅が切なく見えて、一旦机にマグカップを置き、畳まれてあったブランケットを想の肩にかけてやって。
 ちょん、っと肩を組んだ。
「いいの?」
「なにが」
「……なんでもない」
 何かちょっと言いにくそうな想。まあ、話の中身からしたら雰囲気は真逆だよな。
「…でもありがとう。でね」
「うん」
「その時に全部奪われたの」
「……全部って?」
「…他人に言っちゃダメだからね。結城だからいうんだからね」
 だいぶ特別扱いだな。逆にこえー。
「言わねーよこんな話。そして他人に話すタイミングもねーよ」
「通報もダメだからね?」
 それはしたいけど、でも本人が言うなら仕方ない。
「わかったよ。んで、全部って」
「…処女も、最初の妊娠も、ファーストキスも全部」
「……え?もしかして堕胎?」
「そう。しかも、実の兄の子っていうね」
 頭を抱えそうになる。
「……メチャクチャじゃねーかよ……」
「うん。結城に言われて気付いた」
「なんで気付かねえかな」
 おかしいって。そんな日常はあっちゃいけない。
「なんでだろうね。一回、恐ろしいぐらいの支配力に屈しちゃうと、洗脳みたいになっちゃうのかな」
「……まあ、想像はできる。体験がないから実感なくてすまんな」
「結城が同じようなこと体験してたらそれこそ引くよ」
「まぁ、そっか」
「でも……」
「でも?」
「……あたしが兄を悪者にするのに躊躇してる理由は、もう一個あって」
「……ふーん」
 そう返答して俺はコーヒーに一口つける。
「なにその興味なさそうな感じ」
「関心はあるよ。けど、こっちから掘り下げる話じゃないかなって思って」
「そんなことないよ。あの人、母に扱われてるんだと思う」
「扱われてる?」
 言葉の意味はわかるけど、想が伝えたい意図がわからなかったから聞き返した。
「……性的に。何回か、母屋でお風呂終わりとかで聞こえたことがある。母のそういう声」
「……うっわ。連鎖してるってこと?」
「かもしれない。確証はない。あたしにとって兄は加害者だけど、被害者でもあるかもしれない。証拠はないから、あれだけど」
「自分の息子と?」
「…うん。わっかんないけどね!変な話してごめん。でももしそうだったら、可哀想すぎるって、思って、だから誰1人、どこにも言ってこなかったんだ。もしあたしが兄の話したら、芋づる式になっちゃうから」
「しちゃえばいいのに。裁かれないのおかしいだろ。DVの連鎖」
「……普通はそう思うよねぇ。やっぱり」
「きつい言い方だけど、普通じゃないからそう考えても想の家には通用しないんだろうよ」
「……だよね、やっぱり」
「うん。悪いな。でも、2人だから言わせてもらった。悪りぃ」
「ううん。聞けてよかった。付き合ってくれてありがとう」
 そういうと。もうそれなりには冷めていたのだろうコーヒーをぐいと飲み干す想。
「ちょっと、お手洗いってくる」
「おう。二階にもあるの知ってるっけ?」
「え?そうなの?」
「客間の正面の扉」
「ありがと」
 というと、想は机の上にマグカップを置いて退出していった。
「連鎖、か」
 ひょっとしたら、もしかしたら、そんなことが自分の中にもあるのかもしれない、と怖く思わなくもない。今はまだ可能性は低いけれど。兄の、残滓。
「あ、そうだ」
 ふと思い立って、衣装ケースから新しいシーツを引っ張り出してベッドのシーツを取り替える。
 一旦取り払った掛け布団を直していると、想が戻ってきた。
「ん?なにしてんの?」
「ああ、シーツだけでもと思って替えてた」
「え!?いいのにそんな」
「いいよいいよ。どうせそろそろ洗濯のタイミングだったから。明日の朝洗濯機にぼーんだな」
「……ありがとう」
「いちいち大袈裟な。こんくらい普通だろうに」
「そんなことないもん」
 ……そう、か。これくらいも普通じゃない。
「そっか、寝床、ソファなんだもんな」
「そう。3年ぶり、普通のベッド。超嬉しい」
「……ならよかった。よし、俺もトイレ行ってくるそしたら寝よっかね」
「うん。ベッド入っててもいい?」
「いいよ」
「わーい!ふかふかー」
 想が飛び込むのを見て、マグカップを持って、階下に降りる。まだ両親は盛り上がっていた。シンクにマグカップを置いて、眠る旨を告げてからリビングをあとにする。
 手洗いを済ませて部屋に戻ると、ベッドで眠りに入るかどうかの想がいた。長い髪が、想の頭上にふわりと置かれている。少しだけ、どこかに飛んでいきそうな翼に見えた。声は、かけなくてもいいか。大変な日、疲れただろうし。なるべく物音を立てないように部屋の明かりを常夜灯に切り替えて、自分も布団に入る。なんか、いつも通りなんだけど、布団の最初の冷気が気になった。
 すると、ベッドの上の方で寝返りを打つ気配がする。
「ねえ」

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基本的に物語を作ることしか考えていないしがないアマチュアの文章書きです。(自分で小説書きとか作家とか言えません怖くて)どう届けたいという気持ちはもちろんありますけど、皆さんの受け取りたい形にフィットしてればいいなと。yogiboみたいにw