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硯考 淡墨で交差する順序が書き順と逆になるのはなぜですか。その2

前回の実験では枯墨(製造後約20年経過)を使用しました。
その結果、淡墨で交差する順序が書き順と逆になることが分かりました。

今回は新墨でどのようになるのか確認したいと思いますが、手持ちの新墨がないので、市販の墨液(書法一品 墨運堂)を使用します。

写真C
墨液で淡墨を作り横画、たて画の順に連続して十字を書きます。
どちらの線が上に来るのかはっきりしません。
交差部の横画の上の白い線も現れません。

写真A 続けて書いた十字(墨液)

墨液ではなぜはっきり分からないのでしょうか。

枯墨というのは年月の経過で墨の粒子が粗大化しています。このため淡墨が紙の繊維を浸透してゆく際、粗い粒子は和紙の繊維を通過できずに先端の方では水だけが浸透することになります。そのため線の周りの部分には水分だけの白い部分の帯ができます。

一方、墨液は細かい墨粒子が比較的均一に分散しています。中には非常に細かな墨粒子があります。この粒子は和紙の繊維を通過し先端の方にも浸透します。そのため線の周りの部分は白ではなく灰色の帯を作ります。

このような灰色の帯は横画とたて画の交差部に白線を作りません。このため交差部の横画とたて画は、はっきり識別できなくなります。

以上の結果から、

淡墨で交差する順序が書き順と逆になるのは、墨粒子の大きさの差による浸透性の差に起因するものです。

交差部の逆転現象は、墨粒子が粗大化した枯墨に固有の現象であり、細かい墨粒子を含む墨液、新墨では発生しにくくなります。


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