【短編】朝食の準備 【即興小説トレーニング 妹シリーズ】
朝起きて、顔を洗ってリビングに戻ると、妹がテレビでニュースを見ていた。
珍しいこともあるものだ。
「お前にしては、随分と早起きだな」
「変な夢見て、目が覚めた……」
妹は実に不機嫌そうだ。
テレビの中のアナウンサーに文句を言っている。いくら言っても、その言葉が届くことはないというのに。
「お兄ちゃん、お腹すいた」
ふいに妹は、こちらも見ずにそんなことを言い出した。
もちろん、いつものことである。
「おいこら、今日の当番はお前だろ?」
「私は寝不足で動けませーん」
「この野郎……」
「野郎じゃないもん、女の子だもん」
屁理屈をこねて、唇を尖らせる様子は、まるで子供のようだ。
いや、まぁ、今でも十分子供なのだが……
自分勝手な妹に半ば呆れつつ、冷蔵庫を開けると、ろくな食材が入っていなかった。
しまった、昨日買い出しに行くのを面倒臭がったのが失敗だったか……
「……たいしたもの作れないからな」
「そう言って、美味しいやつ作ってくれるから、私はお兄ちゃんが大好きなのです」
「凄まじく棒読みな愛の告白、どーも」
「おーなーかーすーいーたー!!」
「待ってろ、このナマケモノ」
かろうじてあった卵とハムで目玉焼きを作って、昨日夕飯だったグラタンの残りを、マヨネーズとハムの残りを加えてアレンジ。即席パスタサラダを用意した。
だが、致命的なことに、パンや米が全くない。
さてどうしたものか……。
「みてみて、お兄ちゃん! テレビにお母さん出てる!」
「本当だ。全くあの人、親子なのにテレビで顔見る回数の方が圧倒的に多いよな……」
うちの母はいわゆる芸能人なので、なかなか顔を合わせられない。既にいろいろ諦めている俺は、それを寂しいと思ったことはない。
が、妹は微妙に寂しいらしい。
それが男女の違いなのか、それとも性格の違いなのか、はたまた年齢によるところが大きいのかは、正直なところわからない。
結局、戸棚から見つけたお麩を使って、フレンチトースト風の料理を作って出すことにした。
野菜が微妙に足りないと思ったので、ニンジンをスティック状にして添えてみた。
「ほら、出来たぞ。食らうがいい!」
「おお! あの冷蔵庫から、ここまでのものが作れるんだから、本当にお兄ちゃんはすごいよね!」
どうやら気に入ったらしく、モリモリと食べる妹だが、一向にニンジンスティックには手を伸ばさない。
「こら、ニンジンを食え、ニンジンを」
「私、宗教上の理由で、ニンジンは食べられないのです」
「なんだよそりゃ、そんな宗教聞いたことないぞ?」
全く、ワガママな妹だ、本当に。
「お兄ちゃんは、彼女とか作らないでね」
「ん? なんだって?」
「べっつにー」
でも、俺にとっては、大事な妹なのだ。
元気に朝食を食べる妹の姿を横目に、俺は、炊事場で調理に使った道具たちを洗ってしまうことにする。
ふと見れば、妹は眉をハの字にしながらも、キチンとニンジンスティックを頬張っていた。
ワガママだか、可愛いやつなのだ。
「よし。洗い物終了!」
さて、今日も1日、頑張るか。
俺はエプロンを脱いで、戦闘服へと着替えるべく、自室へとむかうのだった。
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