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【短編】 久しぶりの休日は 【即興小説トレーニング 妹シリーズ】

 ストーブの上のやかんが、シューシューと湯気を出している。
 昨日も雪が降っていたが、今日の冷え込みも対したもので、家の前に出来た水溜りに氷がはっていた。
 久しぶりに取れた休みに、家でゆっくりするはずが、結局ドタバタすることになってしまったが、休みを取って正解だったと、ため息をつく私だった。

「すー……すー……」

 私の横には、安心したのか、やっと眠った娘がいた。
 私はそっと、その子の背中に毛布をかける。
 あとで、布団に運ばねばならないが、大きくなってしまった娘を、果たして私はベッドまで運べるのか、いささか疑問ではあった。
 それにしても、久々に休みが取れたのだが、それがわかったのがその当日だったので、これはサプライズにでもするかと思い、突然家に帰って驚かそうとしたのだが、結局こちらが驚かされてしまったな。
 帰ってくるなり、

「お母さん、お兄ちゃんが死んじゃう! どうしよう!!」

 と、娘が私に飛びついてきたのだ。
 もともと、お兄ちゃんっ子だったのもそうだが、大げさな子なので、大したことはないだろうと思っていたら、息子はインフルエンザだったらしく、かなりの高熱を出して苦しそうに唸っていた。
 お医者様を呼んで、見ていただいて、薬をもらって。
 お医者様が帰ってからも、氷嚢を変えたり、汗を吹いたりと、娘も随分看病を頑張っていたから、疲れて眠ってしまうのも無理はない。

「ふふ……本当に、優しいいい子に育ってくれて、ありがとう」
「むにゃ……お兄ちゃん……」
「どんな夢を見ているのかしらね……」

 楽しそうに笑いながら寝言を言う娘を眺めていると、なんだか私も眠たくなってきてしまう。

「母さん、帰ってたんだ? そっか、正月の特番シフトか……」
「あら、起きたのね? そうよ。急に休みになったから、あなたたちを驚かそうと思って帰ってきたら、あなたが倒れてるんだもの……あの娘、パニックだったわ……大変だったのよ、もう」
「いろいろ迷惑かけた、ごめんね」
「いいのよ、インフルエンザだって。ゆっくり休みなさい」
「ああ」

 目を覚ました息子は、申し訳なさそうするので、私はデコピンを一発お見舞いする。

「いてっ」
「何辛気臭い顔してるの、母さんはあんた達の面倒見るのが好きなんだから、そんな申し訳なさそうにするんじゃないのよ。普段忙しくて、全然世話焼けないんだから、こういう時くらい、世話焼かせなさいよ!」
「はは、ありがとう。そうだ、そいつは俺が、ベッドまで運ぶよ」
「え? 大丈夫なの?」
「もうだいぶ良くなったしね。それくらいなら」
「ならお願いしようかな? もう大きくなっちゃって、私では運べないから」
「了解、よいしょ、っと、でかくなったなぁ本当に」

 起き上がって娘を抱き上げる息子を見て、

「あなたもね」

 と笑う私だった。
 なんだかんだ、楽しく忙しい、休日だったな。
 次はいつ休めるのやら……
 そのときは、元気な息子たちに会いたいものである。

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