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日本を教育に投資できる国にするために

株式会社Libry(リブリー)代表の後藤匠です。

教育って、
みんな口を揃えて「超大事」というのに、
みんな口を揃えて「予算がない」って言いますよね。

それは、自分も教育サービスを開発している中で強く感じるところです。

そこで、今回は、今どういう状況にあり、自分はそれに対してどうしていきたいと考えているかについて、書いていきます。

後藤のブログを読むうえでの諸注意は下記ブログを御覧ください。
(間違えた認識等があったら優しく指摘して欲しいという趣旨です)

公的資金が投入されづらい日本の公教育

まずは「日本の公教育はお金がないのか」について見ていきましょう。

これは、OECD諸国と比較して確認してきましょう。
OCEDが毎年教育に関する国際比較の結果をまとめている「Education at Glance 2023」を見てみると、日本の、GDPに対する初等中等教育への支出割合は、OECD諸国で36ヶ国中33位タイと低水準でした。(PDF P.296 tableC2.1.より)

「教育機関への総支出のGDP比(2020年) 」(Libry作成)

これは、社会制度や、国の人口の年齢別構成比や経済力等の個別事象によるものも大きくあると思いますが、客観的に見て日本における公教育への投資は大きいとは言えないでしょう。

これも雑な計算ですが、日本のGDPにおける教育投資比率をOECD平均まで引き上げたとします。
日本の初等中等教育への投資比率が2.7%で、OECD平均は3.6%です。2022年の日本の名目GDPが566.5兆円なので、日本の初中等教育にかける予算は1.3倍になり、約5.1兆円増える計算になります。

一方、PISAの調査ではOECDトップの成績

文科省・国立教育政策研究所がまとめた「PISA2022のポイント(2023年12月5日)」によると、日本のPISA調査の結果は素晴らしいものでした。(自律学習を行う姿勢の低さなどの重要な課題はありつつ…)

OECD加盟国内において、日本は「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」でトップ、「読解力」は2位でした。

3分野の得点の国際比較

また、「社会経済公正性」についても、日本は格差に対して数学的リテラシーのばらつきが小さく、得点の高い国であり、これは「公教育の力」だと言って過言ではないと思います。

生徒の「社会経済文化的背景」(ESCS)と数学的リテラシーの平均得点との関連

小さな投資で、高い成果が得られているが…

「小さな投資で、高い成果が得られている」ということは、投資としては素晴らしい成果と言えます。

しかし、みなさんお気づきだと思いますが、それは「学校の先生の献身的(言い換えれば、自己犠牲的)な努力の上に成り立っているもの」だと言えます。

現場の先生の長時間労働は改善されつつも、文部科学省の教員勤務実態調査(2022)を見ると、いまだ長時間労働です。下記の図を見ると、こういう分布なんだな…くらいにしか思えませんが、

1週間の総在校等時間の分布 教諭(P.15)

そこに、月80時間の過労死ライン(1時間の休憩が取れている前提で、9時間✗5日=45時間/週 + 20時間/週 = 65時間以上)を引いてみると、その恐ろしさに気づきます。(さらにこれに持ち帰り業務が上乗せされているという…)

私は、「投資が小さく」「成果が大きく」「労働環境が過酷」という状況は、正常でないと感じます。また、日々の業務が忙しい中で、ICT等で教育の在り方を変えようとしても、多くの先生にとって、そこに取り組む余白がないという状況があるのではないでしょうか。

そのため、現職の先生方のWell-Beingのためにも、「令和の日本型教育」の実現のためにも、やはり「公教育にもっと日本は投資すべきである」と考えています。(さらに言うと、教育マーケット自体をもっと大きくして、新規参入とかが増やせるような土壌が欲しいです)

とある教育委員会に言ったときの出来事

数年前、ここ最近ほど「教員の働き方改革」がホットな話題になっていなかった頃の話です。とある教育委員会に伺い、「教員の働き方改革」について意見交換をしました。

担当者の方は、過労死ラインを超えて働いている先生がたくさんいる実態は把握されていたのですが、「教員には残業代が発生しないので、教員の働き方改革を進めたところで、コスト削減にはなりませんし、予算はつきませんよ」とあっけらかんと言われたことがありました。

公的資金には限りがあることは当然理解しつつも、過労死ラインを超えて働いている状態は、命にかかわる問題でもあるので、そんなに簡単に言われてしまうものなのかと悔しく悲しい気持ちになりました。(当然、全ての自治体がそう思ってるわけではありませんし、素晴らしい担当者や素晴らしい取り組みをされている自治体はたくさんあることは理解しています!)

