【短編】七夕の宴の夜に。【今日は何の日 : 0707 七夕の日】
なんといっても、今日は七夕だ。
織姫と彦星が年に一度の逢瀬に興じる日。
遠距離恋愛の恋人同士の唯一のデートの日を、みんなで眺めるなんて、正直どうかと思うけれど、天気が良くて天の川が見えたりすると、やっぱりテンションが上がるのが七夕だと思う。
「お兄ちゃん、それどこから取ってきたの!?」
「人聞きの悪いこと言うんじゃありません。これはご近所さんから頂いたのであって、泥棒してきたわけではない」
「笹くれるご近所さんって……」
「ほら、坂の上の豪邸の……深山さんちだよ。あそこのお宅、お庭に笹林あるんだと」
「流石は大企業の社長さんちだねぇ……」
「違いない」
家に返ってきたお兄ちゃんが、笹の木を一本もって帰ってきたので、ベランダに立てることにした。
お兄ちゃんが夕飯の支度をしている間に、私は七夕飾りを作って、この笹の木をデコレーションする仕事を仰せつかったのだった。
それにしても、坂の上の深山さんちはいつ見ても大きい。
ベランダからだと、丁度その全容を見ることが出来るのだが、もう簡単に言えばホテルのサイズだ。
建物から、庭から、スケール感が舞浜の某アミューズメントリゾートにあるホテル達のサイズなのだ。
お兄ちゃんは、あそこの家の人と友達らしいので、たまにパーティーとかにもお呼ばれするらしいのだが、某有名アイドルとか、某有名小説家とかがゴロゴロ集まるらしい。
いつか私も行ってみたいと思うのだが、流石に無理だろうな……。
行けるとしたら、お兄ちゃんの付き人としてだろうか?
「でも、七夕飾りって、なんだかんだカワイイの多いよね?」
屏風のように折った折り紙に交互にハサミを入れて作る、編みのような飾りとか。
短く切って筒状にした紙に、元の大きさの真ん中にいくつか切り込みを入れて貼り付ける、ぼんぼり飾りとか。
ぼんぼり飾りの外側を斜めに巻いて貼り付けて作る、巻き貝の飾り物とか。
あとは定番の輪飾りもやっぱり可愛い。
今考えると、結構インスタ栄えしそうな、手作りできる飾りが多い気がするのだ。
「短冊もカラフルでかわいいし……七夕って、結構可愛いかも?」
といっても、幼稚園のとき以来、こんなにガチで笹の木を用意して、七夕飾りを作ったりしてこなかったので、こうして今日、改めて作ってみて、その可愛さに気付いた感じだ。
試しに、作った七夕飾りをアップしてみたら、結構な数のいいねを獲得することができた。
七夕、半端ないって!
というやつだろう。
「さて、短冊も準備できたし、お兄ちゃんにも書いてもらうかな」
ふと、二人だけの短冊ではさみしい気がして、お母さんや友達にも、LINEで『短冊代行して作るから、お願い教えて』と送ってみた。
しばらくしたら、何人かから返事が来るであろうことを期待して……。
「おにーちゃーん!!」
私は、何枚かの短冊をもって、台所で七夕ディナーを用意しているお兄ちゃんの元へと走った。
「こら! 家の中を走るんじゃない!」
「はぁーい……短冊、お願いする?」
「おお、書かなきゃな……」
「うん、書いて書いて!」
丁度料理が終わったらしいお兄ちゃんと一緒に短冊を書いていると、お母さんから返事が来た。
「あ……」
「どうした、妹よ」
そこで思い出す。
「今日、お母さん帰ってくるって!」
「……マジか?」
「うん、昨日言われてたのわすれてた……てへ!」
昨日のお母さんとのやり取りを思い出した。
「ご馳走作っておけって」
「奇跡的に、ご馳走作ってるな……」
「流石、できるお兄ちゃん!!」
「まぁな!! ……って、おい!!」
「ごめんてばぁ!!」
LINEによると、もう一時間もしないで、お母さんも帰ってくるらしい。
「そしたら、少しだけ料理を作り足しておくか……」
「あ、私も手伝う!!」
「大丈夫です。お前が手伝うと邪魔になるからね」
「ひどい! ……まぁ、事実だと思うけども……」
「いや、否定しろよ……嫁の行く宛がなくなるぞ?」
「いいもん、お嫁に行かないから!! やったね、お兄ちゃん! 私がずっと一緒にいてあげるよ!!」
「嬉しいけど、悲しいこと言うんじゃありません!!」
「あはは、嬉しいんだ!!」
気持ち、お兄ちゃんも私もテンションが上がっているのは、やっぱりお母さんが帰ってくることがわかったからだと思う。
もう、私もお兄ちゃんも、そこそこに大人ではあるものの、やっぱり、お母さんは大好きなのだ。
それこそ、仕事が忙しすぎて、一年に何回かしか会えないってことを考えると、織姫と彦星に匹敵する頻度かも知れない。
……いや、流石に年一は言いすぎかな?
なんにしても、今夜の七夕パーティーは、久しぶりに我が家のフルメンバーで、大騒ぎができそうだ。
そう思うと、なんだかより一層、楽しみになる私だった。
さて、七夕の短冊には何を書こうかな……。
『織姫と彦星が、末永く幸せに暮らしますように』
この願いだけは、毎年、私は書くようにしているのだが……。
あとは、その年の気分なのだ。
そうだ、あの願いを書いてみよう。
そう決めて、私は短冊に願いをしたためるのだった。
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