Nervous Fairy-18" rEVErsible mind"


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「起きてたんかい」
「あんな短い瞬間じゃ眠れないよ。のび太くんじゃないんだから」
「そりゃそうか。はよ寝ろなー」
「…うん…けど…」
 なにやらしんみりしている。俺は布団に入った体勢が想に背を向ける形になっていたこともあって、顔が見えないからなんかモードが違うのかもしれない。そういう感触はわかる。
「…ねぇ、結城」
「なんだよ」
「…眠るまで話してもいい?」
「…聞かなくてもわかるだろ」
「……そっか。ごめん。じゃ、おやすみ」
「逆だ。ばか」
「…いいの?」
「寝落ちOKルールな、お互い」
「うん。ありがとう」
 ベッドが暖かいのだろうか。今のありがとうのようにすごく穏やかな想の声を聞いたのは初めてだった。
「…ねぇ」
「なに?」
「好きな食べものってなに?」
「……そういやそういうのお互い知らねぇな。こっちも答えるから想も教えて」
「うん。ちなみにあたしは中華系。お父さんのチャーハンとか大好きなんだ」
「あ、男飯だからベーコンとかゴロゴロ入ってるやつ?!」
「そうそう」
「美味そうだなぁ。俺も時々作るけど、人の作ったやつはうまい」
「え、でも結城の食べてみたいな。いつか」
「そんなんいつでも作ったるわい。俺は中華ならエビチリとか好き。あと青椒肉絲。中華に限らなきゃ、実はほっけ」
「ほっけ?」
「あのほら、焼き魚」
「へー。あたしも好きだけど、なんか意外。面白い」
「そうか?あれあれば白米いくらでもいけるぜ」
「……確かに」
「じゃあ、こっちからも一個……嫌いな食べ物は?」
「ひねりないなぁ」
「いいじゃん。別に」
「……チャーハン。もう、あれは食べられないから」
「……そうか」
「でもコンビニとかで見るとつい買っちゃうんだよなぁ。で、内心で比べて、1人で切なくなる。まだまだ、立ち直れてないんだぁきっと」
「しょうがないだろ。いつまでも引きずってんじゃない、とか他人にどうこう言われることじゃないしな。それは。想が、ただ優しいだけ」
「……結城のご両親はすごいなぁ」
「なんだ、急に?」
「こんな息子育てちゃうんだもんなぁ」
「こんなですまんですね」
「違うよ…ね、手、出して。あたしに近い方」
「ん?いいけど…なんで」
「いいから」
「はい」
「手相を見てしんぜよう」
「いいよ別に。しかも暗くて碌に見えないだろ」
「あたしは夜目がきくのだ」
 コーヒーの飲み過ぎかな?テンションたけぇ。
「はいはい。どーぞ」
 と言って俺は左手を差し出す。
「ありがと。そんじゃ、ん!」
 ん!?イッテェ!手のひらに爪立ててこられた感じがした。
「痛!」
 と、反射的に掴まれた左手を引っ込めようとすると、手を握ったままの想が引っ張られたようにベッドからこちらに落ちてきたが、最初気づかなかった。
「なんだよ痛ってぇな…って?!」
 ベッドの方に視線を向けると、すぐ真横に想の顔があった。やっべえこの距離はあれの距離。
「……痛くして、ごめん。あと、来ちゃってごめん」
「…近い近い」
「近いとダメ?」
「そういうんじゃないって言ってるだろ」
「わかってる。わかってるの。だけど……」
 暗くてあまり表情はわからないけど、少ししんみりとしている感じがする。
「……けど?」
「……3年ぶりのフカフカより今は、さっきのハグが欲しい」
「え…またあんな恥ずいことをしろと?」
「うん。ねえ、して?」
「そういう攻め方はずるいだろ。それは反則だろ」
「反則でもなんでもいいから」
 と、言いながらやつは乗っかっていた掛け布団に潜り込んで俺の布団に入ってきた。
「はい。準備できた」
「準備できた、じゃねえ。そんなことしねーよ。彼女でもあるまいし」
 と言いながら俺は寝返りを打って背を向ける。
「それはそうだけど……」
「明日早いらしいからはよ寝ろ。ベッド戻って」
「………」
 少しおとなしくなったが、布団から出ていく気配はない。少し待ってみるけれどそれでもない。
「おい、おも…」
 名前を呼ぼうとしたら、その瞬間。後ろから腕が回ってきた。左腕の下に差し込まれた彼女の左手が力弱く胸を抱き抱えようとしてくる。少し、震えてる?
「……ごめん。戻るね」
 泣きそうな声でそう言って、布団を出ようと腕を引き抜き、立ち上がろうとする想を、今度は俺が引き止めた。


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基本的に物語を作ることしか考えていないしがないアマチュアの文章書きです。(自分で小説書きとか作家とか言えません怖くて)どう届けたいという気持ちはもちろんありますけど、皆さんの受け取りたい形にフィットしてればいいなと。yogiboみたいにw