一方で、「働き方改革」を「コスト削減」という経済的な観点のみで見てしまうと、そういう判断になってしまうことも理解できます。
特に行政という性質上、「感情」で政策意思決定すべきではなく、効果を客観的に説明したり、公平に評価できるようにすることも重要です。

「社会にいいこと」を測る

だったら、その「社会にいいこと」の度合い(=社会的インパクト)を計測できるようにしたら、「社会にいいこと」を感情ではなく、理性(ロジック)で評価することができるようになります。

さらに、各サービスが「どれだけ使われているか」でなく、「どういう効果(=社会的インパクト)があったか」について、導入目的に合わせて評価することができるようになります。それは、より良い施策やサービスを選択するための根拠となります。

また、政策の目的を達成するために、そのサービスがいかに有効かを説明できるようにすることによって、「短期的に効果が見えづらく、必ずしも直接的に経済的価値に繋がるものではない"教育"」に投資しやすい環境を作っていきたいんです。

日本を"教育に投資できる国"にするために

Libryは今回、一般社団法人インパクトスタートアップ協会(ISA)という協会に第4期生で加盟しました。(協会の概要は最下部)

インパクトスタートアップ協会

その目的は、大きく2つあります。

目的1)インパクト評価に対する知見を得る

Libryは「一人ひとりが自分の可能性を最大限発揮できる社会」を目指して、まっすぐ経営してきました。しかし、インパクト評価に対してほとんどリソースを割けておらず、インパクト評価自体の知見は十分ではありません。

インパクト評価を行っている先輩企業の知見を借りながら、自分たちの考えている社会的インパクトを見える化していこうと考えています。

(おまけの話題)
後藤は東京工業大学の学部生時代には、計量経済学という分野を専攻していました。下記のような論文を書いて、公共政策(液状化現象が起きないようにする地盤工事)によってどれくらいの社会的便益が生まれるかの計測を行っていたので、インパクト評価には元々興味があったのですが、これまで着手できていなかったんです…

ヘドニック法を用いた災害前後でのリスク認識の変化に関する研究-東日本大震災前後での東京区部の液状化リスク認識について

目的2)仲間をつくり、教育政策におけるインパクト評価を文化にする

また、教育行政において、「子どもたちが志を持てるようになること」「子どもたちが失敗を恐れず挑戦できるようになること」「教員の業務負荷軽減」などの計測方法を確立し、それらがこれからの日本にとっていかに重要な要素であるかを示す構造モデルをつくりたいと考えています。

そうすることで、教育行政において、「目指すアウトカム(=目標)を明らかにし、それを計測しつづける文化(EBPM)」を根付かせたい。(内閣官房からもEBPMを進めるためのガイドブックが公開されています)
それにより「要求した機能を持つ、もっとも安価なサービス」などではなく、ソーシャルインパクトが高いサービスを選択できるような教育業界を作っていきたいと考えています。(=価値のあるサービスを選べるようにする

また、それらのインパクト指標が日本の将来の財政等に与える影響を構造モデル化し、「子どもたちが未来に希望を抱き、挑戦ができる世界」に対して、行政が大胆に投資できる"合理性"を作ることに挑戦していきたいと考えています。(=日本が教育に投資できるようにする)

それらは、ベンチャー企業1社でやりきれる社会変革ではありません。そのため、ISAに所属する志高い企業やISAを応援しようとする行政機関や国会議員さんなどと連携し、そんな世界を目指していこうと、ISAへの加盟を決めました。

さいごに

自分の事業のこともあり、100%の時間をこの領域に割くわけにはいきませんが、しっかりと教育におけるインパクト評価の文化づくりは進めていきたいと考えています。

同じ志の仲間を集めて、情報交換したり、連携していきたいです。
今回のブログに興味を持っていただいたり、共感していただいた方は、ぜひブログをシェアしていただいたり、仲間になっていただき、アクションを起こしていけると嬉しいです!(企業関係者、研究者、議員さん、どなたでも!)

【補足】インパクトスタートアップ協会(ISA)について

せっかくなので、インパクトスタートアップ協会の概要を最後に掲載しておきます。

インパクトスタートアップは、「社会課題の解決」と「持続可能な成長」の両立を目指す企業体を指します。ISAは、インパクトスタートアップエコシステムを構築し、持続可能な社会の実現することを目的とし、2022年10月14日に設立いたしました。
政財官と協働し、より良い社会を創出するためのポジティブ・インパクトを与えるスタートアップが数多く生まれ、継続的に成長していく環境を作ることを目指し、「共有」「形成「提言」「発信」の4つの柱で活動を実施しています。現在、協会のパーパスに共感し正会員として活動を共にするインパクトスタートアップ企業は138社、活動趣旨に賛同いただきインパクトエコノミーの拡張を支援する賛同会員企業は、日系・外資系企業を含め11社となりました。

■団体概要
・名称:一般社団法人インパクトスタートアップ協会(Impact Startup Association)
・所在地:〒102-0082 東京都千代田区一番町8 住友不動産一番町ビル 7階
・公式サイト:https://impact-startup.or.jp/
・公式note:https://note.com/impact_startup
・問い合わせ先:info@impactstartups.jp


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