Nervous Fairy-13"kIndly cOnfusioN"
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新刻にそれなりの説明やらなんやらしたあと、自室に籠って、少しデザインラフの作業をしていると、あっという間に30分ほど過ぎていた。
自分の部屋にあるコーヒーメーカーで淹れたコーヒーも若干冷えてしまっていた。
「マジか。もう30分?」
稀にそういう日はあるけれども、なんか集中力が日常とは段違いだ。なんでだろう?
結果、首がガチガチに凝っていた。動かすとギシギシという感じだ。
そろそろ風呂なのかな、と思って、俺はラフスケッチだけ持って作業場の扉を閉める。
すると、コンコン、と、扉をノックする音がした。
「はい?どうぞ?」
と、促すと、ゆっくりとドアが開いて、その先に、まだ髪も濡れたままの新刻がいた。
「……そんな焦らなくていいのに。ビッショビショのままじゃんか。乾かしたり色々ルーティンしてからでいいよ」
「ま、まあ、とりあえずお風呂空いたよって言い行こうと思ったら、お母さんが部屋教えてくれたから」
「ああ。お節介な母ですまんね」
「…でも、いい人だね」
「悪い人ではないが、天然で突っ込んでくるからたまにめんどくさいけどね」
「そんな」
「冗談。家族だから言えることよ」
「……えっと」
「あ、割、口が滑った」
新刻には禁句だったか。しくった。
「…仲、良くてていいね」
「それはどうも。それより、髪!乾かさないと冷えるぞ。早くドライヤーかけてきな」
「……うん。また声かけるね」
「おう、サンキュ」
そう言うと、新刻は扉を閉めた。少し間があって微かに階下に降りていく足音がする。
なんだろう。遠慮しすぎだな。少し解してやってやりたい気になったけど、どんな方法がいいのだろう。やはり会話か。
そう思ってリビングに行くと、母は父の帰りを待っているのだろう、テレビを見てくつろいでいた。
「おかん、ちっといい?」
「んあ?ああ、別に」
「保けてんなぁ」
母が座っているソファの隣に座る。
「父、まだなん?」
「日越えるって」
「あ、そうか。んじゃ先に」
「なによ、改まって。新刻さんのこと?」
言っていいことと言っていけないことの境目をしっかり意識して、新刻が髪を乾かしてくるであろう時間を考慮すると、単刀直入がいいだろうと思う。
「正解。ちょっと親族間で嫌な目にあって、偶然俺がその場に遭遇してさ。それで連れてきたんだけど。安心させてやるには、やっぱ会話かな?」
「なんか、共通の趣味があって知り合ったんじゃないの?あんたが女の子家に入れるなんて人生初じゃない」
「それは言わんでいい。なんとなく、ここまで彼女いなかった感が出て切ないから」
「いなかったじゃない。まったくいつまでどうて」
「やめい。それはいいから。でも逆にだからわかんないんだよ。ちょっと2人でやりたいこともあるからさ」
「……抱きしめてあげれば?」
「は!?」
何を言い出すこの母親。不純異性交遊推奨派か。
「まあ、確かに?話すのも前提として大事だけど、キスするとか手を繋ぐとかって、抱きしめるよりなんか大袈裟になんか恋人っぽ過ぎない?」
「それはそうだけど、それ言ったら抱きしめるのもそうだろ」
「や、なんか違うんだよねぇ。あれって、親子でもするし、他人でもする。挨拶でもあるじゃん。その全てにあるのが、ハグってやつ。ああ、そうそう!フリーハグみたいな感覚でしてもいいんじゃない?」
「まあ、言わんとしていることは理解できるが納得ができない」
「なんでよ」
と言って母は一口煎餅を齧った。
「結城みたいな年齢の子達なら、その辺敏感にならざるを得ないってのはわかるけどさ。でも結局、そうなのよ。自分を包んでくれる他人の体温が一番で最強なんて絶対神みたいなこと言わないけど、でもかなり上位にはなると思うよ。新刻ちゃんに具体的に何があったかなんて野暮なこと聞かないけど、冷たかったんでしょ?なら、温めるしかないから」
……理論は、わからなくはない。けど、
「それって、俺でいいのかね」
「助けたんでしょ?助けなきゃいけないって思ったんでしょ?なら今の新刻ちゃんの気持ちは、恋愛でなくても、友情でなくても、そう言うふうに思ってくれたあんたに頼りたいって思ってんのかもよ。しかも親族がらみのトラブルから助けたなんて余計でしょ。泊まりに来るくらい信用してるんだもの。DTのあんたでも、同級生の男の子の家に泊まりに来る時の心持ちは想像できるでしょ?」
「……ま、想像くらいは」
そこで、リビングの扉が空いた。
「…あ、ドライヤー、お借りしました。ありがとうございます」
新刻だった。すっかりきちんと乾かしていて、いつも見る新刻だった。服装以外は。
「OK。じゃ、俺風呂はいっかな。父まだだろ?」
それまでの会話は切り上げて、母に聞く。
「うん。先入っちゃいな」
「うーっす」
「あ、じゃあ新刻ちゃん、ちょっとお茶でも飲まない?もしまだ時間よかったら主人帰るまで起きてるから暇潰し付き合ってもらえない?」
と、何か母が駄々を捏ねるように言うが、俺が差し込む。
「いや、オカンよ、大変なことがあったんだから休ませてやれよ。少しいるんだから明日でもいいだろ」
「あ、ううん。しのく……結城くん。なんか、目冴えて眠れないからちょうどいいかも。お母さん、私でよければ」
「やったー」
この母親よ。
「……新刻がいいならいいけどさ。じゃ、俺は風呂行ってくるわ」
「…うん。ごめんね、遅くなっちゃって」
