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【短編】怪盗シスター(笑)【即興小説トレーニング 妹シリーズ】

「いてて……」

 まだ首が痛い。
 全く、アイツは遠慮なく攻撃してくるから、こちらの身体がもたない。
 幼い日、父さんが俺達に、

『おいおい、相手はお兄ちゃんなんだから遠慮しないで本気でぶつかれ』

 と言った言葉を、忠実に守っているフシがあるから、可愛いとも思うのだが、如何せんお互いもういい大人になって来た今日この頃では、命の危険すら感じることがあるので、困る。

「昨日のは酷かったな……」

 二階の階段の上からのドロップキック。
 完全に顔面に入ったそれは、俺の首に深刻なダメージを与えたのだった。

「一日経って、仕事を終えて帰って来るこのタイミングで痛いって、もう完全にどこかを痛めてるよな、これ……」

 さて、そろそろ家に着こうというこのタイミングでの着信。
 LINEのトークだった。
 そして、案の定、妹からだった。

「なになに?」

『予告状 今夜お兄ちゃんがおかえりになる際に、
 お兄ちゃんの大事なものを奪いに参上します。
                      怪盗シスター』

 だそうだ。

「……と、とうとう、命を奪いに来たか……」

 背中にいやな汗が流れる。
 一体何をされるのか?
 玄関の前に立って、扉を前にして立ち止まる。
 スリガラスの向こうに人の気配。
 間違いなく、怪盗シスターさんだろう。
 何をされるかどうかも分からないので、扉を開けるのが躊躇われる。
 開けるべきか、開けざるべきか……

「ちょっと、お兄ちゃん! なんでドアを開けないのよ!!」

 とうとう業を煮やして、怪盗シスターさんが扉の向こうから非難の声を上げてきた。

「いや、何かされるの分かってて、この扉を開けられる勇気が俺にはないんだよ!」
「意気地なし!!」

 えらくご立腹の怪盗シスターさんだ。
 さて、どうするか?

「ああ、もうっ!!」

 そして、俺が開けることを悩んでいると、とうとう扉の向こうから怪盗シスターさんが扉をこじ開けた。
 ガチャリッ

「は?」

 その扉の向こうから現れたのは、本当に怪盗シスターさんだった。

「わ、私は、怪盗シスター!! あなたの大切なものを奪いに来たわ!!」

 黒いマントに、目を覆う仮面をつけて決めポーズ。

「お前、何やってんだ?」
「ああ、もう、だから怪盗シスターだってば!!」

 正直、かなり恥ずかしい恰好である。

「分かった分かった。分かったからそこをどいて家に入れてくれ」
「あー、もう、のり悪い!!」
「はいはい」

 そんな妹の横を通って、俺は家に入ろうとする。
 すると、

「喰らえ!!」
「へ? うぷっ!!」

 何かがふれた唇。
 驚く俺と、仮面越しにバッチリ目があったのは怪盗シスター様その人だ。
 その距離はゼロ距離……つまりは、そういうことである。

「お前!? っておい! 酒臭いぞ!!」
「へへ!! いただいた!!」
「おい、こら酔っ払い! ってか、お前、未成年だろ! ちょっと待て!」

 とんでもないものを奪われたのだった。
 おいおい、怪盗シスター……

 このあと、滅茶苦茶セッキョウした。
 のは言うまでもない。
 未成年の飲酒、ダメ、絶対。

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