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How do you like Tuscaloosa?

 感想を求める表現として、”How do you like …?”というものがある。アラバマ州タスカルーサに越してきて間もないころ、”How do you like Tuscaloosa?”とよく聞かれた。直前に住んでいたさいたま市とも、以前に十ヶ月滞在したことがあるニュージャージー州ニューブランズウィックとも全く違う環境に戸惑っていた頃で、なんと答えて良いかわからずまごつくことが何度もあった。最大の違いは交通環境。まず歩道がない。車で移動するのが当然なので、車道の横に歩道をつけるという発想がないのだ。歩道が整備されているのは大学のキャンパス内やダウンタウンの一部だけ。家から大学までは1マイルほど、歩いて20分足らずの距離だが、たどり着くには時速100キロを超える猛スピードで走る車の横を決死の覚悟で進まなければならない。
 公共交通機関も発達していない。市営のバスがあるが、路線は限られており、本数は少なく、運行時間も短い。平日の最終バスは午後6時、 週末はおやすみだ。日常生活の用をたすのには到底足りない。大学の人事部に書類を提出しなければいけないことがあった。一年目の9月のことだ。アラバマの夏は長い。10月に入っても30度を超えることがある。車に乗れば5分ほどの距離だが車はない。電車はもちろん走ってないし近くにはバス停もない。たった一枚の書類のために片道40分の道を汗だくになりながら歩いた。
 車社会アメリカで、車なしで過ごした最初の1年は大変だった。だから、”How do you like Tuscaloosa?”と聞かれるたび、悩ましい思いをした。あまりネガティブなことを言ったら失礼じゃないかなどと考えているうちに返答の機会を逸して気まずい雰囲気になったこともある。うまく口が回ったときには”I like the town overall. People are kind, and weather is good. But you can do nothing without a car. That is tough” (全体としては好きです。人は優しいし、天気も良いし。でも車がないと何もできません。それが大変です)などと言ったと思う。

自宅付近の道。車線の右端を示す消えかかった白線と欄干のあいだにはわずかなスペースがあるが、縁石はない。授業が遅くなった夜、何度も後ろを振り返りながら歩いたのを思い出す。

 この質問に答えづらかった理由は、この町にネガティブな感情があったからだけではない。この質問自体に違和感があった。”How do you like…?”と聞かれると、もう「好き」であることが前提されていて、ネガティブなことを言うことが想定されていないように思われた。なんでこんな聞き方をするのか、相手がこの町を嫌いな可能性は一切考えないのか、どれだけ自信満々なのかと思った。経験を重ねるうちに、これは典型的な言い回しでlikeにそれほど強い意味はなさそうだと気づいたが、それでも違和感は消えなかった。
 日本出身でアメリカで暮らしている友人数人にこのことを話すと、同じような違和感を抱いたことがあると教えてくれた。やはり、日本で英語学習を始めた人には捉えがたいところがある表現なのだろう。こうゆうとき、英和辞書はとても役に立つ。辞書アプリの検索窓に “How do you like” といれてみる。多くの辞書がこの形で定型表現として収録している。特にウィズダム英和辞典の解説は勉強になった。「(意見を求めて)Aはどう思いますか;Aは気に入っていますか(!このlikeはfindとほぼ同義…)」だという。
 そうか、このlikeはfindという意味だったのか!それならわかる。findには「…と思う」という意味がある。本の感想を聞かれて"I found it interesting”(面白かったです)と答えたこともある。一瞬納得した気がしたがまだもやもやは消えない。findと同じなら、なぜわざわざlikeを使うのだろう。
 フロリダ出身の友人Wさんにこの疑問をぶつけてみた。まず、"How do you like Tuscaloosa?"に"No, I don't like Tuscaloosa"と答えることは可能かどうか。これはあり得る回答だという。では、"I like Tuscaloosa"とだけ答えるのはどうだろう。これには少し不足を感じるそうだ。やはりなんらかの具体的な情報、「どのように」好きなのかという説明を欲するようだ。さらにlikeの代わり他の動詞を使ったらどう意味が変わるかも聞いてみた。まずウィズダムで学んだfind。Wさんは聞いたことがないという。"Older people may use it"(お年寄りは使うかも)とのこと。Wさんによれば、最も近いのはfeelだという。ほぼ同義だが、likeを使う場合相手が対象に好感を抱いているという前提があると説明された。
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