【短編】 冬のお祭り 【即興小説トレーニング 妹シリーズ】

 ひょっとこのお面を付けてはしゃぐソイツは、楽しそうに少し遅い村の祭の縁日の間を駆け回って、楽しそうに笑っていた。
 休暇を利用して、今は亡き父の故郷に遊びに来た俺とソイツは、祖母に勧められて、その村の祭りに行くことにした。
 季節はずれのお祭りは、旧正月を祝うためのものだとかで、毎年二月にあるのだという。
 たまたまこんな中途半端な時期に休みが取れたので、こうして来てみたが、やはり都会と違って、祭りに集まる人間の数も、だいぶ少ない。それこそ、年頃の女の子なんて、ソイツくらいで、後はもっと小さな女の子や、その女の子たちの母親世代しかいない。
 そういう相手を探しに来たわけではないのだが、そういう年頃の女の子がいないことは、やっぱり少し残念に感じた。
 俺も、まだまだ、若いということなのかも知れない。
 取り敢えず、懐かしさに任せて、ラムネを買ってみたが、この甘い炭酸水の味は、懐かしいけれど、少々甘すぎる。
 飲みきれなくて持て余していると、

「それ、いらないの?」

 と、近寄ってくるソイツに、無言でうなづくと、

「じゃあ、もーらい!!」

 なんて、楽しそうに俺の手からラムネのびんをかっさらっていった。

「ぷはぁーっ!!」

 そのまま一気に飲み干して、まるでおっさんがビールを飲み干した時のように、思い切り息を吐きだして、気持ちよさそうに叫ぶ。

「この一杯のために、生きてるぅーっ!!」

 絶対にそんなことはないと思いつつ、そんな楽しい姿を見つめて、こちらも少し楽しい気持ちになって来た。

「それ、いいのか?」
「なにが?」
「だってほら、飲み口も拭かずに飲んだからさ」
「はぁ?」

 からかってやろうと思って、そんな事を言ってみたが、言っているこっちが恥ずかしくなってきた。

「か、間接、き、キスじゃないのか? って」
「かっ!?」

 だが、俺のその言葉を聞いて、真っ赤な顔をするソイツは、やっぱりからかうと面白い。

「ば、ばっかじゃないの? バカじゃないの? な、なにいってんのよ、お兄ちゃん! 本当にもう、子供なんだから!!」

 絶対にソイツの方が子供なのだが、そう言われれば、確かにそんなくだらないことを言っている俺は、確かに子供っぽいのかも知れないな。

「第一、私とお兄ちゃんは、きょ、兄弟じゃん!」
「ごもっともだな」

 ソイツがそういうように、俺とソイツは兄妹だ。
 でも最近、ソイツがそっち系のネタでからかうと反応が面白いことを見つけて、面白半分でからかっているのだが、本当にもう、面白い反応をするのだ。
 我が妹ながら、可愛いやつである。
 そんなコイツにも、そろそろ彼氏の一つでもできるのでは? と思うと、ほんの少し面白くない気もするが……
 そもそも、コイツのわがままは筋金入りなので、相当のやつでないと受け入れられないかも知れない。
 まぁ、それはまた、当分先になりそうだが、いつかそんな日が来たら、俺は、笑顔でこいつを祝福したいと思う。
 そんな日が、来たらの、話だが。

 田舎の祭りの夜はふけていく。

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