Two years into a graduate program
英語学習者にとって、前置詞は鬼門の一つだ。前置詞の使い分けは大学入試の文法問題の頻出事項の一つだった。例えばmade fromとmade of。日本語ではどちらも「〜から作られる/できている」だが、英語では使い分けがある。いまでもいちいち辞書で調べなければわからない。「原材料の質が変化する場合はfrom, 変化しない場合はof, out of を用いるのがふつう」だそうだ(『オーレックス英和辞典』)。日本語では区別しないのに英語では違う前置詞を使わなければいけないというケースは多く、またそうしたものは試験の題材になりやすい。だから日本で英語の勉強をしていると使い分けについてはたくさん練習する機会があるが、逆に前置詞それぞれが持つ意味や表現力に鈍感になるのではないか。
前置詞が意外と多くの情報量を担っていることに気付かされることがたまにある。一つは今年一月、ニュージーランド首相ジャシンダ・アーダーンが辞任を発表した会見の映像を見たときだ。辞任理由に触れて次のように述べた。
目を引いたのはこのintoだ。もしわたしが「この仕事について二ヶ月で辞めていたでしょう」と言おうとしたら、"I would have departed two months after I had assumed the office"とでもしてしまいそうだ。after I had assumedとわたしが四語かけて言うことを、アーダーンはintoの一語で片付けている。前置詞を使いこなすとはこうゆうことなのだろう。<(期間を表す表現)into(やったこと)>で「〜をして…」。覚えたい表現だ。I am still struggling to keep up with weekly reading assignments two years into a graduate program.(もう2年も大学院にいるのに毎週のリーディング課題についていくのにまだあっぷあっぷです。)
先日アラバマ大学の学生新聞Crimson Whiteを読んでいたときにも、前置詞が多くの情報を伝えているのを目撃した。経済的な理由で十分な食事をとることができない学生が数多くいることを伝える記事だった。
ここで「おっと」思ったのはwithoutだ。これもわたしなら、同じことを言うのに、"since the student does not have a car"とやってしまいそうだ。withoutと一言で処理すれば五語の節約になるし、英文もよりシンプルになる。いつもシンプルに言えば良いと言うわけでもないが、複数の言い方ができるに越したことはない。
こうした例は枚挙にいとまがないが、もう一つだけ見てみよう。
カリフォルニアに住む詩人Grant Chemidlinの最新の詩集『WHAT WE LOST in the SWAMP––poems––』に収められた"TOUR DE FORCE"という詩の一節だ。両親との思い出を語ったものだ。注目したいのはaround。「あちこちを」と訳した。aroundには「(何かの)周り(を)」という意味もあるが、「グルグル動き回る」という意味もある。ここはそうゆうニュアンスだろう。「車でいろんなところに行った」ということであれば、we went to many places in his carとも言えるが、これではmany placesと具体的な訪問地が思い浮かんでしまい、漠然と当て所なくドライブしたという感じが出ない。何より長い。aroundはシンプルにこうしたイメージを伝えることができる。
このように、前置詞は意外と大きな表現力を持っている。さまざまな前置詞を使いこなせるようになれば、よりシンプルにたくさんの情報を伝えられるようになる。使い分けを超えて、それぞれの前置詞の持つ意味の深みを味わいたい。
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