と新刻が心底申し訳なさそうに告げてくる。
「ん?まだ全然だよ。11時過ぎたばっかり。気にせんとー」
と、言い残してリビングに入ってきた新刻とすれ違う形で部屋を出ようとすると。
「……あ、篠倉。あとでもしかしたら少し話したいかも。わかんないけど」
と、声をかけてきた。
「ん。OK。俺夜型だし」
「……うん」
さーって、風呂入ろう。にやけてる母の視線は無視だ無視。
と、部屋に戻って準備をして、考え事をしながらサクッと風呂を終えても、リビングからは話し声が聞こえてくる。ちなみに親父の帰宅はまだらしい。
何やら話し込んでいるようなので、リビングに入るのは一旦やめて、部屋に戻ってさっきのラフに再度とりかかる。女同士というのは、世代はあまり関係ないらしい。母にとってみたら、新刻は娘みたいな歳の幅だし、余計なのかもしれない。
「いいこってす」
とか独り言を言いつつ、ラフが進んでいく。
と、数分して騒がしい音が聞こえてきた。父が帰ってきたのだろう。お?っと思って、階下のリビングに降りる。流石に連れてきた張本人が無視ってことはダメだ。
「おお、おとん。おかえり」
「ああ、結城。帰ったー。つかれっち」
「もう母から連絡いってると思うけど、こちら新刻さんね。クラスメイト。ちょっと色々あって」
「ああ、うん。聞いてる。大丈夫大丈夫。しばらくゆっくりしてくれい」
ほんと大雑把な親父だよ。
「ありがとうございます」
「さ、じゃあ、ご飯の準備します?お風呂?」
「飯!」
「はーい」
と、ここで母が席を立ちキッチンに向かった。ガールズトークも終わりらしい。
「あ、じゃあ、私もここで失礼しますね。お父さんすみません、客間お借りします」
「ん?ああ!全然いいよ。今度帰り早い時に食事でも一緒にしませう」
ませうってなんだ。
「よろしければぜひしたいです!」
と新刻が返すと、
「結城が女の子家に入れるなんて初めてだからなぁ」
「おい!余計なこと言わんでいい!酔っ払ってんのか!」
「飲酒運転はしてまっせーん」
「ったく。まあ、とりあえず仕事お疲れ。じゃね。また明日」
「失礼します」
「かしこまらんでいいて。じゃまた明日ー」
その一言を合図に、俺と新刻がリビングを出て2階に向かう。
「新刻、ごめんなー。おちゃらけた父で」
「……ううん。気さくで、正直助かった」
「そっか」
階段を登ってすぐに客間がある。そこが、とりあえず今日明日の新刻の部屋になっている。
「じゃ、多分、また明日」
さっきの件もあるが、一応俺はそういって別れることにした。が。
「あ……やっぱ、ちょっとしたら部屋行ってもいい?」
「全然構わないよ。どれくらいだ?」
「多分……15分くらい」
「OK。甘いの好き?」
「……好きだけど。なんで?」
「なんでもなーい。じゃまた後で」
「……うん」
そう交わして、俺は自室に、新刻は客間に入っていった。
が、俺はすぐに出てキッチンに向かう。親父の飯を温めている母の横で、ココアを作っている間、両親に散々いじられたけど別にそんなんじゃない。避難所みたいなものなのだ。言えないけど、実の兄にレイプされかけたなんて言えねぇわ。
できた飲み物と軽食を持って部屋に戻ると、そこでコーヒーメーカーのスイッチを入れた。
で、あっぶねーギリギリセーフ。まだ13分ギリ前。まだ来てないだろう。
コンコン。
俺が部屋に戻ったのを察したのかというタイミングでドアがノックされた。
「はーい?新刻?」
「……入っても?」
「どぞー」
というと、ゆっくりとドアが開いた。
「……お邪魔します」
手ぶらだ。そりゃ持ってくるものはない。当たり前だったのだけど。
「あ、部屋に置いといた枕さ、あれ持ってきたほうがいいかも。俺の部屋クッションとかないから」
というと、新刻はまるで性格が変わったかの如く、ドアも開けっぱなしで速攻で枕を持って戻ってきた。どうしたこのキャラ変。
「……改めて、お邪魔します」
「いいよー全然。なんか、話したいみたいなこと言ってたもんな」
「……うん」
「そうくると思って、ココアがここにあります。もう少しでコーヒーが出来上がります。どちらがいいですか?」
「……え?いいの?」
「1人で二杯は飲まんだろうよ」
「……じゃあ、ココアで」
「甘いものの質問」
「あ、それこれか」
「そうよ。ほれ。どうぞ。あ、そこにあるブランケットは使ってもいいよー。抵抗なきゃ」
「……うん」
と言って恐る恐るハンガーにかかっているブランケットを手に取り肩からかけて、床に置いてある小さいちゃぶ台のような丸テーブルの向こうに座った。今更だが、シンプルなパジャマ姿だ。なんか新鮮。そのまま、俺が置いたココアを少しすすると、熱かったのか瞼がぎゅっと閉じられる。こんな仕草するんだ、新刻。とか思いつつもやっぱり、こういう家庭的な環境下での接触が苦手なのだろう。それはもう予想はついていたけど、確信になる。
「……無理にとは言わないけど、そんなビビんなくていいぞ?」
「…別に…ビビってるわけじゃない。けど」
「……あんなことがあっちゃなぁ」
「……だから、それは初めてじゃないし、少し、慣れちゃってるんだって」
ん?ちょっと待て。
それは。
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基本的に物語を作ることしか考えていないしがないアマチュアの文章書きです。(自分で小説書きとか作家とか言えません怖くて)どう届けたいという気持ちはもちろんありますけど、皆さんの受け取りたい形にフィットしてればいいなと。yogiboみたいにw