Nervous Fairy-32“陽登済々"


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 翌日の朝が来た。
 早めに起床して、結城からのお使いを準備する。自分の準備もして、制服に着替えて、バッグも持って階下に降りると、すでに玲子さんが朝食を準備してくれていた。しかも買ってもらった食器だ。にやけが止まらない。勇気にも見せようと写真を撮ってから早めに済ませる。
 面会時間の直前ぐらいにお父さんの車で病院まで送ってくれた。一旦帰ってからお仕事に行くらしい。車の中で結城に今から向かう旨を送信した。
 面会開始時間になると、あたしたちは507号室へ向かう。
「おーはよー」
 玲子さんにけしかけられてあたしはドアをノックし、そんな声をかけながら入室する。
「おはよう。朝から元気だな」
 と、スマホを触っていた。
「あんたも元気そうね」
 と、いうと、玲子さんは衣服などの整理整頓を始めた。
「まだ麻酔効いてるから痛みもないしな。昼過ぎが怖え」
「それくらいに切れるんだっけ」
「らしいよ。ひどいようなら痛み止めの処置はしてくれるらしいからまあ大丈夫だろ」
「あまり痛くないといいねぇ。あ、結城これ、頼まれたやつ。雑誌はまた後で持ってくるね」
 と、結城の机から持ち出してきた一式をベッドにつけられた食事台の上に置く。
「お、サンキュ。えっとスケッチブックと、ペンケース。うん合ってる」
 と、目線だけで確認した。
「もう座ってそういうことやってもいいの?」
「いや、わかんない。昨日の今日だからそれは無理だとは思うけど」
「寝ながらかけるのそんなの」
 と、玲子さんから疑問符が飛んだ。
 手盛り無沙汰なあたしは一度ベッド脇のソファに座る。
「まあ、ラフスケッチぐらいならなんとか。家でも思いつかない時はゴロゴロしながらやってた。腕疲れるけど」
「でしょうねぇ。ほんとに、まだ昨日の今日なんだから、痛みなくて実感ないかもだけど、無理しちゃだめよ?」
「わかってるよ」
「あ」
 と言ってあたしはガバリと立ち上がる。
「ん?どうした?」
「いや、玲子さんに任せっぱなしで申し訳ないですが、あたし、学校に連絡して来ます。この後の時間」
「あ、そうね。篠倉結城の母も行く旨伝えておいてもらえる?同行するって」
「はい。細かい事情は行ってからって前提で状況だけ伝えてきますね」
「うんごめん、あんがとー」
「いえ。じゃ結城、またあとでー」
「おう」
 そう言ってあたしは一度部屋を出た。
 今は問題ないってことだけど、一応病院だ。同じ5階の休憩スペースに携帯使用禁止の案内がないことを確認して、学校の連絡先を選択。呼び出し音が鳴り出した。
『はい、私立酉乃刻高校教務課、中村です』
 出てくれたのはクラスの古文担当の中村先生だった。
「あ、中村先生。1年イプシロン・クラスの新刻です」
『あら、新刻さん。どうしたの?』
「五十嵐先生にお話があるんですが」
『五十嵐先生?ちょっと待ってね』
 と、保留音がなる。五十嵐先生は現代文担当兼担任だ。
 そして保留音はすぐに切れた。
『はい変わりました。新刻どうした?』
「ちょっと、昨日の夜トラブルがありまして、本日この後事情説明に伺いたいんですけど、午前中時間ありますか?」
『ああ、1限2限の時間帯なら今日は。なにがあった?』
「詳しい事情は長くなるので、お伺いしてから。簡単にお伝えしますと、ちょっと事情があってここ数日同じクラスの篠倉くんの家に避難的に滞在しているんですが、昨日夜、荷物を取りに帰ったら、その時に篠倉くんが怪我をしてしまって入院しています」
『……なんて展開だ。怪我って、重いのか?』
「いえ、腹部を刺されたんですが、傷も浅いそうで意識もちゃんとあります」
『…刺された?なんか厄介ごとに巻き込まれたとか?』
「そう言って終えばそうなんですが、さしたのが、実は私の兄で…」
『……込み入ってんな。おっけー。こっちはホームルーム後の8時45分以降、10時半までなら』
「ありがとうございます。あ、ちょっと待ってください。篠倉くんのお母さんも同席するそうなので、今すぐ時間決めてきます。待っててもらってもいいですか?」
『……いいけど、同席でいいのか?事情面』
「あ、もう全部話してありますし」
『わかった』
 そうしてあたしは保留にして病室に足早出戻り確認すると、9時過ぎで良くないか?ということになった。すぐに休憩スペースに戻って五十嵐先生に告げると了解をもらえた。
 通話を終えて病室に戻ると、結城は玲子さんと何やら話しながらもうスケッチブックに手をつけている。
「玲子さん、OKでした」
「おっけい、ありがとうきおちゃん」
「ん?きおちゃん?」
「ああ、昨日決まったの。あだ名。いつまでも新刻ちゃんじゃ硬いでしょ?」
「……ああ、なるほど、苗字の末尾と、名前の頭か。また面白い付け方すんな」
「おや、見抜いた」
「簡単だわ」
 それから昨日の夜、病院から帰ったとの話をしていると、学校に向かう時間が来た。
「それじゃあ、一旦行くね、結城。学校への連絡終わったら戻るから」
「おう。おかんは?」
「あたしも戻る。この後、先生に詳しく経過聞きに行く約束あるからね」
「了解。じゃまた後で」
「うん。後で」
 そう言ってあたしと玲子さんは一度病室を後にして一路学校へ向かった。

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基本的に物語を作ることしか考えていないしがないアマチュアの文章書きです。(自分で小説書きとか作家とか言えません怖くて)どう届けたいという気持ちはもちろんありますけど、皆さんの受け取りたい形にフィットしてればいいなと。yogiboみたいにw