1.生まれと子供時代
南の地方、某かの県で生まれた人間が僕である。 とにかく体が弱く、薄着をすればすぐ風邪をひく子供だった。 僕の幼い頃の記憶は、夜間救急からの帰り、ぐったりした僕をおぶった父の背中から見た、田舎の集営住宅の階段、その天井片隅に居た小さな蜘蛛がせっせと巣を作っている姿だった。
たんたん、と、コンクリートの階段を両親が登る音を聴きながら、眠りについた。 照明がちかちかと点滅を繰り返し、その光に虫が寄ってきていた。 踊り場から時折見える外は真っ暗で、ただただ闇が深く感じたのを覚えている